神経内科 (Neurology)

研究活動:神経変性症における脳内の鉄代謝

はじめに

微量金属は種々の重要な蛋白質、酵素の構成要素で、生命維持に必須である。一方、銅や鉄などの遷移金属は活性酸素やフリーラジカルの産生を強力に触媒するので、アポトーシス反応、細胞膜の破壊、蛋白質の凝集などを促進する。したがって、生体内の金属は欠乏あるいは過剰にならないように厳密に調整されている。しかし、その分子機構、なかでも神経系での金属代謝はほとんど解明されていなかった。われわれが脳内をはじめ全身に鉄蓄積をきたす神経変性症のaceruloplasminemia を報告した頃より、鉄関連蛋白質が相次いで同定され、鉄蓄積脳症の新たな原因遺伝子が同定されてきた。
 また、神経系の発達や機能維持には鉄ばかりでなく、銅、亜鉛、マンガン、セレンが必須である。そして、鉄、銅、亜鉛、マンガンは神経終末のシナプス小胞に含まれ、神経伝達物質の受容体、イオンチャネルなどの活性をダイナミックに調整していることも明らかになった。最近では、アルツハイマー病、パーキンソン病、プリオン病などの神経変性症の病態における微量金属の関与が注目されている。
 今回は主に、脳内の鉄代謝蛋白質の異常、あるいは金属を介した蛋白質の凝集が病態に関与する神経変性症について述べる。

宮嶋裕明 Hiroaki Miyajima
(浜松医科大学第一内科)

I. 脳内の鉄動態

血液中のトランスフェリン鉄はトランスフェリン受容体を介したエンドサイトーシスによって血液脳関門を通って取り込まれ、脳脊髄液の吸収を介して循環系に戻る。ただ脳の鉄必要量は血液からの供給量よりも多く、脳内で鉄サイクルを形成して再利用していると考えられる(図1)。このため、体内の鉄欠乏あるいは鉄過剰の影響が脳内に及ぶことは少なく、代表的な鉄過剰症である遺伝性ヘモクロマトーシスでも体内への過剰な鉄蓄積はあるものの脳への異常鉄沈着は認められない。




II. 脳内の鉄サイクルの障害による鉄蓄積脳症

1. Aceruloplasminemia

セルロプラスミン(Cp)は、血中に分泌される分泌型Cpと細胞膜に結合するGPI (glycosylphosphatidylinositol) 結合型Cpの2種類のアイソフォーム蛋白質が存在する。分泌型Cpは肝臓で生合成されるが、GPI結合型Cpは肝臓だけでなく、脳、網膜、肺、心臓、腎臓、骨格筋など全身の組織で発現している。分泌型Cpは血中に存在し、その酸化活性によってNO代謝に関与している。一方、GPI結合型Cpは各組織の細胞内から細胞外への鉄の動員を鉄トランスポーター蛋白質のフェロポルチンと共同して行っている。分泌型Cpは血液脳関門を通過できないため、脳内のCpではアストロサイトや神経細胞で発現するGPI結合型Cpが働いており、鉄代謝の中心的役割を担っている(図1)。


図1.脳内の鉄サイクル

血中から血管上皮のフェロポルチン(Fp)を介して細胞間隙に輸送された2価鉄、あるいはアストロサイトへ取り込まれた後に細胞表面のFpを介して細胞外へ輸送された2価鉄は、GPI結合型セルロプラスミン(GPI-Cp)により酸化され3価鉄になりトランスフェリンに結合する。これが神経細胞のトランスフェリン受容体(Tf-R)に結合する主要経路と、クエン酸・アスコルビン酸を介した副経路により鉄が神経細胞に供給される。神経細胞にはFpと共役して鉄を細胞外に動員するCpと同様の役割を果たすタンパク質としてアミロイド前駆体蛋白質(APP)が同定された。神経細胞にはCpのホモログ蛋白質であるヘフェスチン(Hp)も存在する。DMT1:鉄トランスポーター

