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1 王の憂鬱
この小説は、色々と面倒な事に主人公が立ち向かうお話です。
俺Tueeeは皆様が思うほど含まれていない可能性があり、ハーレムは主人公には決して起こりません。
それを了解した上でご覧下さい。
俺Tueeeは皆様が思うほど含まれていない可能性があり、ハーレムは主人公には決して起こりません。
それを了解した上でご覧下さい。
VR。ヴァーチャルリアリティ。仮想現実。
本来であれば経験することが出来ないことを、特殊な装置によって疑似体験が出来ることを指す。
以前であればその技術は軍事利用やちょっとしたアミューズメント程度で、巨大な装置の中で横になり、頭にえらく頑丈そうな装置を乗せて使用する専用の筐体を必要としていた。
しかしその技術は次第に精錬され、今ではLANケーブルを繋いだヘッドセットを装着するだけで仮想現実の世界を脳に投影できるようになり、遂には家庭用ゲームハードとして登場するにまで至った。
それでも高価なことには変わりなかったが、自宅で好きなときに好きなだけ、となれば大金を叩いてでも購入したくなるだろう。事実多くの家庭が購入している。
家庭用のVRヘッドセットの登場は、過去に登場した最新ハード達と比べても例を見ないほどの熱狂に包まれた。
多くの人達が己の好きな容姿を作り、己の憧れた存在となり、己の憧れた幻想の世界をその擬似的に五感で体感する、正しく夢の様なゲーム機が手に入るのだから気持ちが分からないわけではない。
脳に影響を及ぼすなどの危険性も当初は存在はしていたが、幾つもの強固な安全プログラムのお陰で事故はなく、今となっては馬鹿げた妄想だったんだと笑い話となっている。
直接脳に信号を送り込むなんて暴挙を思いついた奴は頭がおかしいだろうと感謝を込めて侮蔑する賛辞があちらこちらで飛び交い、社会現象を巻き起こすまでに膨れ上がった。
誰もが無限の可能性を秘める世界の普及は、まるで現実を否定して安易な逃げ道を作ったのではないのだろうか。
VRと言う名で区分されるゲームは全世界で数多く発売され、うち7割は多人数同時参加型オンラインゲーム。所謂MMOだった。
現実とは違い、何もかもを美化した分身が多くの人間と関わりながら世界を謳歌する技術があるというのに、固定会話しか出来ないNPCと関わりあうオフラインゲームではVRの機能を万全に活かせはしない。必然的に方向性はこちらに決まる。
1割オフライン専用の一般向けソフトも売られており、これもまた需要に応えた結果だが、ネットゲームと比べるとその売り上げも芳しくなかった。
言いたくはないが、大人向けのものは意図的に省いて説明している。何せ売り上げはMMO以上なのだから。
理由は言わずとも理解できるだろう。
お陰で出産率は低下の一途を辿る始末。本当に安易な逃げ道である。
さて、MMOの区分においてシェア7割を占めるものがある。
それはRPG。ロールプレイングゲームと呼ばれるものだ。
御伽噺に出てくる勇者のようになったり、魔王のようになったり、商人になったり、農家になったり、幅広い生活が現実とは違ってなんのデメリットもなく選べる。
最強を目指すのも、最凶を目指すのも、目指さないのも、全てはプレイヤー次第。
その幅広い選択肢とお手軽さもあって、ゲーム業界はどこも独特な世界観や設定を生み出して世間に提供している。
自由自在なキャラメイク、豊富な職業、様々なイベント、数多のアイテム、それこそ過去のオンラインゲームなど鼻で笑い飛ばせるくらいに好き放題出来るのが魅力であった。
だが、残る3割はなんなのか?
2割はFPSが占める。ガンシューティングもののゲームだ。
傭兵や軍の兵士となって兵器を操り戦争を行うものが殆どで、内容にあまり代わり映えはない。あってもオリジナルの武器くらいだが、あまり豊富だとRPG枠でやった方がマシな内容に成りかねないので出来ることが限られてしまう。
それに内容が内容だし、現実と変わらない感覚を得られるのも相まって厳しい規制がなされていた。
残りの1割はその他。カードゲームやボードゲームなどがその分類とされる。
そんなもの現実でやれよと思うかもしれないが、現実ではありえないモンスターのグラフィックが3Dで表現され、暴れまわる姿を堪能できることを考えればVRの意味は大いにあった。
では、もっとも人気がなかったのはなんなのか。
その他に含まれる、シミュレーションゲーム。通称SLGである。
元々領地経営のようなシステムで、ユニットを作成して領土を広げながら奪い合うゲームと言う認識が概ね正しいこの類のゲーム。
初期の頃は色々と発売されて熱狂されたジャンルだが、現在は下火になってしまっていた。
それは何故か。
代表的なVRMMOSLG【アポカリスフェ】を例に上げて説明しよう。
【アポカリスフェ】は、VRで初めて作られたMMO戦略シミュレーションゲームだった。
人間や魔物の暮らす世界アポカリスフェで主人公は一国一城の主となり、資源を用いて魔物を生み出し領土を奪い合う、戦略シミュレーションとしてはごく在り来りな設定である。
魔物は召喚した際にキャラメイキングが行うことが可能で、種族を変えることはできなくとも千差万別の容姿や体型を作り出すことが出来た。
課金のクジやイベントで手に入る魔物は莫大な力を保有し、現物を支払うだけの強力なものが手に入る。
黎明期のVRMMOにしては珍しく月額無料だったが、その代わりこうした課金アイテムやクジで荒稼ぎをする運営システムだけは少々古臭かった。
主人公の目的は国の領土を広げること。
六角形に区分けされた領土に侵攻しながら資源を回収し、それを用いて国の運営を行う。
同時に領土侵攻しながらそこに暮らす魔物を国に取り込んで人口を増やし、様々な施設のレベルアップを行ないながら街を作り上げ、内装をいじり回して自分だけの城を作ったりと正に王様気分が味わえる。
国を豊かにしながら防備を固め侵略すると、まあよくあるものだ。そこに別段特別なことは一つもない。
このゲームは日本製にしては珍しくRTS で、様々な事柄を城の中から自分が操作することで相応の責任感をもたせてくる。
最も力を入れて作られた戦争システムは今でもアポカリスフェを超えるものが現れておらず、刻一刻と千差万別の変化をする戦況を平面で捉える広域マップ、俯瞰で眺めるヘクスマップを見ながら、画面越しに即断即決で戦争を進める指揮官プレイがリアルに楽しめるようになっていた。
そして他者とのコミュニケーション――と言ってもボイスチャット程度だが――を取ることで発生する外交や戦争などの要素もあり、国家運営の緊張感を味わうことが出来る、好きな人にはたまらないとてもマニアックなゲームの仕様となっている。
では、シミュレーションゲームのおおまかな概要とアポカリスフェの簡単な説明を終えたところで、売れなかった理由を説明したいと思う。
まず、あまりにもプレイヤーに許される自由度が低すぎた。
主人公は自国の領土内は動けるが、ただそれだけ。
