朗読劇/黄泉返り イザナギとイザナミ
天地(あめつち)のはじまりの時のことです。
神々が、お成りになりました。
♪〜〜♪
高天原(たかまがはら)に成りませる神の名は、
♂ 天御中主(あめの-みなかぬし)の神。★
♀ 高御産巣日(たかみ-むすび)の神。★
♂ 神産巣日(かむ-むすび)の神。★
この三柱(みはしら)の神は、みなひとり神でいらっしゃり、
そのまま、おん身を隱されました。
♪〜〜
やがて、国がまだ、浮かべる脂(あぶら)のごとく
くらげなす漂える時に、
葦牙(あしかび)のように萠えあがったのは、〜〜♪
♂ 宇摩志阿斯訶備比古遲(うまし-あしかび-ひこぢ)の神。★
♀ 天の常立(あめの-とこたち)の神。★
この二柱(ふたはしら)の神もまた、ひとり神でいらっしゃり、
そのまま、おん身を隱されました。
これら、五柱の神は別天つ神(こと-あまつかみ)といいます。
次に成りませる神の名は、
♂ 国の常立(くにの-とこたち)の神。★
♀ 豐雲野(とよ-くもの)の神。★
この二柱の神もまた、ひとり神でいらっしゃいました。
次に成りませる神は、ご夫婦の神です。
♂ 宇比地邇(うひぢに)の神と、
♀ 妹須比智邇(いも-すひぢに)の神。
♂ 角杙(つのぐひ)の神と、
♀ 妹活杙(いも-いくぐひ)の神。
♂ 意富斗能地(おほ-とのぢ)の神と、
♀ 妹大斗乃辨(いも-おほ-とのべ)の神。
♂ 於母陀琉(おもだる)の神と、
♀ 妹阿夜訶志古泥(いも-あや-かしこね)の神。
そして、とうとう、二柱の美しい神が、
お成りになられたのです。
♂ われは、伊耶那岐命(いざなぎの-みこと)なり。
♀ われは、伊耶那美命(いざなみの-みこと)なり。
♪〜〜
♂ 神さまが成られた!
♀ 世界の中心になる神さまが! 神さまが成られた!
♂ 神々の世界の 力の源となる神さまが!
神さまが成られた!
♀ 人間世界の 力の源となる神さまが!
神さまが成られた!
♂♀ 神世(かみよ)七代(ななよ)の神さまが!〜〜♪
イザナギとイザナミは、天つ神から、
「この大地をしっかりと固めなさい」と命じられ、
「天沼矛(あまの-ぬぼこ)」という矛をさずかりました。
そして、天の浮き橋のうえに立ち、
はるか下界に矛をおろして、
ゆっくりゆっくり、かきまわしました。
♪〜 ♂こおろ ♀こおろ ♂こおろ ♀こおろ… 〜♪
♪〜 ♂ぽたーり ♀ぽたーり ♂ぽたり ♀ぽたり… 〜♪
矛を引きあげると、塩がしたたりおち、
つもりつもって 島になりました。
それが、おのごろ島。
この大地の はじまりの島です。
イザナギとイザナミは、おのごろ島に降りたちました。
そこには、天までとどく大きな柱と、
りっぱな家とがありました。
イザナギが、イザナミにたずねました。
♂「おまえの体は、どんなふうにできているのだね」
♀「わたしの体は、なりなりて、
なり足らないところが一つ、あります」
♂「そうか。わたしの体には、なりなりて、
なり余ったところが一つある。
どうだ。わたしの余ったところで、お
まえの足りないところをふさいで、
ふたりで、大地を生もうではないか」
♀「まあ。それは、よいことですね」
二柱の神は力をあわせ、大地をつくることにしました。
♂「それでは、まず、この柱を、まわろうではないか。