AceruloplasminemiaはCpのloss-of-functionによる全身諸臓器への鉄過剰蓄積を来す常染色体劣性遺伝性疾患である。脳内の鉄はおもにアストロサイトに沈着し、フリーラジカルの産生を促し、脂質過酸化の亢進、ミトコンドリアの障害を引き起こして細胞傷害をきたす。神経細胞にも鉄沈着はみられるが、ノックアウトマウスの実験から、神経細胞はアストロサイトから鉄が動員されないために、二次性の鉄欠乏による細胞障害が起きている。脳内の鉄沈着は広範に生じるが、特に基底核、小脳歯状核、視床の鉄濃度が高く、それを反映して不随意運動、小脳性失調、認知機能障害などの神経症状を引き起こす(図2)。脳以外にも全身の組織に鉄の蓄積が生じるため、臓器の重量に対する蓄積量が相対的に多い、甲状腺、心臓、膵臓では障害が起こりやすい。肝臓への鉄蓄積もMRIなどの画像検査上では明らかであるが、実際に肝機能障害をきたすのはかなり末期である。GPI結合型Cpがないと鉄の動員に必要なフェロオキシダーゼ(鉄酸化)活性が欠損するだけでなく、細胞膜のフェロポルチンが速やかに分解され、細胞外への鉄動員が阻害されて細胞内に鉄蓄積が起こることが分かっている。

図2.Aceruloplasminemiaの臨床症候とMRI T2強調画像

脳内の鉄沈着は大脳基底核、視床に目立つ。肝臓にも著明な鉄沈着がある。これらの沈着部位に対応して症状が発現する。典型例での症候の発現時期を示す。



たまたまこの疾患の患者で、新鮮な生牡蠣からエキス分を抽出し濃縮した液状タイプの栄養補助食品を摂取していたところ症状が改善した。この食品には多くの亜鉛が含まれていることが分かり、他の患者を含め血中の亜鉛濃度を測定した。その結果、患者では同年代の健常者と比較して亜鉛濃度が低いことが判明した(図3)。そこで大学の倫理委員会の承認を得た後に、3名の希望者に亜鉛製剤を服用してもらったところ、いずれの患者でも3-6ヶ月後に不随意運動、あるいは運動失調の改善をみた。海外でも亜鉛治療が行われ神経症状の著明な改善をみた18歳の女性例がある。

図3.血中の亜鉛濃度

Aceruloplasminemia患者、セルロプラスミン遺伝子異常のホモ接合体患者は男女各3名(年齢58.4±8.2歳)、ヘテロ接合体患者は男女各4名(年齢52.8±6.5歳)、コントロールの健常者は男女各10名(年齢55.4±10.2歳)

2. Neuroferritinopathy

フェリチンは体内の鉄貯蔵蛋白質として知られており、内部に鉄を貯蔵する中空部分をもつ可溶性蛋白質で、サブユニットH鎖とL鎖が24個集合している。フェリチンは反応性の高い2価鉄イオンを酸化して不活性な3価鉄イオンとして最大約4500分子を含有でき、体内の鉄の無毒化や鉄濃度のコントロールの役割を担っている。
 Neuroferritinopathyは、フェリチンのL鎖の遺伝子異常による常染色体優性遺伝疾患で、基底核の鉄沈着によりジストニアなどの不随意運動、運動障害、認知機能障害をきたす。鉄蓄積はグリア細胞、主にアストロサイトに認められる。これはL鎖の遺伝子異常によりサブユニットの集合が難しくなるため鉄貯蔵能が低下することによると考えられている。このため鉄介在性のフリーラジカルの産生によって、アストロサイトを中心に細胞傷害が引き起こされることになる。

III. 鉄代謝障害による二次的な鉄蓄積症脳症

1. Friedreich失調症

 Friedreich失調症は、欧米では最も頻度の高い常染色体劣性遺伝の脊髄小脳失調症である。原因は、ミトコンドリア蛋白質のfrataxinをコードするFRDA遺伝子、第一イントロンのGAAリピートの異常伸張である。ミトコンドリアのTCA回路においてクエン酸をイソクエン酸に変換する酵素アコニターゼは、活性中心にFe-Sクラスターが存在する。frataxinはアコニターゼに結合し、Fe-Sクラスターを安定化、維持する機能を持つといわれる。さらにアコニターゼはエネルギー産生に関与するだけでなく、ミトコンドリアDNAと結合してこれを安定化させる作用も持っていると考えられている。

2. 古典的なNeurodegeneration with Brain Iron Accumulation (NBIA)