イベントがあるにはあるが、俗に言うお使い系の物ばかり。プレイヤーが自分で動くゲームではないので仕方ないとは思う。
一定の目標になるストーリークエストなど存在せず、サブクエストをこなす簡単なお仕事を繰り返す日々。
移動が拠点となっている王城以外には出れない制限があるせいで、外へと繁栄していく国の様子をマップでしか確認できず、せいぜい王都内を見て回るしかないのは実に味気ない。
NPCは定型文を一文喋るだけでそれ以外は反応を示さず、機械的に日々の生活に勤しんでいる。
そんな街を歩いたところで誰が楽しめるというのか。
まずこれが一つ目の要因だ。
次に、使役する魔物の扱いの酷さが挙げられる。
魔物を使役して領土を広げたり防衛戦をしたり侵略したりと活躍してくれるというのに、その魔物はテキストすら用意されていない。
声をかけても反応せず、NPCよりも完全に機械な状態で、一人で喋る虚しさを感じさせるだけだった。
VR最初期のゲームだからと考えれば仕方がないかもしれないが、緻密な戦争システムを作り上げたのにいくらなんでも手を抜きすぎだろう。
この辺は正直技術不足と言うよりも開発陣のやる気とデータ容量の問題と囁かれている。
もう少し進歩すれば誰もが人のように生活するかもしれないが、そこまでの意欲が開発陣にないのは分かりきっており、今更改善は見込めない。
最後に、目的が生み出せないこと。
最強になろうとかデカイ国にしようとか思いたくても、まず前述した二つの要因がその意気込みをヤスリの如く削り落とす。
何もすることがないと、ただ城の中でクエストウィンドウを見ながら起こる問題を処理するだけの閑職じみた作業を行うと言うのも最悪だった。
運営も最初は色々と対策を講じはした。昔なんて配下の魔物の姿を確認するのにステータス画面で全身像を見ることしか出来ないお粗末さで、βテストの時点で「VRの意味なんにもねえだろ!」と言ったブーイングが尋常じゃない数殺到したこともある。おかげで2年も正式サービス開始が遅れた。
他には多くのイベントや特殊な魔物クジなど食指を伸ばしてもらえるよう頑張ったが結果は悲惨。
二度も言う羽目になるが、やる気がなかったと言うのも理由かもしれない。
よほど戦争が好きなのか、そこばかりを修正する誰に媚びているのか理解できないアップデートを重ねた時期があったりしたので、正直頑張ってと言っていいのかどうかも怪しい。
しかし、アポカリスフェの運営に意欲があったとしても、目的が漠然としていた上に行動がルーチンワークなことからシミュレーションはVRに向かないと判断されてしまった。
某街経営ゲームもVRになったが、やりたくもない市長の仕事をリアルタイムで生々しくやらされるのは非常に面白く無いと大批判。分野にジャンルが合っていないと結論付けられた。
結局はブラウザゲームやオフラインゲームの枠から脱却することは出来ず、自由度を求められるVRMMOには不釣り合いとされてしまう。
が、そんなゲームでも続けている人間というのは存在する。これはその男から始まる話だ。
◆
その男は、城の玉座の間に居た。
座る玉座は黒曜石を削って作られたもので、紫黒の怪しい輝きを放ち人工の日光を浴びて幻想的に煌めいている。
アメジストやアイロライト、ベニトアイトと紫の鮮やかな宝石で飾り付けられ、4m近い背もたれの天辺には巨大なコーネルピンキャッツアイが玉座から辺りを睨みつけているようだ。
床はホワイトオパールで一面覆いつくされ、壁は天井に至るまで全て白銀のミスリルで仕上げられており、清楚で厳粛な空間に存在する高貴な黒い玉座は異様の一言。
壁には大きな黒の垂れ幕が下げられており、そこに描かれているのは白い円で囲まれた白い六芒星に尾を噛む蛇が巻き付いた真紅の剣。この紋章こそ国を司る象徴である。
国の名前は【エステルドバロニア】。特に意味はないがなんとなくかっこいい気がしただけの名前で、二度も言うが意味はない。
ワールド1に存在する最強国家であり、他の追随を許さぬ凶悪な魔物を飼い慣らす国である。
が、挑む人間がそもそもいないのでその最強などただの飾りでしかない。
男はエステルドバロニアの玉座にて悠然とその景色を視界に収め、何を満足したのか大きく一つ頷いて立ち上がった。
纏うのは黒い軍服と紫黒に染められたPC専用装備のコート【黒の王衣】。
背には国の紋章が描かれており、世界で唯一国の紋章を背負える存在だということを顕している。
何の気なしに立ち上がってはみたが、座りっぱなしで疲れた腰を伸ばすだけで、乱暴に腰を再び下ろすと、
「……暇だ」
ぽつりと、この厳粛な空間にはあまりにも似つかわしくない言葉を零した。
目的が見つからなくなってきたのはいつからだったか、いまいち思い出せない。
気が付くと、思い出したように発表される課金ガチャでレアモンスターを入手し、自分の好みに合わせて容姿を決めて育てて忠誠度を固定する、なんて流れ作業ばかりするようになっていた。
賢くないAIが積まれたお粗末な敵を討伐して経験値を稼ぐのも次第にダレてしまい、一番の楽しみである戦争をしたくても近場にあったNPCの国は殆ど併呑してしまったため、遠征して遥か遠くまで移動する必要があり、時間がかかりすぎる上に面倒なのでやる気にならなかった。
やりたいことはあるはずなのに、その相手が見つからない。
初期の頃のお祭り騒ぎが懐かしく、プレイヤー数が悲惨なんだから改善する気起こせよ、と男は内心で愚痴る。
折角クオリティの高い戦争システムを積んでいるのに、ただ有名サイトに載せた広告に釣られてくる、定着するとは思えないプレイヤーが増えても意味などなにもない。
システムをもっと簡略化させて一般受けにしてくれるんじゃないかと期待していたが、その期待が2年も続いているとなると見込みは全くなかった。
「えー、治水工事は優先。道路の拡張依頼、はいいか。そんな物資の量増えてもパンクしそうだし。あとは住宅街の拡張要請……もうこれ以上広げれねえよ。あー城の近場にもう一個街作っちゃうかな」
寂しく一人ぶつぶつ呟きながら、男は目の前に浮かんだ操作画面 を指で弄りながら軍の各方面に指示を飛ばす。
放っておいても大した損害になりはしないのだが、毎日決めた時間だけプレイしていると行動も常習してしまうらしく、ちょっとした遊び心を加えつつ内政を行ない続けている。
周囲からボロクソに言われても尚続けているのは、やはり好きだからなのだろう。
ただ、最近になって人口の少なさやシステムよりも大きな不満が出来た。
「またかよ」
最近、やけに緊急メンテナンスが多くなっている。
ポップアップメッセージが視界の上方に現れて告知しており、うんざりした顔で男は乱暴な動きで表示を消した。
少し前までは平日の昼間に3時間定期的に行われていたのだが、ここ3日ほど前から昼夜問わずメンテナンスが突然訪れる。
運営に原因を聞いてもろくな返事が返ってくることはなく、在り来りなテンプレートが送付されるだけ。
公式サイトでも公表されておらず、ツイートでも緊急メンテしますの文面だけでどんな異常が起きているのかを知る術がなかった。
