【ディスク 感想】オーガニックな女性ヴォーカル2題 ~ SHANTI、プリシラ・アーン

・Jazz en Roses
 SHANTI (日本コロムビア)

 →詳細はコチラ(Tower/HMV)
 
・ここにいること
 プリシラ・アーン (Universal)

 →詳細はコチラ(Tower/HMV

  このところ、オーガニックという言葉を、ポピュラー系CDの宣伝文句で見かけます。オーガニック・ミュージック、オーガニック・ヴォイス、オーガニック・サウンドなど。
 
 もともとオーガニックという宣伝文句が使われるようになったのは、食品や化粧品、石鹸、あるいは衣類(特にコットン製品)といった商品に対してだと思われます。言葉の意味を辞書で改めて調べてみると、確かに「有機体(物)の」が最初に来て、「〈食品など〉化学肥料[殺虫剤(など)]を用いないで育てた、有機肥料を用いた」とありますから、先に挙げた衣食住に関わる製品に対して使われているも頷けますし、ネットで「オーガニック」の画像検索をすると、化粧品、下着、石鹸、食べ物、そんなものがずらりと並びます。

 じゃあ、「オーガニックな音楽」って何でしょうか?有機栽培とか、自然のものから作られたものに対して使われる言葉であることを考えると、素朴に考えて「人工的に手を加えていない音楽」ということになるでしょうか。つまり、コンピューターによるエフェクトを使わない、アコースティックな響きを主体とした音楽。

 ならば、クラシック音楽は、20世紀以降の現代音楽の一部を除けば、そのまんま「オーガニック・ミュージック」であって、今更オーガニックも何もあったもんじゃありません。ところが、ポピュラー・ミュージックの世界ではそうではない。今更言うまでもないことですが、人間が歌うべきヴォーカルまでもがコンピューターで作られた「無人」の音楽がもてはやされるご時世ですから、その反動で、作り手も聴き手も、アコースティックでアナログ的なサウンドの音を求めてしまうのも当たり前のこと。ヒーリング系、ニューエイジ系の音楽だけでなく、ごくごく普通のヴォーカリストのCDでも「オーガニック」な音楽を標榜する、アコースティックなアルバムがひっきりなしに出てくる。

 私が最近聴いた二人のヴォーカリストのCDの帯にも、やはり「オーガニック」という言葉が使われています。

 最初は、そのままずばり「オーガニック・ヴォイス」という宣伝文句が踊るSHANTI。ジャズ・シンガーであり、自らも曲を書くソングライターでもあり、TV番組にも司会やナレーションなどで出演するマルチタレントでもありますが、2010年のデビュー盤「Born To Sing」発売時点から彼女の声を「オーガニック」とする文がネット検索で見つけられます。
 「オーガニック・ヴォイスの日米ハーフ美人ジャズ・シンガーSHANTIが6月にデビュー」
 「なんといっても印象的なのが、ジョニ・ミッチェルやノラ・ジョーンズを彷彿とさせるオーガニックで癒し度満点な歌声。」

 当時も既に癒しという言葉ももう使い古された感があったでしょうから、もうひとつインパクトのあるキャッチーなコピーをということで、「オーガニック」という言葉が採用されたのだろうと思います。以来、私がネットで検索した限りでは、「オーガニック・ヴォイス」というコピーは彼女の専売特許状態です。

 その彼女の新盤「Jazz'en Roses」を買って聴きました。いや、買ったのは発売直後で、聴いてとても気に入り、愛聴盤になっているのですが、ここ何ヶ月か、ブログを書くペースが落ちてしまっているためにここに感想を書く機会を失っていました。

・Jazz en Roses
 SHANTI (日本コロムビア)




 彼女の声、確かに「オーガニック・ボイス」だと思います。このコピーに全面的に同意します。

 どういうところがオーガニックなのか。

 今回のアルバムは、最近流行のカバー・アルバム。チャップリンの「スマイル」やビル・エヴァンズの「ワルツ・フォー・デヴィー」から、ポリスの「見つめていたい」、イーグルスの「アイ・キャント・テル・ユー・ホワイ」、ボーナストラックでエルト・ジョンの「ユア・ソング」といった古今東西の名曲のカバーを、コンボによるアコースティック主体のジャジーなアレンジで歌っています。若い女性シンガーが、生まれる遥か前にヒットしたクラシックな曲たちを、とてもオトナな雰囲気のバックを従えて歌うのですから、曲やバックに負けないように、精一杯背伸びして、大人っぽく歌おうとしてしまってもおかしくないところですが、このSHANTIという人は、そんな気負いとは無縁で、のびのびと自分だけにしかできない歌を歌っている。厚化粧したり、ゴテゴテしたドレスを着たり、体に悪そうなことをしたり(飲酒・喫煙など)、自分にはないキャラクターを演じたり、そんなことを無理やりやって自分を飾ろうだなんて全然していない。もしかしたら、すっぴんで、カジュアルで可愛らしいいでたちで、とても楽しそうに歌っている、そんな姿が目に浮かぶような、とてもフレッシュな歌を聴かせてくれているのです。