おまえは右からまわりなさい。
わたしは左からまわろう」
イザナギとイザナミは、
柱をぐるっとめぐり、であいました。
♀「ああ、なんと、いとしい おのこでしょう」
♂「ああ、なんと、いとしい おとめだろう」
♀「あなにやし、えおとこを」
♂「あなにやし、えおとめを。
……うーむ。
女から先にいうのは、どうもよくないな」
イザナギは、そうつぶやきましたが、
そのまま、イザナミと結ばれました。
♪〜〜♪
やがて、子どもが生まれました。
♀「あら、この子は、ぐにゃぐにゃと、
まるでヒルのようです」
♂「これは、ヒルコだ。
葦の舟にのせて、海に流してしまおう」
次に生まれた子は、アワシマ。
♀「おや、この子もふわふわしていて、
まるで泡のようです」
♂「これは、アワシマだ。ああ、形をなさない」
♀「どうして、うまくいかないのでしょうか」
♂「天つ神にきいてみよう」
イザナギとイザナミは、天にのぼりました。
神々は、占いをしてくれました。
鹿の肩の骨を焼き、その割れ目の形を読んだのです。
「これは、女からさきに声をかけたのが、
よくなかったのです。
もういちど、やりなおしてごらんさい」
イザナギとイザナミは、島にもどり、
ふたたび柱をめぐりました。
♂「ああ、なんと、いとしい おとめだろう」
♀「ああ、なんと、いとしい おのこでしょう」
♂「あなにやし、えおとめを」
♀「あなにやし、えおとこを」
二柱の神はめでたく結ばれ、
たくさんの子どもが生まれました。
♂ まず生まれたのは、淡路島。
♀ つぎに、一つの体に四つの顔のある四国。
♂ つぎは、隱岐(おき)の三つ子の島々。
♀ つぎに、一つの体に四つの顔のある九州。
そして、壱岐(いき)の島を生み、
対馬を生み、佐渡島(さどがしま)を生み、
最後に豊秋津島(とよあきつしま)と
呼ばれる本州を生みました。
この八つの島を、大八島といいます。
♂ それから、瀬戸内海の小島を生み
♀ 西の海の島々を生み、
イザナミは、国々を生みおわりました。
イザナミは、さらに、
さまざまな自然の神を生みました。〈踊り〉
♪〜 ♂ 石の神
♀ 木の神
♂ 水の神
♀ 風の神
♂ 海の神
♀ 山の神
♂ 野の神 〜〜♪
そして、天鳥船の神を生み、食べ物の神を生み、
しまいに、火の神カグツチを生んだのです。★
♪〜〜 ♀「あ、熱い、熱い。助けて、助けてください」〜♪
〈踊り〉
カグツチは、
ごうごうと燃えさかる炎に包まれて生まれてきたので、
イザナミは、死ぬほどの大やけどをおってしまいました。
苦しがって吐いたものから、金属の神が生まれ。
うんちからは粘土の神が、
おしっこからは水の神と食べ物の神とが生まれました。
大地に最後の贈り物をして、
イザナミは、とうとう亡くなってしまいました。
♂「イザナミーっ」
♪〜〜♪
イザナギのなげきは、ひととおりではありません。
♂「ああ、なんということだ。
たった一人の子どものために、
いとしい妻が死んでしまうとは」
イザナミの枕元につっぷし、
足元につっぷして、泣きに泣きました。その涙から、
ナキサワメという神が生まれたほど、泣きくれました。 〜〜♪
♂「ええい、カグツチ。
いとしいイザナミを
こんなめに合わせるとは、許せない。
おまえなど、こうしてくれる!
