骨・運動器疾患研究室
室長 小田 剛紀
脊椎手術の低侵襲化および安全性向上に向けての研究
当センターでは脊椎手術において特にインプラントを使用する固定術を施行する際には、Multiplanar reconstruction (MPR)- CT を用いた術前コンピューターシミュレーションを行っており、正確なインプラント設置や手術時間短縮を達成している。その一環として腰椎に関しては、椎弓根最短径(至適椎弓根スクリュー径)をy、冠状断椎弓根横径をxとした場合の回帰式を、L1・L2 はy=x、L3 はy=0.88x、L4 はy=0.76x、L5 はy=0.58x と提唱した。さらに、術中神経損傷を避けるべく手術の安全性を高めるために術中神経モニタリング機器を導入し、X/DLIF(extreme/direct lateral interbody fusion)など様々な術式に対するその有用性を研究している。また、骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折に対する低侵襲治療である経皮的後弯矯正術(BKP:Balloon Kyphoplasty)のトレーニング施設として認定されており、その臨床的・社会的有用性を研究している。
関節リウマチに伴う脊椎病変に関する研究
関節リウマチでは四肢関節障害と同様に高頻度に脊椎病変を合併する。特に頚椎病変は延髄・脊髄症状が出現すると、ADL低下を来たし生命予後にも影響する。近年、病態形成の中心的役割を担う炎症性サイトカインや炎症細胞を標的とした生物学的製剤が導入され、優れた疾患活動性制御や四肢関節破壊抑制・修復効果が報告されている。当センターでは脊椎病変において同様の修復作用あるいは進行防止効果が認められるか観察研究を行っている。一方、腰椎病変に関してもその発生頻度は頚椎病変と差がないとされており、腰椎側弯変形の有病率に関しては当センターにおける関節リウマチ患者の約30%に上ると報告した。近年、革新的な内科的治療の進歩による患者活動性向上し、腰椎病変に対する手術治療頻度が増加傾向にある。頚椎病変に関する手術治療体系についてはほぼ確立されつつあるが腰椎病変に関しては未だ確立されておらず、現状の問題点について考察し腰椎病変に対する手術治療体系の整備を検討している。
人工股関節の擢動面摩耗の研究
- 耐摩耗性を向上させるためポリエチレンへガンマ線照射された”Cross-Linked Polyethylene”を使用した人工股関節の摩耗量を、骨頭径の摩耗量に与える影響を調べるため、対象を26mm骨頭と32mm骨頭の2群にわけてin vivoで経時的に摩耗計測を行っている。ポリエチレンの変形(初期摩耗)やレントゲン画像から摩耗計測ソフトを用いて計測するための誤差は手術後3年を経過すると無視できることが判明し、それ以降は両群とも摩耗量は著しく軽減し有意な違いは認めないことがわかった。本年は、手術後5年経過しても26mm群、32mm群で有意差は無いことを発表した。今後は術後10年をめどに磨耗量を測定する研究を継続する予定である。
- 耐摩耗性を向上させるために関節擢動面にセラミックを使用した臨床成績は良好があるが、合併症としてセラミックの破損が報告されている。それを解決すべくセラミックの耐摩耗性と破損予防を兼ね備えた材料”オキシニウム”が臨床応用されつつあるが、まだ詳細な合併症・摩耗量の検討は少ない。当センターでは本年より、直径32mmのオキシニウムヘッドとCross-Linked Polyethyleneの組み合わせによる人工股関節手術の合併症・摩耗量の計測を行いその臨床的有用性について研究を開始している。
人工股関節手術後のADL動作の研究
人工股関節手術後の重篤な合併症の一つに股関節脱臼がある。日常生活に安全な股関節可動域は患者毎に異なるにもかかわらず脱臼を予防するために一律に過度の動作制限を患者に強制しているのが現状である。当センターでは、昨年度より術後患者個別の安全可動域を検討し術後患者のADLの拡大を図ることを目的として、赤外線位置センサーを用いた三次元位置計測システムを用いてADL動作の研究を続けている。昨年度はADL動作のうち靴下着脱動作に着目して術後1年以上経過した患者を調査したが、患者の70%以上は入院中のリハビリ指導を遵守せず自由に靴下着脱動作を行っていることがわかった。さらに自宅で高頻度に行われている靴下着脱動作パターンを三次元位置計測システムにて検証したところ、その動作パターンは健常者と比較しても脱臼しない安全範囲内でおさまっていることをが判明した。昨年度は起居動作に着目し、手術後急性期(術後7日目)においては、ベッド上から術側サイドへ起き上がる方法が最も安全であることを明らかにした。今後は、症例数を増やしどの程度安全であるのかを定量化していく予定である。
3次元動作解析装置を用いた脊椎上肢機能評価
光学式三次元位置計測システムを用いて多関節障害を有する関節リウマチ患者の日常生活動作に於ける頚椎—上肢の動作解析をおこなっている。昨年度までの研究で、洗髪、洗顔、摂食などの動作では頚椎、肩関節、肘関節は連動して動いていることがわかった。
今回は、人工肘関節置換術によって肘屈曲角度が改善した関節リウマチ患者における洗髪、洗顔、摂食の3つの動作を術前、術後で評価した。洗髪と洗顔動作に関しては、手術で肘可動域制限が改善したことによって頸椎の必要屈曲角度が減少する傾向が認められた。肘の機能改善によって頸椎への負担が軽減することが示唆され、頸椎病変の進行に影響を与える可能性が考えられた。今後さらに検証をすすめていく予定である。
今回は、人工肘関節置換術によって肘屈曲角度が改善した関節リウマチ患者における洗髪、洗顔、摂食の3つの動作を術前、術後で評価した。洗髪と洗顔動作に関しては、手術で肘可動域制限が改善したことによって頸椎の必要屈曲角度が減少する傾向が認められた。肘の機能改善によって頸椎への負担が軽減することが示唆され、頸椎病変の進行に影響を与える可能性が考えられた。今後さらに検証をすすめていく予定である。