地球シミュレータ

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地球シミュレータ(2代目、2015年2月までの旧システム)
地球シミュレータ(初代)

1993年~1995年にTOP500首位となった数値風洞計画(NAL、富士通)を先導した三好甫が、それに引き続き日本スーパーコンピュータをリードするシステムとして、JAMSTECと日本電気を先導したのが本計算機計画である。また科学技術庁(1998年度当時)としては地球規模の環境変動の解明・予測といった大義の他、バブル崩壊により著しく落ち込んでいた業界の維持といった目的もあり、600億円を投じて開発が開始された。2001年下旬に三好は逝去したが、残された計画通りシステムは完成、2002年3月15日に運用を開始し、目標通りの威力を発揮した。まず、その実性能自体が「コンピュートニク」とすら呼ばれるほどの印象を高性能計算関連の(主として米国の)産官学に与えた。また科学的な成果としては、地球温暖化地殻変動といった、文字通り地球規模でのシミュレーションに利用され、気候変動に関する政府間パネルの2007年ノーベル平和賞受賞にも大きく貢献し、他にも多くの計算科学による成果を上げた。その後も公募により、地球科学、先進・創出分野での共同利用が行われている他、2007年からは産業界による成果専有型の有償利用も可能となっている。2009年3月に2代目のシステムへの更新、2015年3月に3代目のシステムの更新を完了し、4月から運用を開始している。初代以来、また日本のHPCの旗艦としての役割を京コンピュータと分担している現在も、「最後のパイプラインベクトルスーパーコンピュータ」となっているNEC SXシリーズの名実共に旗艦という存在にもなっている。

SX-5をベースとした初代システムでは、1ノードは8GFLOPSCPU8個、16GBのメモリからなり、640ノード(5,120CPU)を単段クロスバースイッチで接続、最大理論性能は40.96TFLOPSであった。本システムのために開発した、SX-5を1チップ化したLSIを使用しており、SXシリーズのその次の世代であるSX-6にも活用された。

OSはSXシリーズ用のSUPER-UXをベースに特化した拡張をしたものであり、プログラミング言語処理系としてはFortran 90C/C++コンパイラが利用できる(いずれも地球シミュレータ専用のカスマイズや調整(チューニング)が入っている)。並列化にあたっては、「ハイブリッド並列化」と「フラット並列化」の二つのプログラミングモデルがある。前者はノード間並列化をMPI、ノード内並列をマイクロタスクまたはOpenMPで記述する一方、後者はノード間・ノード内の両方の並列化をいずれもMPIで書く。一般的には前者はパフォーマンス重視、後者はプログラミング効率重視のモデルとされている。ユーザはこれらの並列化に対応したプログラムをバッチジョブとして投入する。名前が与えるイメージとは裏腹に、GRAPEのような専用計算機ではなくあくまで汎用計算機であるので、地球科学とは直接にかかわりのない分子動力学計算などにも利用されている。

初代のシステムを2009年3月に更新して、4月運用を開始した。 コストを抑え、さらに性能向上を図るため、2008年度に維持費とは別に5億円を計上し、6年間185億7600万円のレンタルにより新機種のSX-9/Eに更新し、ピーク計算能力を初代の3.2倍となる131TFLOPSに引き上げた。これにより、設置面積は半分の650平方メートル、電気代は従来の7-8割程度となる 。さらに、2009年6月にはLINPACKベンチマークで122.4TFLOPS(実行効率93.38%)を達成した。これは2008年11月発表のTOP500リストで実行効率世界1位、実行性能日本1位、世界ランキング16位に相当する。また、LINPACKを補完し、多面的な観点から性能を評価する目的で開発された性能指標を競うDARPA HPC Challenge Award Competitionにおいて、2009年11月には4部門(Global HPL, Global RandomAccess, EP STREAM, Global FFT)のうちEP STREAM、 Global FFT部門で3位、2010年11月にはGlobal FFT部門で1位を獲得した。

SX-ACE 5120ノードへ2015年3月に更新。 このシステム更新で1.31PFLOPS、メモリ容量320TB、消費電力は約2MW以下(初代は約5MW、ES2は約3MW)となっている。。

初代システムの維持費用は年間約50億円(内訳は電気代約5億円、ガス・水道代1億5000万円、保守費用45億円)であった。消費電力は約6MWで、実アプリケーションの性能を確保するための高速メモリとネットワークに必要な電力とされた。

地球シミュレータのような専用のベクトルプロセッサを用いた計算機は、近年主流となっているPCクラスタに比べ価格性能比が低く、性能当たりの消費電力が多いとされる。ベクトル計算機とPCクラスタは得意分野の違いもあり、単純比較することは必ずしも適切ではないが、例えば2006年から運用開始された東京工業大学TSUBAMEは、2002年に運用開始時の地球シミュレータと比較して導入費用は20分の1、電気代は5分の1、計算速度は1.6倍(LINPACK性能比)である(現在はどちらも新システムに更新し、それぞれ性能が向上している)。