茂木健一郎のILOVE脳

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脳科学的ダイエット…「欲望をコントロールせよ」

 最近、ある友人と話していて、体重の話題になった。

 「茂木さん、最近の、ダイエットの相場って、1キロ10万円だそうですよ」

 「ん?」

 私は、とっさに意味がわからずに聞き返した。

 「1キロ10万円。1キロ痩せるのに、だいたい10万円くらいかかるんだそうです」

 へえ~と思った。キロ10万円ということは、100グラムあたり1万円。高級和牛だって、そんなにしない。ダイエットは、超高級の食材なみということか。

 そういう問題では、ありませんね。はいっ、わかっております!


「くまモン体型の脳科学者」とは失礼な!

写真1

 私のリュックには、くまモンのキーチェーンがついている(写真1)。確か、熊本空港かどこかで買ったんじゃないかと思う。

 「なぜ、くまモンがついているのですか?」と聞かれると、私は、こう答えることにしている。

 「いやあ、持ち主が、誰だか、簡単にわかるようにしようと思って」

 そう言うと、だいたい、相手は笑う。

 失礼な、と思うけれども、体型がくまモンに似ているというのは自己申告だが、本当である。講演会でも、「今日は、くまモンみたいな脳科学者が来ました」というと、みんな大抵笑う。

 人間は、正直なものである。

 

なかなか減らない「腹の上のポニョ」

写真2

 今の私は「腹の上のポニョ」だが、ずっとそうだったわけではない。学生時代はどちらかといえばスリムで、「自分が太ることなどあり得ない!」と思っていた。写真は、大学で物理学科に進学する時の、20歳の私である(写真2)。いささか不鮮明だが、当時は痩せていた、ということだけはわかっていただけると思う。

 私の身長は、171センチ。あの頃は、体重が、だいたい60キロ前後だったのではないかと思う。

 それが、大学院あたりから太り始めた。どうも、研究室の先輩たちと、実験を終えたあとにビールやウィスキーを飲んでいたのがよくなかったらしい。

 65キロを超えたあたりで、これはまずいと思った。次の心理的な壁は、70キロにあった。超えたときには、しまった、小太りになってしまったと思った。そのうち、そんな体重にも慣れてしまった自分がこわい。

 意志が弱いのか、もう、戻ることは難しかった。科学者の言葉でいえば、私の体重は、「単調増加関数」(増えることはあっても、減ることがない関数)のカーブで変化していったのである。

 その後も、私の体重は、順調に成長を続け、今は82キロになっている。つまり、20歳の60キロから、51歳の82キロまで、ほぼ30年かけて、22キロの増加。1年あたりでいえば約0.7キロだから、大したことはない、と強弁したいところだが、そんな度胸もない。


「うそでしょ!?」100キロ超えていた林先生

 「このままではよくない」と時々思うが、なかなか、体重を減らすという具体的な算段が思いつかない。

 冒頭に紹介した、私の友人が言う「1キロ減らすのに10万円」というダイエット法を応用すれば痩せられるのかもしれないが、そこまでやる気も起こらない。

 ところが、世の中には、体重を減らすことに成功している人が、実際にいるのである。

 「いつやるの?」「今でしょ」で有名になった予備校講師の林修先生とテレビ番組で共演した時、林先生にすごい話を聞いた。林先生は、今は、70キロくらいだそうだが、なんと、3度ほど、「100キロ超え」したことがあるというのである。

 「えっ!?」

 私は、自分の耳を疑って、林先生に聞き返した。

 「ひゃ、100キロを超えたところから、生還したのですかっ!」

 「はい。3度ばかり」

 林さんは、その点だけとっても、すごい人だと思った。運動だけで減らすのは難しいことは誰でも知っている。だから、食事を調整しなければならないが、おなかが減るのはつらい。目の前にごちそうがあって、食べないのはイヤだ。人との会食、つき合いというものもある。

 体重をどう減らすかは、つまり、欲望のコントロールでもあり、脳科学の応用でもある。何か方法があるはずだ。一つ、本気になって体重を減らしてみようかと思う、今日この頃である。

茂木 健一郎(もぎ けんいちろう)
脳科学者、ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。1962年、東京生まれ。東大大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。クオリア(感覚の持つ質感)をキーワードに脳と心を研究。最先端の科学知識をテレビや講演活動でわかりやすく解説している。主な著書に「脳の中の人生」(中公新書ラクレ)、「脳とクオリア」(日経サイエンス社)、「脳内現象」(NHK出版)、「ひらめき脳」(新潮社)など。