 古くより脳の過剰鉄蓄積と神経症状を呈する疾患をNBIAと称して、NBIA1型は従来のHallervorden-Spatz病、NBIA2型はInfantile neuroaxonal dystrophyを指している。いずれも小児期より著明な神経症状を呈し、脳内の鉄蓄積を特徴とする。NBIA1型では基底核への鉄沈着を特徴とし、MRIで中心が高信号でその周囲に低信号を示す特徴的な“eye of the tiger”所見を淡蒼球で認める。この患者の50%以上ではPantothenate kinase 2遺伝子(PANK2)の異常が認められ、Pantothenate kinase-associated neurodegenerationといわれている。Pantothenate kinaseが欠乏すると、コエンザイムA(CoA)の欠乏が生じて、エネルギー産生や脂質二重膜の維持に破綻が生じて神経細胞が傷害される。NBIA2型では脳内の鉄沈着と小脳萎縮が早期より認められ、約8割に脂質代謝におけるカルシウム非依存性グループIV phospholipase A2の遺伝子(PLA2G6)の変異が認められる。

3. 常染色体劣性遺伝のパーキンソニズム・ジストニア症候群

 遺伝性のパーキンソニズムとジストニアを中心とした神経症状をきたし、脳内の鉄沈着が認められる疾患にKufor-Rakeb disease (PARK9)とEarly onset PARK14-linked dystonia-parkinsonism (PARK14)が挙げられる。それぞれの原因遺伝子はATP13A2とPLA2G6である。ATP13A2蛋白質は、ライソゾーム内のpHの維持を行い、脂質代謝において脂質のリサイクルに関与している。ライソゾームは細胞内の小器官、なかでもミトコンドリアに鉄を供給する役割をもっており、ライソゾームに障害があるとミトコンドリアの鉄代謝に影響を及ぼすと考えられる。ほかにも糖脂質を分解するライソゾーム酵素、グルコセレブロシダーゼ(GBA)の欠乏によるGaucher病では、パーキンソニズムを合併しやすく鉄の沈着もみられている。また、前述のPLA2G6蛋白質はミトコンドリア内膜のphospholipid代謝に関与し、脂質二重膜の維持を行っていると考えられている。

4. 新たな脳鉄蓄積症の原因遺伝子

 脳内の鉄蓄積をきたす新たな神経変性症の原因遺伝子が3つ報告された、FA2H、C2orf37、C19orf12。脂質二重膜の維持、あるいは細胞活動を制御するシグナルとなるセラミドの生合成に関与するFatty acid hydroxylaseの遺伝子がFA2Hである。ミトコンドリア蛋白質の遺伝子のひとつであるC19orf12の変異では、40代からのパーキンソン病を呈するのが特徴である。いわゆる一般的な弧発生のパーキンソン病と臨床的には同じである。パーキンソン病で認められるLewy小体と鉄代謝の関係は古くから知られており、Hallervorden-Spatz病でも鉄沈着に伴うLewy小体の存在が報告されている。一般的なパーキンソン病の発症メカニズムのひとつにミトコンドリア障害が注目されており、ミトコンドリアの鉄代謝の異常がパーキンソニズムと関係している可能性が示唆される。
 これらの新たな疾患と原因遺伝子の同定からミトコンドリア・ライソゾーム系の障害が鉄代謝と大いに関連することが予想される(図4)。