メンテナンスをする事に不満はない。一応は維持する気があると分かるからそれは別にいい。
ただ一日に5回も行うと言うのは頻度が多すぎる。一度で修正が効かず二度三度と繰り返し、それを3日も続けているなんて怠慢過ぎるんじゃないだろうか。
いくら過疎でもサービスを続けている以上、プレイヤーに迷惑がかかるのは避けるものだ。それが出来ないとなるといよいよもってアポカリスフェも終わりかと思わされる。
どうせ強制ログアウトされるのは確定しているのだからと、男は少し寄る場所を思いついたので気怠げに席を立ち、扉まで歩いた。
国の中は何処へでも転移機能でリスクを負わず移動できるが、そればかりでは味気ないのでこうして偶に徒歩で移動することもある。
男が近付いたことで自動で開く扉の細工を何気なく見つめながら一歩外へ踏み出すと、扉の両隣を2mはある巨大な蜥蜴男がハルバードを両手で握り柄頭を地面に立てて守護していた。
城を警備するために配備した【リザードベルセルク】。モンスターのランクを10段階で表記するなら5に相当するそこそこ強力な魔物だ。
1~7までの魔物は通常でも入手できるが、8~10の魔物は全て課金。レアモンスターは大半を国外で活動させているので、城の中にはMOB ばかりが闊歩している。
「ご苦労」
そう告げてみるが、反応はない。
敬礼くらいしてくれればいいものをと開発者を恨みながら、人形遊びを興じる虚しさに駆られてしまう。
今更ではあるのだが、少しくらいはいいだろうと思わなくもない。
それ以上愚痴ったところで何があるわけでもないので、王らしい素振りを演じながら自動人形ばかりで観客のいない舞台を寂しく歩いた。
城の城壁はミスリルで作られ、銀色に輝いて目が痛む。いろいろ意地を張った結果の無駄な成果に自嘲しつつ、男は紅いカーペットの敷かれた廊下を歩いて次の目的地に向かう。
掘っ立て小屋のような貧相な城から雲にも届く巨大な城を建造した苦労を思うと、よくやれたものだと自画自賛しながら、高価な調度品を並べ彩光も一人考え尽くした城の内部を感慨深げに見て回った。
訪れたのは、城から景色を一望できるテラス。広がる青空の下で蠢く多くの亜人や獣人の姿を見下ろしながら、手すりに体を預けてただ眺める。
どれもこれも同じ事を繰り返すだけの人形ばかり。警備として歩かせている魔物も同じ。
どれだけ繁栄しても消えない虚無感は、ゲームをやっている中で一番男を苦しめた。
男はこのゲームをβテスト時代からやっている。
三十代を目前に控え、張り合いのない日常の中で唯一見つけた楽しみ。
現実では経験できないリアルな領地経営にうんざりしそうにはなったが、課金も可能な限りつぎ込んでレアモンスターを全てコンプリートし、イベントも全てこなしてレアアイテムを多数所持するところまでやりこんだ。
お気に入りの魔物を限界まで鍛え上げ、課金アイテムで忠誠心をMAX固定して難攻不落の軍団を作り上げた。
領土も一大国家と呼べるだけの面積を誇り、国の警備も馬鹿らしくなるほど強力なモンスターで守らせている。
誰が見ても最強と呼ぶに相応しい、それだけの国を一人黙々と築き上げた。
不人気なゲームでたった一人のめり込んだ人物だ。
誰もがひと月も経たずに離れていくと言うのにここまでやり込んだのは、単に男が自分で作り出した魔物を見るのが好きだったからで、RPGに走る友人達に小馬鹿にされても投げ出そうとしたことはない。
VRMMOでは基本的に自キャラしか容姿などを変更できないが、このゲームは自分以外のキャラを好きに弄ることが出来る。
今までに300体以上の魔物を自分で生成し、お気に入りの面子を眺めては悦に浸る特殊な収集癖があったからこそ続けることができていた。
魔物が全てをこなすゲームで手に入るアイテムは当然魔物のためのものだが、そのアイテムも馬鹿らしいほど大量にある。
新規で参入していようと古参だろうとこの堅牢な城を落とすことは誰にもできないだろう。無論他にもプレイヤーは存在するが、必死に掲げた運営の広告に騙されてやってきた鴨でしかなく、β時代からの猛者は生憎と男しかこのワールドには存在しない。
運営会社がイベントの配布をやめてしまい、クジの中身も大分前から変わらなくなり、課金ショップの内容も代わり映えしない。
収集癖のある男にとってこれ以上の発展が見込めないというのは結構辛く、いい加減やめようかなと思い始めている。
行けない所がないし負けもしないのでアイテムもコンプした。600種類の資源も400種類の魔物用の装備も800種類の調度品も3400種類のコスチュームも揃え、これ以上一体何をしろと言うのだろう。
目的は元々あってないようなもので、収集し終えたらやめようという気持ちはずっとあった。
──いや、違う。期待していたのだ。
誰かが敵対勢力として現れることを。誰かが友好国として共に歩めることを。この国に誰かがやってくることを。心の何処かで期待していたのだ。
国同士の争いや調停などと言った駆け引きを最盛期を過ぎてもずっと楽しみにしていた。
それも、もう叶うことはないだろう。
RPGに移行されるなんて話もあったが、今の時点で喘いでいるのだから実現できるわけがない。夢物語となったのだから仕方が無い。
本当なら自分の生み出した魔物たちが戦争を行う様を直に見てみたかったが、この城の敷地しか歩けない不条理なシステムがある限り国王は国から足を踏み出すことができない。
お目にかかろうなど土台無理な話である。
馬鹿みたいに毎月課金しまくっておいて──課金ショップが更新しなくなってからも毎月注ぎ込んでいた──辞めるなど金を溝に捨てるような行為かもしれないが、次の気に入ったゲームに移るなど皆やっていること。
そこに注ぎ込んだ財産を思い返して嘆くなどゲーマーとは言えない、と思う。
なんにせよ、男は望んでいた世界を見ることなく、ただ適当に繁栄させた国とカンストした魔物達を眺める日々で終わることに寂しさを覚えたが、そんな感傷はいらないだろう。
いつかひっそり誰に知られるでもなくサービスが終了するゲームだ。思い出してそんなことがあったと考える程度の、そう言うものだ。
内心を溜め息で表し、また意味もなく満足気に頷いてから次の場所へ向かう。
使役している全魔物に会おうとも考えたが、その数は繁殖したのも含めると200000を軽く超えるので流石に無理だろう。
側近扱いしている17体の軍団長達全員に会いに行くのも国の外に出ていけないから不可能なので、とりあえず城の中に配置している一体の下へと向かった。
「おはようございます、かろんさま」
城の奥。機密を取り扱う政務室の中。ダークブラウンの壁紙に床一面レッドカーペットが敷き詰められ、魔力で動作するオレンジの球体が優しく部屋を照らしている。
モダンな落ち着いた空間に良く合うマホガニー製のワークデスクの前に座っていた女性は、男を確認すると席を立ち深くお辞儀をした。
抑揚のない無機質な声ではあるが、長い間耳にしているとそれも個性として諦めが付くようにもなる。事実男がそうだった。
彼女こそ、このゲームで唯一会話用のAIを搭載されたキャラクター。
