ひと月に6日ほどしかオープンしないお店が読谷村の外人住宅街にある。小さいけれど存在感のあるその店は、沖縄の無農薬野菜をメインにしたランチプレートとビーガンのお菓子が飛びきりおいしい「自然いぬ。」。
野菜好きの間にはすでに評判が知れ渡っているから、予約をとるのが難しい人気店だ。
大自然というよりも、小さな自然といえるだろうか、人の暮らしと距離が近いオーガニックな沖縄の自然を、思う存分味わえるおすすめの場所が「自然いぬ。」の魅力かもしれない。
一つひとつに手間がかかったカラフルランチ
自然いぬのメニューは「今日のごはん」(¥850)のみ。メインの料理にスープとライス、それに数種類のおかずがついてくる。
ていねいに、手間ひまをかけて作られたお昼ご飯だ。
材料は沖縄で農薬を使わずに栽培されたもの。ただし、夏の沖縄では、ゴーヤーやウリ系の野菜以外は育ちにくいので、九州産の野菜が登場する時期もあるそうだ。
この日のメインは、「雑穀と島どうふの肉団子風」。ビーガンだと知らなければ、普通の肉団子だと思ってしまう味付けが、さすがのお手前。
スープは「トマトクリームスープ」。トマトと豆乳を合わせたポタージュ風で、空豆がかわいいアクセントに。ニンニクを隠し味にして、まろやかさの中に濃厚さも感じられる、そんな仕上がり。
おかずは、小玉ねぎとズッキーニのマリネ。ルッコラと豆腐の生春巻き。ブロッコリーとじゃがいもをひよこ豆のパン粉で包んでさらりと挙げたパコラ。
サラダのドレッシングの主役は赤紫が映える季節のビーツ。「夏になれば、胡瓜、モーイ(ウリの一種)、ドラゴンフルーツでドレッシングを作ったりします」と、オーナーシェフのねはみすずさん。沖縄の季節の野菜をおいしく食べられる工夫がここにも生きている。
小さなパンはもちろん自家製。今日いただいたのは甘酒とヨーグルトの酵母で仕込まれたパン。まろやかで優しい味わいが心地良い。パンの酵母は気分次第。例えば、トマトやイチゴなど、その時期の旬のものを使うことが多いのだとか。
そして、ターメリックの黄色が映える玄米ごはん。
「やちむん むっしゅ」さんが焼いたプレートの上で、うりずんの陽気に色が踊っているような、生命感溢れるランチに思わずため息が出てしまう。
ビーガンで新しい発見が次々と
お腹も心も満たされたところで、ねはさんにお店を始めたきっかけを聞いてみた。
沖縄本島中部の宜野湾市に生まれ育ったねはさんは小学生のころから料理が大好き。ちなみに当時の得意料理はクッキーだったとか。
高校を卒業してからは当然のように料理の世界へ。レストランやケーキ屋さんで働いて、経験を重ねていった。
ある時、お母さんが病気を患い、食生活の改善が必要に。その時に巡り合ったビーガンが今のねはさんを形づくったのだという。
バターやお肉など、動物性の素材を使わずに作るビーガンフードに出合ってから新しい発見が続いたというねはさん。
「お野菜の以外な組合わせとか、今まで考えてもみなかった調理法などが思い浮かぶようになったんです。それと、自分の中で大きかったのは、食材が持っているエネルギーを感じるようになったことでしょうか」と、語る表情がうれしそう。
「地元の人にも食べてほしい」
お店に来てくれるお客さんの9割は女性。30代以上の健康志向が強い方が多い。
「ビーガンを食べ慣れていて、探してやってくる人が今は多いですけど、『ビーガンってなんね?』とか『ベジタリアンとかオーガニックって敷居が高そうだねー』という人達や、読谷村に住む近所の人逹にも来てほしいんです」
そういう思いが強いねはさんには心がけていることがいくつかあるという。
「いろんな野菜を楽しんで食べてもらえるように、見た目も工夫してるんです」
地味な色合いにならないように、素材の持ち味を活かしながら鮮やかなプレートに仕上がるように努めているのだそう。
次に味付け。食材がもともと持っている味わいを損なわないように、粟國の塩を基本にしてシンプルさを心がけているという。ダシや隠し味を工夫をしているおかげか、男性にも満足してもらえそうな味わいに仕上がっている。
そして、価格設定。いろんな人に自然いぬの料理を味わってほしいと、「沖縄価格」で提供されているのが何よりうれしい。
「食べることは生命を循環させていくこと」
「ここよりもっと田舎な所に移りたいですね。自分で畑をやりながら、自分の手で一つひとつ大切に料理を作りたいんです。だからお店を大きくすることは考えていないんですよ。お客さん一人ひとりとかかわっていきたいですし」
将来はどういう展開を考えているか聞いてみたら、そんな答えが返ってきた。
インタビューをしていて印象に残ったのは「どう食べるか」という言葉。「ビーガンだから食べて良くて、動物性のものは食べてはいけないではない」のだという。
「食事をすることは生命を循環させることだと思っています。動物、植物すべて命あるもの。その生命力(愛)を受け継いで、私達の生命力(愛)にする。私逹はそれをまた次へと引き継いでいく。少なくとも今はそういうものだと思っています」
最後にそう語ってくれたねはさんにとって、料理は喜びそのものだという。食べてくれた人が幸せになってくれるのが基本だけれど、最近は食材とのコミュニケーションも楽しいのだそうだ。