図4.ミトコンドリアの脂質代謝、エネルギー産生とライソゾームに関連する脳内の鉄関連蛋白質

□は鉄蓄積症の原因蛋白質を示す。

IV. 金属が介在した蛋白質の凝集が病態に関与する神経変性症

アルツハイマー病を特徴づける病理学的所見は、1)神経細胞外に沈着するアミロイドβ蛋白質(Aβ)を主要構成成分とする老人斑、2)神経細胞内に蓄積するリン酸化したタウ蛋白質を主要構成成分とする神経原線維変化、3)選択的な神経細胞脱落である。なかでもAβの沈着は最も早期に生じる変化で、それに続いて神経原線維変化が形成され、その頃から神経細胞が減少し始める。そうすると、海馬や皮質の連合野では神経ネットワークが崩壊し、徐々に認知症としての臨床症状が顕在化すると考えられている。Aβは健常人でもアミロイド前駆体蛋白質から切り出されるが、この場合αセクレターゼによるアミノ末端の切断、γセクレターゼによるカルボキシル末端の切断が行われ、完全型のAβは産生されない。これが、はじめにαセクレターゼでなくβセクレターゼにより切断される場合、Aβが産生される。健常人でもアミロイド前駆体蛋白質から10%位はAβが産生されるが、酵素ネプリライシンにより分解される。Aβが産生される場合、複合体酵素であるγセクレターゼにより40アミノ酸からなるAβ40と、カルボキシル末端側に2アミノ酸長いAβ42がそれぞれ産生される。Aβ42はより凝集性が高く、in vitroでの神経細胞毒性が強い。近年、凝集したAβよりも可溶性のAβが数個から数十個重合したオリゴマーによるシナプス変性が神経細胞の脱落により重要であることが注目されている。このオリゴマーAβの形成にはガングリオシドが必要で、アポリポプロテインE、鉄イオン、銅イオン、亜鉛イオンが重合を促進する(図5)。さらに補体系などが関与して老人斑の周辺には活性化したミクログリアが集積し局所的な炎症が生じる。
 生理的に発現した蛋白質が重合してアミロイド線維を形成し、病態の形成に関与するのはアルツハイマー病だけではない。いわゆる「コンフォメーション病」の範疇でとらえられる多くの神経変性症も同様の機序が議論されている。これらの疾患では脳内の蛋白質がβシートに富む構造へと変化してアミロイド線維として蓄積する。蛋白質の重合に微量金属が重要なことは、Aβのほかにも、パーキンソン病のαシヌクレイン、プリオン病などでも観察されている。αシヌクレインの凝集過程で、可溶性のプロトフィブリルがシナプスの機能障害を引き起こし症状を発現する。このプロトフィブリルの形成をアルミニウム>銅>鉄が促進する。これに対し、非可溶性の凝集物は生物学的な活性を持つプロトフィブリルのリザーバーとして働いていると考えられる。

図5.アルツハイマー病で考えられているアミロイドβ蛋白質(Aβ)による神経細胞障害

Aβオリゴマーによる、シナプス障害、神経原線維変化の誘導、カルシウムチャネル様の膜障害により神経細胞死がもたらされるという仮説を示す。

プリオン病の代表的疾患クロイツフェルト・ヤコブ病は、認知機能障害から始まり精神・神経症状が急速に進行して死に至る疾患である。この原因は、脳の正常プリオン蛋白質(PrPc)が病原性異性体(PrPsc)に変化することにあり、PrPscは伝染性の病原性を有する。PrPcは253アミノ酸と銅原子2-3個からなる。この蛋白質は主に神経細胞に発現し、細胞膜の表面に移動してC末端のGPIアンカーで結合した後、ライソゾームでアミノ酸に分解され再利用される。PrPcは抗酸化作用のあるSOD酵素の一種で、細胞表面で銅が自由電子を捕捉することにより神経細胞膜をフリーラジカルによる破壊から保護する、あるいは銅の細胞への出入りを調節してシナプス神経伝達機能に関与すると予想されている。PrPscはAβと同様にβシートの多い構造をとって凝集し、オリゴマーが26Sプロテアソームを阻害して神経細胞傷害を来す。またオリゴマーの神経細胞毒性は鉄の存在によって増強される。その結果、神経細胞の脱落による海綿状脳症の病理像を呈すると考えられている。

おわりに

脳内の鉄動態は未だ十分に解明されていないが、ライソゾームからミトコンドリアへの鉄の供給、ミトコンドリアでの脂質代謝、エネルギー産生と鉄動態が密接に関係している可能性がある。そして、その破綻により鉄蓄積を伴う神経変性きたし、認知症、パーキンソニズムや小脳失調などを引き起こすことが考えられる。また、生理的に発現している蛋白質、あるいは変異蛋白質は、微量金属の存在下で重合すると、細胞障害性を発揮する。したがって、この重合過程を選択的に阻害することで、新たな治療法に繋がることが期待される。
 さらに最近、神経細胞の表面にAβの前駆体蛋白質APPが存在しており、これがフェロオキシダーゼ活性を持っておりフェロポルチンと共役して神経細胞から鉄を細胞外へ動員していることが報告された。この作用は亜鉛によって抑制されるという。また、タウ蛋白質のノックアウトマウスではAPPが減少して黒質の神経細胞内の鉄が増加し、パーキンソン病様の症状をきたすことが報告された。アルツハイマー病やパーキンソン病では神経細胞内に鉄が蓄積するが、APPが介在する脳内鉄サイクルの障害がこれらの疾患の病態に関連しているとすると、これは神経変性症における新たな治療法のターゲットとなり得ると考えられる。