運営が苦肉の策で実行した好きなキャラを副官に出来ちゃうシステムによってお粗末なボイスパッチで当てられた被害者。
唯一の話し相手であり、たった一人の理解者……と勝手に思っている、男を今まで支えてきた内政を統べる者だった。
「ああ、おはよう」
カロンと呼ばれた男は、ひらりと手を振って座るように命じる。彼女はそれを汲んで座っていた上座から下座のソファに移動すると、律儀な姿に苦笑しながら上座の彼女が座っていたデスクに腰を下ろした。
改めて女性を見る。年は人間で言うと二十代前半ほど。淡い空色のロングストレートの髪を背中に流し、男と同じ黒い軍服を着ている。
高価なビスクドールかとも思える端整な顔立ちは作成に4日もかけた男の大のお気に入りで、スラリとした細身の体にフィットしたタイトスカート式の軍服も非常に気に入っている。
【アノマリス】と呼ばれるランク9の異形種である彼女は、最も愛着のある配下だった。
「ルシュカ、調子はどうだ?」
「なにもありません、かろんさま」
美しい魔物――ルシュカは感情の色が一つも見えない無機質な音声で返事をする。
そりゃあるわけないよな。分かりきっているのに聞いてしまった自分に失笑した。
会話用のAIが組み込まれていても、言動が決められている彼女が自分で判断して言葉を、感情を、行動を表すことはただの一度としてありはしない。
真面目に話を聞いていますと言った顔でうんうん頷きだけを見せるルシュカだが、それは所詮フリでしかない。
分かっているが、これが始めた頃から仕えてきてくれた人物の一人なのだ。
そう思うと愛おしく感じてしまうのは、ただ無碍に過ぎていった時間のせいなのかもしれない。
じっとカロンを見つめて微動だにしないルシュカをどうしようか考えてみるも、させることなど正直あまりない。
副官として指定した彼女だが、やっていることはカロン直々にやる必要性がない簡単なクエストの処理だけ。ちょっとした国内の問題であればカロンに報告が上がる前にルシュカが済ませている。
きっとルーチンワークにならないようプレイヤーが処理するクエストを軽減させるのが目的なのだろうが、他にプレイヤーがすることがないから結局は変わらず、むしろクエストの量が減るので手持ち無沙汰になりやすかった。
改悪とは言わないが、あまり良い考えではなかっただろう。一昔前の機械を彷彿とさせるとしても話し相手が出来たことだけは評価できるが。
なんとなく会いに来て、なんとなく話をしてみたが、結局いつもと変わらない。
ボタンを押せば相槌を打つにも似て、やはりカロンの一人芝居なことに変わりなかった。
飽きたわけではないが、ひっそりと秘めていた寒々しさがどうにも誤魔化しきれそうにない。
やっぱり、止め時なのか。
メニュー画面を開いて時計を見ながら、もうすぐメンテナンスの時間なのを確認する。
メンテナンス中は全サーバーを停止させて行われるため、ログインしていると強制的に弾き出される仕組みだ。
──その時間まであと5分。
わざわざ自力でログアウトする必要性も感じられず、深く椅子に腰掛けて目を瞑った。
目的は全て果たし、全てを手に入れてきた。
開始当初の凄まじい戦争ラッシュを、このルシュカと共に国を築き上げてきた。
過疎になり過ぎて攻略wikiなどあってないようなものでしかなく、分からないことは自力で調べて回った。
秘宝と呼ばれるエンシェントレア級のアイテムを集め尽くすのにどれだけ時間をかけたのかは思い出したくもない。
すれ違う魔物を見て自分の望んだ様子の一端があるのに、稚拙すぎると一喜一憂したことも数多くある。
それを二度と戻らぬ決意をすると体が拒む。
役立たずな運営で、メンテの度に鬱陶しいと思ったが、今回ばかりはそれに感謝しよう。
今後も仕事から帰ってきてプレイしている最中に数時間もメンテナンスされるのはかなり腹が立つので、この怒りに任せて別のゲームに乗り移るのもありかと考えていた。
「……お疲れのようですね」
妙に的を得たような定型文を口にされ、意思疎通がとれたのかと目を丸くしたが、そんなわけないだろうと小さく笑って手をひらひらと振る。
「そうだな……っと、おいこのタイミングで来るか?」
残り2分。
時間がないというのに、よりにもよってNPCから宣戦布告をされたらしく、視界の情報にピロンと可愛らしい音を立ててメッセージが表示された。
「ん?」
しかし、そのメッセージは文字化けでもしているのか、所々が読み取れない。
?や※で虫喰された文章を読もうと頭を悩ませたところで、
その刻が訪れる。
バチッと静電気が走ったような痛みがカロンの頭を一瞬襲う。
刹那の痛覚だがじわりと頭に残り、眉間に皺を寄せて何が起きたのかとこめかみを押さえた。
次の瞬間。
「っ、がああああああああああああ!!!」
突如強烈な頭痛が脳内を駆けずり回り、白目を剥いて床の上を転げまわり出す。
なんの前触れもなく襲い掛かった電撃は、形容するなら眼球の裏側から鉄の杭を突き刺して掻き回される感覚。
頭が破裂しそうな、溶けて崩れそうな猛烈な熱と痛みが脊髄を通って体中にも走り抜けていき、身体が痙攣を始めた。
VRヘッドセットには必ずセーフティが存在している。プレイ時間が連続3時間経過すると1時間は休憩するようにされているし、1日のプレイ時間がトータル9時間を超えた場合翌日までプレイ不可になるように設定されている。
睡眠や食事などが必ず行われるように配慮されており、のめり込むプレイヤーに問題が生じぬように対策が施されているのだ。
そして、脳に直接影響を与える装置として、当然のように体調不良などを感知する機能も備えている。
プレイヤーの健康状態に問題があれば制限を設けたりすることで事故を未然に防ぐ。
のだが、今カロンにはそれが一つとして適用されていなかった。
本来なら強制で電源をオフにして使用を止めるはずなのに、頭が割れそうな頭痛を起こしていると言うのにゲームが終了されない。
死ぬ。
それだけが、頭痛の中で明確に過ぎった。
手足を突っ張って激しく震え、自分の意識が真っ白に染まって消えていく感覚がやってくる。
カロンが最後に見たのは、赤黒く発光する文字の羅列と、自分の身体に寄り添って涙する、美しい空色の髪を揺らす副官の姿だった。
その日、一つのゲームが突然のサービス停止した。
プレイヤー人口が地の底で、常時ログイン数は二桁程度しかないサーバーが3つもあるようなゲームに運営側が気を使うはずがなく、サーバーを予告なしに遮断された。
理由は不明。
運営の謝罪文では、ウイルスかサーバーの異常と書いてあったが、真偽は誰にも分からない。
ログインしていたプレイヤーは皆自動で強制ログアウトさせられるが、そこでVR史上前代未聞の事態が誰も与り知らぬところで発生していた。
唯一ログインしていたプレイヤーの脳が、何らかの影響に引き摺られて機能を停止してしまったのだ。
サービス終了に本来必要なプロセスを省き、システムが異常を来した状態でサーバーを停止させたせいだろうと後の専門家は答えたが、それが事実かどうかは定かではない。
運営会社がそれを知るのはまだ先のことで、素知らぬ顔で次の作品の準備を進める。