えーい、えい、えいっ」
★★★★★★★★★★
あまりの悲しみに、気がふれたようになったイザナギは、
にわかに十挙の剣を抜くと、息子のカグツチの首を、
ばっさりと、切り落としてしまいました。
刀についた血が飛びちり、八柱の神が生まれました。
飛び散った肉からも、さまざまな神が生まれました。
♪〜〜
イザナミのなきがらは、比婆(ひば)の山に、葬られました。
ところが、イザナギは、
どうしてもイザナミをあきらめきれません。
そこで、死者たちのすむ黄泉の国まで、
はるばる、旅をしました。〜〜♪
やっとのことで、黄泉の国についたものの、
イザナミは、なぜか、戸を開けてくれません。
♂「イザナミよ。ああ、いとしいイザナミよ。
おまえとともに作ろうとした国は、
まだ、できあがっていない。
さあ、わたしといっしょに、戻って、国を作ろう」
♀「イザナギさま。
どうして、もう少し早く
きてくださらなかったんですか。
わたしはもう、
黄泉の国のかまどで煮炊きしたものを、
食べてしまいました。どんなに戻りたくても、
もう、戻ることは、できないのです」
♂「ああ、そんなことをいわずに、
どうか、わたしといっしょに帰っておくれ」
♀「わたしだって、帰りたいんです。
あなたのもとへ帰りたい」
♂「ならば、さあ」
♀「ああ、そこまでいってくださるなら、
黄泉の国の神さまにお願いしてみましょう。
お許しいただけるかどうか、わかりませんが、
心からお願いしてみます」
♂「頼む。そうしてくれ」
♀「けれども、一つだけ、
お約束していただきたいことがあるのです」
♂「なんだ? おまえのためなら、なんでも約束する」
♀「わたしがいいというまでは、
ぜったいに、わたしを見ないでください」
♂「わかった、約束する」
♀「絶対ですよ」
♂「ああ、わかっているとも。
さあ、早く、早く行ってお許しを得ておいで」
♀「お願いですから、約束を守ってくださいね」
♂「もちろんだ。さあ、早く行っておいで」
イザナギは、暗闇で、じっと待ちつづけました。
約束を守って、身じろぎもせずにいました。
あたりはしいんとして、物音ひとつしません。
いくら待っても、イザナミは戻ってきません。
イザナギは、だんだん心配になってきました。
そこで、小声でそっと呼んでみました。
♂「イザナミ、イザナミ。そこにいるのか」
しかし、返事はありません。
♂「イザナミ、イザナミ。いるなら応えておくれ」
やはり、返事はありません。
♂「イザナミ、イザナミよ、どこへ行ってしまったんだ」
だんだん溜まらなくなってきました。
♂「ああ、イザナミ。イザナミ。
黄泉の国の神は、許しをくれたのかい?
わたしといっしょに、帰れるんだろう?
そうだろう、イザナミ。
お願いだ、返事をしてくれ」
がまんがならなくなったイザナギは、とうとう
みづらに結った髪にさした櫛の歯を一本折ると、
火を灯し、そっと、なかを、のぞいてみたのです。
♂「う、うわーっ」
なんということでしょう。
いとしいイザナミの体には、うじ虫がたかり、はいまわり、
頭には大(おお)雷(いかづち)が ★
胸には火(ほ)の雷が ★
お腹には黒(くろ)雷が ★
股には拆(さく)雷が ★
左手に若(わき)雷が ★
右手に土(つち)雷が ★
左足に鳴(なる)雷が ★
右足に伏(ふす)雷が ★
蛇のようにとぐろを巻き、のたくり、うごめいているのでした。
♪〜〜♪
♂「た、助けてくれーっ」
イザナギは、おもわず逃げだしました。
イザナミが、追いかけてきます。
♀「こらぁ、イザナギーっ!
