PRINTER’S RESOURCE プリンターズリソースマテリアルがもつ存在感や表現者を支える技術について、共有すべきリソースを発信します
今回のプリンターズリソースでは、資生堂が発行しているフリーペーパー『SHISEIDOTHE GINZA NEWS』を取り上げる。フリーペーパーという媒体の特性上、街でパッと目に飛び込んでくるような鮮やかな印刷が求められた今回。特色を使用したり、製版方法を変えるなどといった特殊な加工を取り入れず、通常と同じインキや製版方法を用いながら鮮やかな印刷を、という先方デザイナーからの要望をプリンティングディレクターはどのようにクリアしたのか。
今回使用することになったのは『HS ホワイトソフト』という、少しざらっとした柔らかい風合いのある紙だった。この紙は、このフリーペーパーの創刊時に「新聞っぽい仕上がりにしたい」というデザイナーの希望から選択されたのだが、印刷再現性が高くないため、鮮やかな印刷をするには適さない用紙であった。
HSホワイトソフト表面がざらっとした素朴な質感で、手触りがよい
嵩高紙
今回使用した『HSホワイトソフト』のような質感の紙は、嵩高(かさだか)紙と呼ばれており、紙の製造工程で薬品を使いパルプの結合をよくしてふっくらさせることで、独特の柔らかく軽い風合いを生み出しています。紙の厚さがあるため、印刷が裏うつりするのを防ぎやすいほか、少ないページ数でも束を出すことができるため、書籍の本文用紙としても人気があります。
「デザイナーの成田さんから紙の指定を受けたとき、インキが平滑に乗りづらく色が沈みがちな紙であることを懸念しました。そこで、インキがしっかりと定着するよう印圧を上げ、発色がよくなるようにインキを盛る量も増やして印刷を進めています。しかし、初校では色のボリューム感やトーンはしっかりしているものの、暗くくすんだような印象を与えてしまい、先方の求める強い色やエネルギー感のあふれるビジュアルには至りませんでした。特に、モデルの肌は、もっと透明感を出して欲しいとのご要望を受けました。」
肌の透明感を強調するならば、光沢のあるコート紙を使って印刷するのが一般的で、今回のように風合いのある紙では必要な彩度は到底得られない。そこで、単純に彩度を調整するのではなく、肌やモノのCMYKのトーンを個別に切り分け、それぞれのトーンに対して色を感じる中間部分や透明感を感じるハイライトの広がり方が実際の印刷彩度以上に際立って見えるように調整し、全体観や雰囲気で強い色とエネルギーを感じさせるという方法を取った。
『ギンザドキドキ』表紙。左が初校で右が最終校。
モデルの肌を見比べると、鮮やかさが全く違うことがよくわかる
印刷のにごりは、基本的には色味をつくるCMYの3色のインキのうち、必要色と反対色のバランスでコントロールする。例えばMとYを混ぜてできる色のにごりは、反対色のCが原因となっていることが多いため、製版時にこのCの要素を減らしたりMとYの要素を増やしたりすることでにごりを抑えることができる。
しかしその際、単純に反対色を減らすだけだと、トーンが平坦になりべったりした印象のビジュアルになってしまう。そこで、人やモノの影の芯にあたる最暗部においては、反対色をしっかりと残して絵柄全体にメリハリ感を出しつつ、中間部の鮮やかさが際立つように対比関係を作っていく。このトーン調整作業を、肌をはじめビジュアルの構成要素1つ1つに対して行っていった。
着物部分の拡大。初校で右が最終校。
右は左に比べてCの要素がを減らし、MとYの要素を増やしたため、より鮮やかになっている
また、肌の輝くような透明感をつくるため、通常トーン保持のため網点を残しておくようなハイライト付近の領域ぎりぎりまで網点を取り去り、何も印刷していない紙地をそのまま使用。「印刷をしない」という究極の方法で先方の要望をクリアした。
『ギンザドキドキ』中面。左が初校で右が最終校
モデルの肌の拡大。上の画像に比べ下の画像は、Mの要素を引いているため、背景の黄色や
肌の色味がクリアになっている。ハイライト部分は紙そのままの白が使われている
「今回の仕事は、紙は少しクセのあるものでしたが、通常のインキを使い通常の製版方法で印刷した本当にオーソドックスな仕事です。けれど、資生堂のデザイナーさんの美しい表現とコンセプトを追求する心意気に支えられて、印刷再現性の高くない用紙で鮮やかな色彩表現をするという、相反する調子再現をクリアできました。このようにこだわりを持った方とお仕事できることは、プリンティングディレクターとしてありがたいことです。これからも、そういった方々のオーダーに応え、よりよいものをご提供できるよう、さらなる技術や審美眼を鍛えていきたいですね。」
SHISEIDO THE GINZA NEWS
「ギンザドキドキ」
サイズ
A4/8ページ/二つ折り
インキ
シアン/マゼンタ/イエロー/スミ
(東洋インキ製造株式会社)
用紙
HS ホワイトソフト/A判46.5kg
(北越紀州製紙株式会社)
スクリーン線数
175線
アートディレクター
成田久(資生堂)
長谷麻子(資生堂)
プリンティングディレクター
尾河由樹(凸版印刷)
仲山遵(凸版印刷)
製版
株式会社トッパングラフィック
コミュニケーションズ
クライアント
株式会社 資生堂
制作年
2011年
【取材協力】
尾河由樹・仲山遵
凸版印刷株式会社
情報コミュニケーション事業本部
プロダクト推進本部 AD部