小さなアパートの一室で、一人の男の一生が終わってしまったなど露知らず。
本来ならそこで話は潰えてしまう。
しかし、この物語は一人の死では終わることはない。
電子の世界に起きた、誰も知らない不可解な現象は、次の物語を開始する。
哀れな男の死で閉じた物語は、哀れな王と仲間たちの物語へと、変化を起こした。
本来であれば経験することが出来ないことを、特殊な装置によって疑似体験が出来ることを指す。
以前であればその技術は軍事利用やちょっとしたアミューズメント程度で、巨大な装置の中で横になり、頭にえらく頑丈そうな装置を乗せて使用する専用の筐体を必要としていた。
しかしその技術は次第に精錬され、今ではLANケーブルを繋いだヘッドセットを装着するだけで仮想現実の世界を脳に投影できるようになり、遂には家庭用ゲームハードとして登場するにまで至った。
それでも高価なことには変わりなかったが、自宅で好きなときに好きなだけ、となれば大金を叩いてでも購入したくなるだろう。事実多くの家庭が購入している。
家庭用のVRヘッドセットの登場は、過去に登場した最新ハード達と比べても例を見ないほどの熱狂に包まれた。
多くの人達が己の好きな容姿を作り、己の憧れた存在となり、己の憧れた幻想の世界をその擬似的に五感で体感する、正しく夢の様なゲーム機が手に入るのだから気持ちが分からないわけではない。
脳に影響を及ぼすなどの危険性も当初は存在はしていたが、幾つもの強固な安全プログラムのお陰で事故はなく、今となっては馬鹿げた妄想だったんだと笑い話となっている。
直接脳に信号を送り込むなんて暴挙を思いついた奴は頭がおかしいだろうと感謝を込めて侮蔑する賛辞があちらこちらで飛び交い、社会現象を巻き起こすまでに膨れ上がった。
誰もが無限の可能性を秘める世界の普及は、まるで現実を否定して安易な逃げ道を作ったのではないのだろうか。
VRと言う名で区分されるゲームは全世界で数多く発売され、うち7割は多人数同時参加型オンラインゲーム。所謂MMOだった。
現実とは違い、何もかもを美化した分身が多くの人間と関わりながら世界を謳歌する技術があるというのに、固定会話しか出来ないNPCと関わりあうオフラインゲームではVRの機能を万全に活かせはしない。必然的に方向性はこちらに決まる。
1割オフライン専用の一般向けソフトも売られており、これもまた需要に応えた結果だが、ネットゲームと比べるとその売り上げも芳しくなかった。
言いたくはないが、大人向けのものは意図的に省いて説明している。何せ売り上げはMMO以上なのだから。
理由は言わずとも理解できるだろう。
お陰で出産率は低下の一途を辿る始末。本当に安易な逃げ道である。
さて、MMOの区分においてシェア7割を占めるものがある。
それはRPG。ロールプレイングゲームと呼ばれるものだ。
御伽噺に出てくる勇者のようになったり、魔王のようになったり、商人になったり、農家になったり、幅広い生活が現実とは違ってなんのデメリットもなく選べる。
最強を目指すのも、最凶を目指すのも、目指さないのも、全てはプレイヤー次第。
その幅広い選択肢とお手軽さもあって、ゲーム業界はどこも独特な世界観や設定を生み出して世間に提供している。
自由自在なキャラメイク、豊富な職業、様々なイベント、数多のアイテム、それこそ過去のオンラインゲームなど鼻で笑い飛ばせるくらいに好き放題出来るのが魅力であった。
だが、残る3割はなんなのか?
2割はFPSが占める。ガンシューティングもののゲームだ。
傭兵や軍の兵士となって兵器を操り戦争を行うものが殆どで、内容にあまり代わり映えはない。あってもオリジナルの武器くらいだが、あまり豊富だとRPG枠でやった方がマシな内容に成りかねないので出来ることが限られてしまう。
それに内容が内容だし、現実と変わらない感覚を得られるのも相まって厳しい規制がなされていた。
残りの1割はその他。カードゲームやボードゲームなどがその分類とされる。
そんなもの現実でやれよと思うかもしれないが、現実ではありえないモンスターのグラフィックが3Dで表現され、暴れまわる姿を堪能できることを考えればVRの意味は大いにあった。
では、もっとも人気がなかったのはなんなのか。
その他に含まれる、シミュレーションゲーム。通称SLGである。
元々領地経営のようなシステムで、ユニットを作成して領土を広げながら奪い合うゲームと言う認識が概ね正しいこの類のゲーム。
初期の頃は色々と発売されて熱狂されたジャンルだが、現在は下火になってしまっていた。
それは何故か。
代表的なVRMMOSLG【アポカリスフェ】を例に上げて説明しよう。
【アポカリスフェ】は、VRで初めて作られたMMO戦略シミュレーションゲームだった。
人間や魔物の暮らす世界アポカリスフェで主人公は一国一城の主となり、資源を用いて魔物を生み出し領土を奪い合う、戦略シミュレーションとしてはごく在り来りな設定である。
魔物は召喚した際にキャラメイキングが行うことが可能で、種族を変えることはできなくとも千差万別の容姿や体型を作り出すことが出来た。
課金のクジやイベントで手に入る魔物は莫大な力を保有し、現物を支払うだけの強力なものが手に入る。
黎明期のVRMMOにしては珍しく月額無料だったが、その代わりこうした課金アイテムやクジで荒稼ぎをする運営システムだけは少々古臭かった。
主人公の目的は国の領土を広げること。
六角形に区分けされた領土に侵攻しながら資源を回収し、それを用いて国の運営を行う。
同時に領土侵攻しながらそこに暮らす魔物を国に取り込んで人口を増やし、様々な施設のレベルアップを行ないながら街を作り上げ、内装をいじり回して自分だけの城を作ったりと正に王様気分が味わえる。
国を豊かにしながら防備を固め侵略すると、まあよくあるものだ。そこに別段特別なことは一つもない。
このゲームは日本製にしては珍しく
最も力を入れて作られた戦争システムは今でもアポカリスフェを超えるものが現れておらず、刻一刻と千差万別の変化をする戦況を平面で捉える広域マップ、俯瞰で眺めるヘクスマップを見ながら、画面越しに即断即決で戦争を進める指揮官プレイがリアルに楽しめるようになっていた。
そして他者とのコミュニケーション――と言ってもボイスチャット程度だが――を取ることで発生する外交や戦争などの要素もあり、国家運営の緊張感を味わうことが出来る、好きな人にはたまらないとてもマニアックなゲームの仕様となっている。
では、シミュレーションゲームのおおまかな概要とアポカリスフェの簡単な説明を終えたところで、売れなかった理由を説明したいと思う。
まず、あまりにもプレイヤーに許される自由度が低すぎた。
主人公は自国の領土内は動けるが、ただそれだけ。
イベントがあるにはあるが、俗に言うお使い系の物ばかり。プレイヤーが自分で動くゲームではないので仕方ないとは思う。
一定の目標になるストーリークエストなど存在せず、サブクエストをこなす簡単なお仕事を繰り返す日々。
移動が拠点となっている王城以外には出れない制限があるせいで、外へと繁栄していく国の様子をマップでしか確認できず、せいぜい王都内を見て回るしかないのは実に味気ない。