よくも、わたしに恥をかかせたなぁ」
醜い小人の女たちも、わらわらと、たくさん追いかけてきます。
黄泉醜女(よもつ-しこめ)です。
♪★♪★♪★♪〜
◎「待てぇ」
○「待てぇ」
◎「こら、待てぇ」
○「こら、待てぇ」 〜♪
♂「なんだ、来るな、来るんじゃない。
ええい、これでも食らえっ!」
イザナギは、走りながら、
みづらの髪飾りをとって、投げつけました。
すると、それは山ぶどうのつるになり、
みるみる、たわわに実を実らせました。
♪★♪★♪★♪〜
◎「わあ、ぶどうだ、ぶどうだ」
○「あまいぶどうだ」
◎「おいしい、おいしい」
○「うまい、うまい」 〜♪
醜女たちは夢中になって食べました。
けれど、食いつくすと、また追いかけてきました。
♀「待てーっ、イザナギーっ」
♪★♪★♪★♪
♂「ええい、こんどは、これだぁ!」
イザナギは、走りながら、
櫛の歯を折って、投げつけました。
すると、地面からにょきにょきと、
タケノコがはえてきました。
◎「わあ、タケノコだ、タケノコだ」
○「やわらかなタケノコだ」
◎「おいしい、おいしい」
○「うまい、うまい」
醜女たちは夢中になって食べましたが、
食いつくすと、また追いかけてきました。
♀「待てーっ、イザナギーっ」
♪★♪★♪★♪
やがて、おそろしい地響きが近づいてきました。
♂「な、なんだ、あれは。雷神(らいじん)だ。
雷神たちが、黄泉の国の軍隊を引き連れている。
なんという数だ!」
追手は、もうすぐそこまで、せまっています。
♂「やめろ、寄るな。来るんじゃない」
イザナギは、十挙の剣(とつかのつるぎ)を抜き、
後ろ手に振りまわしながら逃げました。
♀「待てーっ、イザナギーっ」
♪★♪★♪★♪
ようやく、黄泉比良坂(よもつ-ひらさか)にたどりつくと、
一本の木が生えていました。
♂「ああ、これは桃。ありがたい。魔を祓う桃の実だ」
イザナギは、その実を三個、もぎとると、
兵士たちに、思いきり投げつけました。
♂「食らえーっ!」
すると、兵士たちはみな、闇に吸いこまれるように、
坂を転がりおちていきました。
★★★
♂「ああ、助かった。おや、あれは……」
♀「待てーっ、イザナギーっ」
♂「なんということ。あれが、わが妻か。
ほんとうにそうなのか」
♀「待てーっ、イザナギーっ」
イザナミが、坂をすごい勢いでかけのぼり、
みるみる近づいてきます。
♂「そうだ。これで道をふさごう」
イザナギは、岩を動かそうとしました。
♂「え、えーい。えーい」
しかし、千人がかりで動せるかどうかという大きな岩は、
なかなか動きません。
♀「待てーっ、イザナギーっ」
あとすこしで、イザナミが追いつくというそのときに、
岩は、ごろりと転がって、
黄泉比良坂(よもつ-ひらさか)をふさぎました。★★★
岩のむこうで、イザナミが、
じだんだ踏みながら、叫びました。
♀「ああ、くやしい。くやしい。
いとしい夫が、わたしに、こんなことをするなんて。
許さないぞー、イザナギーっ」
♂「ああ、なげかわしい。
いとしい妻が、あんな姿になってしまうとは。
なんという、おそろしいことだ。
わたしの知っているやさしくて美しいイザナミは、
どこへ行ってしまったのか」
♀「なにを勝手なことを。あれほど固く約束したのに、
約束を破ったのは、イサナギ、おまえではないか。
あと少し、あと少しで、
黄泉の国の神のお許しを得られるところだったのに。
昔の姿のままで、甦ることができたのに。
ああ、くやしい。ああ、なさけない」
♂「去れ! おまえなどもう、見たくない。
黄泉の国へ帰れ!」
♀「ひどい。なんてことを。
それならば、こうしてくれる。
きょうからわたしは、おまえの国の民を、
一日に千人ずつ、くびり殺してやろう。
毎日、毎日、千人、くびり殺してやろう」
♂「ああ、なんというおそろしいことを。
それならば、
わたしは、一日に千五百の産屋をたてよう。
毎日、毎日、新しい命が生まれるように。
枯れてゆく命にかえて、
みずみずしい命が生まれおちるように」
♪〜〜
そのときから、この国では、一日に千人が死ぬと、
千五百人が生まれるようになり、
大地には、命が咲き誇り、
華やかに富み栄えるようになったのです。 〜〜♪
♪〜〈書のパフォーマンス〉〜♪
そらみつ大和は、まほろばなり。
言霊さきわう、うまし国なり。
そらみつ大和は、まほろばなり。
音霊さきわう、うまし国なり。
そらみつ大和は、まほろばなり。
命さきわう、うまし国なり。
<鈴の音>
言霊よ、音霊よ、守りたまえ、さきわえたまえ。
言霊よ、音霊よ、守りたまえ、さきわえたまえ。
言霊よ、音霊よ、守りたまえ、さきわえたまえ。
♂ イザナギ役
♀ イザナミ役
♪〜♪ 音楽
★ 打楽器