構造変化でクラックを抑制
例えば、ジルコニアセラミックにおいてはその微細構造に加わった応力によるクラック(ひび割れ)が生じたとすると、ジルコニアの結晶が正方晶という形から単斜晶という形へと変化を起こして、結晶の体積を膨張させ、結晶構造が緊密化されます。
その力が最も伝導する亀裂の先端部分で、その結果先端の周囲への結晶化構造にはひずみのエネルギーが蓄積される層ができます。その層によって亀裂の先端部の応力が解放されます。こうして力が伝播していくことを防ぎ、クラック(ひび割れ)の進行を抑えられるのです。これがジルコニアの「マルテンサイト変態」と呼ばれるものです。
ジルコニアには3つの結晶系があり、それぞれ単斜晶、正方晶、立方晶と呼ばれています。この3つは、温度によってそれぞれの形へと変化していきます。
先ほど述べたマルテンサイト変態は、正方晶から単斜晶への変態でしたが、この時4~7%もの大きな体積変化が生じます。
通常ジルコニアは室温では単斜晶で存在し、1170°Cで正方晶、2200°Cで立方晶に変態するという性質を持ちます。 ここで、ジルコニアにZn(ジルコニア元素)より大きなイオン半径をもつY(イットリア元素)や、Ce(セリア元素)のイオンを極微量添加すると、常温でも存在できるようになります。
また更に、添加量を少なくすると、正方晶が常温で安定した形で存在することが可能になります。 この正方晶が極めて安定した状態を部分安定化ジルコニアといいます。
いわゆるオールセラミックで用いられるジルコニアは、この部分安定化ジルコニアと呼ばれる100%正方晶ジルコニアのことです。
この結晶で構成される焼結体は正方晶ジルコニア多結晶体(TZP)と名付けられ、イットリア安定型ジルコニア系(Y-TZP)とセリア安定型ジルコニア(Ce-TZP)に大きく分けられます。
オールセラミックで用いられるジルコニアは、ほとんどがイットリア安定型ジルコニア(Y-TZP)を用いて製造されています。これは東ソー社によって、イットリア安定型ジルコニア(Y-TZP)の原料粉末が大量に安定供給されるようになったことも影響しています。
Ce-TZPはY-TZPに比較してさらに靭性(粘り強さ)が高いのですが、曲げ強度と硬度が劣る為、実用化が遅れていました。しかし、Ce-TZPにアルミナ(Al2O3)粒子に特殊な複合を実現することにより、これからの弱点を改善克服しました。
これこそが双方向ナノ複合化という画期的なアイデアであり、Ce-TZP結晶内に数百nmの大きさのアルミナ(Al2O3)粒子を、さらにAl2O3結晶体に数十nmの大きさの極めて小さなサイズのCe-TZP粒子を取り込んだ組織を複合化して結晶構造を構築するという前例のないユニークな概念でした。
極めて高純度結晶体であるがゆえに、取り込まれた結晶体の1つ1つのエネルギーによって結晶体同士の境界面が活性化され、強化されるのです。
この新素材は旧松下電工によって研究開発され、引き続いて現パナソニックヘルスケア社によって「P-ナノZP」として発売されました。
曲げ強度が1400MPa、靭性(粘り強さ)が15MPa/m1/2にも達し、クラウン、ブリッジだけでなく義歯(入れ歯)のフレームにさえ利用可能になったのです。
また単独のクラウンにおいては、噛み合わせの面で0.5mm、最小で0.3mmまで薄くして利用できます。 ちなみにパナソニックや京セラといった大手電機、電子機器メーカーが歯科材料の分野に参入し、大きな役割を果たしているのは実に興味深いところです。
セラミックの微細構造の研究成果は、こうした強度の問題だけでなく、その長所である審美性や生体親和性、歯科材料としての接着など、多様な条件に関して進歩し続けているのです。
ジルコニアは単独では他のセラミックと比較して、永らく色調再現性が劣っていました。白さが際立つ歯は作成できるものの色数のパターンが限られており、もとの天然歯の色に似せる事が難しい症例がありました。(その場合は、他の歯をホワイトニングして色をあわせる事で、お口全体のバランスを調整できます。)
しかし近年は結晶構造の改良が進み、色調にかなり幅を持たせる事も可能になりました。 ジルコニアへの着色法も、粉末のジルコニアに着色材を配合し、ブロック化させて高温で焼結する前に着色剤を浸透する方法、焼結された補綴物の表面に薄く着色剤を焼き付ける方法など、さまざまな工夫がされています。
またジルコニアは、緊密で高純度な微粒子で成り立っている結晶体であるがゆえ、他の材質との接着が困難でありました。製品化最初期には他のセラミックの焼き付け、コンビネーションが難しく、剥離を起こしやすい事もありました。
ただし、現在ではこの問題もほぼ完全に解決され、逆に他のセラミックより焼き付けの強度が強化されています。
通常のセラミックを歯質などに接着する際、接着面に酸処理を行い、顕微鏡レベルでの粗造な凹凸面を作ることにより、接着面積を増やし、機械的嵌合力を上昇させるのですが、ジルコニアの耐酸性、耐アルカリ性で高純度結晶には酸処理の効果がありません。
これらの他の材質のものへの接着の問題を解消する為、表面処理の方法がいくつも考案され、現在もその接着力を向上させる為に研究が進んでいます。
極めて粒子が緊密に配列されて結晶化されているため、細菌バクテリアが定着しにくく、いわゆるバイオフィルムが形成されにくい、生体にとって極めて親和性が高い材質でもあります。