NPCは定型文を一文喋るだけでそれ以外は反応を示さず、機械的に日々の生活に勤しんでいる。
そんな街を歩いたところで誰が楽しめるというのか。
まずこれが一つ目の要因だ。
次に、使役する魔物の扱いの酷さが挙げられる。
魔物を使役して領土を広げたり防衛戦をしたり侵略したりと活躍してくれるというのに、その魔物はテキストすら用意されていない。
声をかけても反応せず、NPCよりも完全に機械な状態で、一人で喋る虚しさを感じさせるだけだった。
VR最初期のゲームだからと考えれば仕方がないかもしれないが、緻密な戦争システムを作り上げたのにいくらなんでも手を抜きすぎだろう。
この辺は正直技術不足と言うよりも開発陣のやる気とデータ容量の問題と囁かれている。
もう少し進歩すれば誰もが人のように生活するかもしれないが、そこまでの意欲が開発陣にないのは分かりきっており、今更改善は見込めない。
最後に、目的が生み出せないこと。
最強になろうとかデカイ国にしようとか思いたくても、まず前述した二つの要因がその意気込みをヤスリの如く削り落とす。
何もすることがないと、ただ城の中でクエストウィンドウを見ながら起こる問題を処理するだけの閑職じみた作業を行うと言うのも最悪だった。
運営も最初は色々と対策を講じはした。昔なんて配下の魔物の姿を確認するのにステータス画面で全身像を見ることしか出来ないお粗末さで、βテストの時点で「VRの意味なんにもねえだろ!」と言ったブーイングが尋常じゃない数殺到したこともある。おかげで2年も正式サービス開始が遅れた。
他には多くのイベントや特殊な魔物クジなど食指を伸ばしてもらえるよう頑張ったが結果は悲惨。
二度も言う羽目になるが、やる気がなかったと言うのも理由かもしれない。
よほど戦争が好きなのか、そこばかりを修正する誰に媚びているのか理解できないアップデートを重ねた時期があったりしたので、正直頑張ってと言っていいのかどうかも怪しい。
しかし、アポカリスフェの運営に意欲があったとしても、目的が漠然としていた上に行動がルーチンワークなことからシミュレーションはVRに向かないと判断されてしまった。
某街経営ゲームもVRになったが、やりたくもない市長の仕事をリアルタイムで生々しくやらされるのは非常に面白く無いと大批判。分野にジャンルが合っていないと結論付けられた。
結局はブラウザゲームやオフラインゲームの枠から脱却することは出来ず、自由度を求められるVRMMOには不釣り合いとされてしまう。
が、そんなゲームでも続けている人間というのは存在する。これはその男から始まる話だ。
◆
その男は、城の玉座の間に居た。
座る玉座は黒曜石を削って作られたもので、紫黒の怪しい輝きを放ち人工の日光を浴びて幻想的に煌めいている。
アメジストやアイロライト、ベニトアイトと紫の鮮やかな宝石で飾り付けられ、4m近い背もたれの天辺には巨大なコーネルピンキャッツアイが玉座から辺りを睨みつけているようだ。
床はホワイトオパールで一面覆いつくされ、壁は天井に至るまで全て白銀のミスリルで仕上げられており、清楚で厳粛な空間に存在する高貴な黒い玉座は異様の一言。
壁には大きな黒の垂れ幕が下げられており、そこに描かれているのは白い円で囲まれた白い六芒星に尾を噛む蛇が巻き付いた真紅の剣。この紋章こそ国を司る象徴である。
国の名前は【エステルドバロニア】。特に意味はないがなんとなくかっこいい気がしただけの名前で、二度も言うが意味はない。
ワールド1に存在する最強国家であり、他の追随を許さぬ凶悪な魔物を飼い慣らす国である。
が、挑む人間がそもそもいないのでその最強などただの飾りでしかない。
男はエステルドバロニアの玉座にて悠然とその景色を視界に収め、何を満足したのか大きく一つ頷いて立ち上がった。
纏うのは黒い軍服と紫黒に染められたPC専用装備のコート【黒の王衣】。
背には国の紋章が描かれており、世界で唯一国の紋章を背負える存在だということを顕している。
何の気なしに立ち上がってはみたが、座りっぱなしで疲れた腰を伸ばすだけで、乱暴に腰を再び下ろすと、
「……暇だ」
ぽつりと、この厳粛な空間にはあまりにも似つかわしくない言葉を零した。
目的が見つからなくなってきたのはいつからだったか、いまいち思い出せない。
気が付くと、思い出したように発表される課金ガチャでレアモンスターを入手し、自分の好みに合わせて容姿を決めて育てて忠誠度を固定する、なんて流れ作業ばかりするようになっていた。
賢くないAIが積まれたお粗末な敵を討伐して経験値を稼ぐのも次第にダレてしまい、一番の楽しみである戦争をしたくても近場にあったNPCの国は殆ど併呑してしまったため、遠征して遥か遠くまで移動する必要があり、時間がかかりすぎる上に面倒なのでやる気にならなかった。
やりたいことはあるはずなのに、その相手が見つからない。
初期の頃のお祭り騒ぎが懐かしく、プレイヤー数が悲惨なんだから改善する気起こせよ、と男は内心で愚痴る。
折角クオリティの高い戦争システムを積んでいるのに、ただ有名サイトに載せた広告に釣られてくる、定着するとは思えないプレイヤーが増えても意味などなにもない。
システムをもっと簡略化させて一般受けにしてくれるんじゃないかと期待していたが、その期待が2年も続いているとなると見込みは全くなかった。
「えー、治水工事は優先。道路の拡張依頼、はいいか。そんな物資の量増えてもパンクしそうだし。あとは住宅街の拡張要請……もうこれ以上広げれねえよ。あー城の近場にもう一個街作っちゃうかな」
寂しく一人ぶつぶつ呟きながら、男は目の前に浮かんだ
放っておいても大した損害になりはしないのだが、毎日決めた時間だけプレイしていると行動も常習してしまうらしく、ちょっとした遊び心を加えつつ内政を行ない続けている。
周囲からボロクソに言われても尚続けているのは、やはり好きだからなのだろう。
ただ、最近になって人口の少なさやシステムよりも大きな不満が出来た。
「またかよ」
最近、やけに緊急メンテナンスが多くなっている。
ポップアップメッセージが視界の上方に現れて告知しており、うんざりした顔で男は乱暴な動きで表示を消した。
少し前までは平日の昼間に3時間定期的に行われていたのだが、ここ3日ほど前から昼夜問わずメンテナンスが突然訪れる。
運営に原因を聞いてもろくな返事が返ってくることはなく、在り来りなテンプレートが送付されるだけ。
公式サイトでも公表されておらず、ツイートでも緊急メンテしますの文面だけでどんな異常が起きているのかを知る術がなかった。
メンテナンスをする事に不満はない。一応は維持する気があると分かるからそれは別にいい。
ただ一日に5回も行うと言うのは頻度が多すぎる。一度で修正が効かず二度三度と繰り返し、それを3日も続けているなんて怠慢過ぎるんじゃないだろうか。
いくら過疎でもサービスを続けている以上、プレイヤーに迷惑がかかるのは避けるものだ。それが出来ないとなるといよいよもってアポカリスフェも終わりかと思わされる。
どうせ強制ログアウトされるのは確定しているのだからと、男は少し寄る場所を思いついたので気怠げに席を立ち、扉まで歩いた。
国の中は何処へでも転移機能でリスクを負わず移動できるが、そればかりでは味気ないのでこうして偶に徒歩で移動することもある。
男が近付いたことで自動で開く扉の細工を何気なく見つめながら一歩外へ踏み出すと、扉の両隣を2mはある巨大な蜥蜴男がハルバードを両手で握り柄頭を地面に立てて守護していた。
城を警備するために配備した【リザードベルセルク】。モンスターのランクを10段階で表記するなら5に相当するそこそこ強力な魔物だ。
1~7までの魔物は通常でも入手できるが、8~10の魔物は全て課金。レアモンスターは大半を国外で活動させているので、城の中には
「ご苦労」
そう告げてみるが、反応はない。
敬礼くらいしてくれればいいものをと開発者を恨みながら、人形遊びを興じる虚しさに駆られてしまう。
今更ではあるのだが、少しくらいはいいだろうと思わなくもない。
それ以上愚痴ったところで何があるわけでもないので、王らしい素振りを演じながら自動人形ばかりで観客のいない舞台を寂しく歩いた。
城の城壁はミスリルで作られ、銀色に輝いて目が痛む。いろいろ意地を張った結果の無駄な成果に自嘲しつつ、男は紅いカーペットの敷かれた廊下を歩いて次の目的地に向かう。
掘っ立て小屋のような貧相な城から雲にも届く巨大な城を建造した苦労を思うと、よくやれたものだと自画自賛しながら、高価な調度品を並べ彩光も一人考え尽くした城の内部を感慨深げに見て回った。
訪れたのは、城から景色を一望できるテラス。広がる青空の下で蠢く多くの亜人や獣人の姿を見下ろしながら、手すりに体を預けてただ眺める。
どれもこれも同じ事を繰り返すだけの人形ばかり。警備として歩かせている魔物も同じ。
どれだけ繁栄しても消えない虚無感は、ゲームをやっている中で一番男を苦しめた。
男はこのゲームをβテスト時代からやっている。
三十代を目前に控え、張り合いのない日常の中で唯一見つけた楽しみ。
現実では経験できないリアルな領地経営にうんざりしそうにはなったが、課金も可能な限りつぎ込んでレアモンスターを全てコンプリートし、イベントも全てこなしてレアアイテムを多数所持するところまでやりこんだ。
お気に入りの魔物を限界まで鍛え上げ、課金アイテムで忠誠心をMAX固定して難攻不落の軍団を作り上げた。
領土も一大国家と呼べるだけの面積を誇り、国の警備も馬鹿らしくなるほど強力なモンスターで守らせている。
誰が見ても最強と呼ぶに相応しい、それだけの国を一人黙々と築き上げた。
不人気なゲームでたった一人のめり込んだ人物だ。
誰もがひと月も経たずに離れていくと言うのにここまでやり込んだのは、単に男が自分で作り出した魔物を見るのが好きだったからで、RPGに走る友人達に小馬鹿にされても投げ出そうとしたことはない。
VRMMOでは基本的に自キャラしか容姿などを変更できないが、このゲームは自分以外のキャラを好きに弄ることが出来る。
今までに300体以上の魔物を自分で生成し、お気に入りの面子を眺めては悦に浸る特殊な収集癖があったからこそ続けることができていた。
魔物が全てをこなすゲームで手に入るアイテムは当然魔物のためのものだが、そのアイテムも馬鹿らしいほど大量にある。
新規で参入していようと古参だろうとこの堅牢な城を落とすことは誰にもできないだろう。無論他にもプレイヤーは存在するが、必死に掲げた運営の広告に騙されてやってきた鴨でしかなく、β時代からの猛者は生憎と男しかこのワールドには存在しない。
運営会社がイベントの配布をやめてしまい、クジの中身も大分前から変わらなくなり、課金ショップの内容も代わり映えしない。
収集癖のある男にとってこれ以上の発展が見込めないというのは結構辛く、いい加減やめようかなと思い始めている。
行けない所がないし負けもしないのでアイテムもコンプした。600種類の資源も400種類の魔物用の装備も800種類の調度品も3400種類のコスチュームも揃え、これ以上一体何をしろと言うのだろう。
目的は元々あってないようなもので、収集し終えたらやめようという気持ちはずっとあった。
──いや、違う。期待していたのだ。
誰かが敵対勢力として現れることを。誰かが友好国として共に歩めることを。この国に誰かがやってくることを。心の何処かで期待していたのだ。
国同士の争いや調停などと言った駆け引きを最盛期を過ぎてもずっと楽しみにしていた。
それも、もう叶うことはないだろう。
RPGに移行されるなんて話もあったが、今の時点で喘いでいるのだから実現できるわけがない。夢物語となったのだから仕方が無い。
本当なら自分の生み出した魔物たちが戦争を行う様を直に見てみたかったが、この城の敷地しか歩けない不条理なシステムがある限り国王は国から足を踏み出すことができない。
お目にかかろうなど土台無理な話である。
馬鹿みたいに毎月課金しまくっておいて──課金ショップが更新しなくなってからも毎月注ぎ込んでいた──辞めるなど金を溝に捨てるような行為かもしれないが、次の気に入ったゲームに移るなど皆やっていること。
そこに注ぎ込んだ財産を思い返して嘆くなどゲーマーとは言えない、と思う。
なんにせよ、男は望んでいた世界を見ることなく、ただ適当に繁栄させた国とカンストした魔物達を眺める日々で終わることに寂しさを覚えたが、そんな感傷はいらないだろう。
いつかひっそり誰に知られるでもなくサービスが終了するゲームだ。思い出してそんなことがあったと考える程度の、そう言うものだ。
内心を溜め息で表し、また意味もなく満足気に頷いてから次の場所へ向かう。
使役している全魔物に会おうとも考えたが、その数は繁殖したのも含めると200000を軽く超えるので流石に無理だろう。
側近扱いしている17体の軍団長達全員に会いに行くのも国の外に出ていけないから不可能なので、とりあえず城の中に配置している一体の下へと向かった。
「おはようございます、かろんさま」
城の奥。機密を取り扱う政務室の中。ダークブラウンの壁紙に床一面レッドカーペットが敷き詰められ、魔力で動作するオレンジの球体が優しく部屋を照らしている。
モダンな落ち着いた空間に良く合うマホガニー製のワークデスクの前に座っていた女性は、男を確認すると席を立ち深くお辞儀をした。
抑揚のない無機質な声ではあるが、長い間耳にしているとそれも個性として諦めが付くようにもなる。事実男がそうだった。
彼女こそ、このゲームで唯一会話用のAIを搭載されたキャラクター。
運営が苦肉の策で実行した好きなキャラを副官に出来ちゃうシステムによってお粗末なボイスパッチで当てられた被害者。
唯一の話し相手であり、たった一人の理解者……と勝手に思っている、男を今まで支えてきた内政を統べる者だった。
「ああ、おはよう」
カロンと呼ばれた男は、ひらりと手を振って座るように命じる。彼女はそれを汲んで座っていた上座から下座のソファに移動すると、律儀な姿に苦笑しながら上座の彼女が座っていたデスクに腰を下ろした。
改めて女性を見る。年は人間で言うと二十代前半ほど。淡い空色のロングストレートの髪を背中に流し、男と同じ黒い軍服を着ている。
高価なビスクドールかとも思える端整な顔立ちは作成に4日もかけた男の大のお気に入りで、スラリとした細身の体にフィットしたタイトスカート式の軍服も非常に気に入っている。
【アノマリス】と呼ばれるランク9の異形種である彼女は、最も愛着のある配下だった。
「ルシュカ、調子はどうだ?」
「なにもありません、かろんさま」
美しい魔物――ルシュカは感情の色が一つも見えない無機質な音声で返事をする。
そりゃあるわけないよな。分かりきっているのに聞いてしまった自分に失笑した。
会話用のAIが組み込まれていても、言動が決められている彼女が自分で判断して言葉を、感情を、行動を表すことはただの一度としてありはしない。
真面目に話を聞いていますと言った顔でうんうん頷きだけを見せるルシュカだが、それは所詮フリでしかない。
分かっているが、これが始めた頃から仕えてきてくれた人物の一人なのだ。
そう思うと愛おしく感じてしまうのは、ただ無碍に過ぎていった時間のせいなのかもしれない。
じっとカロンを見つめて微動だにしないルシュカをどうしようか考えてみるも、させることなど正直あまりない。
副官として指定した彼女だが、やっていることはカロン直々にやる必要性がない簡単なクエストの処理だけ。ちょっとした国内の問題であればカロンに報告が上がる前にルシュカが済ませている。
きっとルーチンワークにならないようプレイヤーが処理するクエストを軽減させるのが目的なのだろうが、他にプレイヤーがすることがないから結局は変わらず、むしろクエストの量が減るので手持ち無沙汰になりやすかった。
改悪とは言わないが、あまり良い考えではなかっただろう。一昔前の機械を彷彿とさせるとしても話し相手が出来たことだけは評価できるが。
なんとなく会いに来て、なんとなく話をしてみたが、結局いつもと変わらない。
ボタンを押せば相槌を打つにも似て、やはりカロンの一人芝居なことに変わりなかった。
飽きたわけではないが、ひっそりと秘めていた寒々しさがどうにも誤魔化しきれそうにない。
やっぱり、止め時なのか。
メニュー画面を開いて時計を見ながら、もうすぐメンテナンスの時間なのを確認する。
メンテナンス中は全サーバーを停止させて行われるため、ログインしていると強制的に弾き出される仕組みだ。
──その時間まであと5分。
わざわざ自力でログアウトする必要性も感じられず、深く椅子に腰掛けて目を瞑った。
目的は全て果たし、全てを手に入れてきた。
開始当初の凄まじい戦争ラッシュを、このルシュカと共に国を築き上げてきた。
過疎になり過ぎて攻略wikiなどあってないようなものでしかなく、分からないことは自力で調べて回った。
秘宝と呼ばれるエンシェントレア級のアイテムを集め尽くすのにどれだけ時間をかけたのかは思い出したくもない。
すれ違う魔物を見て自分の望んだ様子の一端があるのに、稚拙すぎると一喜一憂したことも数多くある。
それを二度と戻らぬ決意をすると体が拒む。
役立たずな運営で、メンテの度に鬱陶しいと思ったが、今回ばかりはそれに感謝しよう。
今後も仕事から帰ってきてプレイしている最中に数時間もメンテナンスされるのはかなり腹が立つので、この怒りに任せて別のゲームに乗り移るのもありかと考えていた。
「……お疲れのようですね」
妙に的を得たような定型文を口にされ、意思疎通がとれたのかと目を丸くしたが、そんなわけないだろうと小さく笑って手をひらひらと振る。
「そうだな……っと、おいこのタイミングで来るか?」
残り2分。
時間がないというのに、よりにもよってNPCから宣戦布告をされたらしく、視界の情報にピロンと可愛らしい音を立ててメッセージが表示された。
「ん?」
しかし、そのメッセージは文字化けでもしているのか、所々が読み取れない。
?や※で虫喰された文章を読もうと頭を悩ませたところで、
その刻が訪れる。
バチッと静電気が走ったような痛みがカロンの頭を一瞬襲う。
刹那の痛覚だがじわりと頭に残り、眉間に皺を寄せて何が起きたのかとこめかみを押さえた。
次の瞬間。
「っ、がああああああああああああ!!!」
突如強烈な頭痛が脳内を駆けずり回り、白目を剥いて床の上を転げまわり出す。
なんの前触れもなく襲い掛かった電撃は、形容するなら眼球の裏側から鉄の杭を突き刺して掻き回される感覚。
頭が破裂しそうな、溶けて崩れそうな猛烈な熱と痛みが脊髄を通って体中にも走り抜けていき、身体が痙攣を始めた。
VRヘッドセットには必ずセーフティが存在している。プレイ時間が連続3時間経過すると1時間は休憩するようにされているし、1日のプレイ時間がトータル9時間を超えた場合翌日までプレイ不可になるように設定されている。
睡眠や食事などが必ず行われるように配慮されており、のめり込むプレイヤーに問題が生じぬように対策が施されているのだ。
そして、脳に直接影響を与える装置として、当然のように体調不良などを感知する機能も備えている。
プレイヤーの健康状態に問題があれば制限を設けたりすることで事故を未然に防ぐ。
のだが、今カロンにはそれが一つとして適用されていなかった。
本来なら強制で電源をオフにして使用を止めるはずなのに、頭が割れそうな頭痛を起こしていると言うのにゲームが終了されない。
死ぬ。
それだけが、頭痛の中で明確に過ぎった。
手足を突っ張って激しく震え、自分の意識が真っ白に染まって消えていく感覚がやってくる。
カロンが最後に見たのは、赤黒く発光する文字の羅列と、自分の身体に寄り添って涙する、美しい空色の髪を揺らす副官の姿だった。
その日、一つのゲームが突然のサービス停止した。
プレイヤー人口が地の底で、常時ログイン数は二桁程度しかないサーバーが3つもあるようなゲームに運営側が気を使うはずがなく、サーバーを予告なしに遮断された。
理由は不明。
運営の謝罪文では、ウイルスかサーバーの異常と書いてあったが、真偽は誰にも分からない。
ログインしていたプレイヤーは皆自動で強制ログアウトさせられるが、そこでVR史上前代未聞の事態が誰も与り知らぬところで発生していた。
唯一ログインしていたプレイヤーの脳が、何らかの影響に引き摺られて機能を停止してしまったのだ。
サービス終了に本来必要なプロセスを省き、システムが異常を来した状態でサーバーを停止させたせいだろうと後の専門家は答えたが、それが事実かどうかは定かではない。
運営会社がそれを知るのはまだ先のことで、素知らぬ顔で次の作品の準備を進める。
小さなアパートの一室で、一人の男の一生が終わってしまったなど露知らず。
本来ならそこで話は潰えてしまう。
しかし、この物語は一人の死では終わることはない。
電子の世界に起きた、誰も知らない不可解な現象は、次の物語を開始する。
哀れな男の死で閉じた物語は、哀れな王と仲間たちの物語へと、変化を起こした。
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