 特に、その決して力まないのびやかな高音は、ナチュラルとかいう域をはるかに超え、やっぱりオーガニック。当然、声に加工なんてしてないし、エフェクトもなし(実際はマスタリングの工程で多少の整音はしているはずですが)、とにかく彼女がもって生まれた透明な歌声をそのまま聴いているようで、刺激的なところはなく、耳に優しい声。冒頭の「見つめていたい」からして、SHANTIのオーガニックな声がすーっと入ってきて、まるで森林浴でもしているかのような気分になる。そして、若い「女の子」っぽい弾けるような感性も随所にあって、ガール・ポップ的な可愛らしさもあって楽しい。

 私のエバーグリーンである「ユア・ソング」や「見つめていたい」も心に沁みる歌ですが、一番ツボにはまったのが、このアルバムで唯一日本語で歌われる「木綿のハンカチーフ」。そう、懐かしい太田裕美の大ヒット曲。これがもう何というか、まさにもぎたてのレモンというのか、生まれたまんまの姿というのか、言葉で形容し難いほどに新鮮な歌に私はノックアウトされたのでした。彼女のまじりっけのないハイトーンが私の心の何ものかを直撃するのです。決してイノセントという訳ではなくて、明らかにオトナの歌なんだけれど、どうしてこの女性は、大人の世界に「染まらないで」いられるんだろうかと、この歌の歌詞そのままのパーソナリティが歌に現れている。

 こういうピュアな声や芸風って、女性ジャズ・ヴォーカリストとして活動していく上では、一般的に弱点と考えられてきたのだと思います。スッキリとして喉越しのよい最近のビールよりも、苦味や雑味こそ命みたいなエビスビールだとか黒ビールの方が好まれるというようなジャンルでしょうし、クラシックと同じく、「この小娘が」みたいな扱いを受けやすいんじゃないかと思うからです。でも、私自身は、ジャズにさほど親しんでいるわけではなく、「ジャズ・シンガーたるもの、こうあるべし」というようなこだわりはまったくないので、SHANTIの歌、とても楽しんでいますし、とても好きです。彼女ののびのびした楽しげな歌を聴いていると、胸がワクワクしてきます。

 これまで私が聴いてきたほとんどの女性ジャズ・ヴォーカリストというと、良く言えば成熟した、悪く言えばスレてしまった「オトナの女性」であって、まったくもって、小さくまとまってしまった男でしかない私には、彼女らの歌を聴いていると、ドギマギして座っている私の膝に腰を下ろし、私の肩に手を回し、タバコの煙を吹きかけながら、「坊や。あんたもそんなことやってんじゃまだまだ青いわね。」と、超上から目線でからかわれるような気になることがある。でも、SHANTIの場合はそんなことはありません。全然スレたところのない、気さくで愛らしくて、でも、いろんな人生の機微をよく分かっている女性と、楽しい会話をしているような気分になります。これがまたしょぼくれた中年のおじさんにとっては、なかなかたまらない時間。ああ、きっとこのコは天真爛漫にのびのびと育てられたんだろうなあ、素晴らしい家庭で育ってきたんだろうなあ(彼女は、あのゴダイゴのドラマー、トミー・スナイダーの娘さん!!)、そして、音楽が本当に好きで、歌ったり曲を書いたりしていると最高に生き生きできるんだろうなあと、彼女の姿を眩しく見ながら、おお、オレももうちょい頑張らないとなと思う。

 燦々と降り注ぐ太陽の光も、恵みの雨も、豊かな土からの栄養も、そして、周囲の人からの愛情もたっぷり浴びたオーガニックな声。聴く者の耳に、心にとても優しい音楽。ということで、SHANTIの「オーガニック・ボイス」とはよく言ったものだと感心せずにはいられません。

 さて、また別の「オーガニックな」音楽も聴きました。それは、アメリカ出身のシンガー・ソングライター、プリシラ・アーンのニュー・アルバム「ここにいること(THIS IS WHERE WE ARE)」。ベスト盤を挟んで、前作は日本語の歌を歌ったカバー・アルバムだったのが、今回は3枚目のオリジナル・アルバム。

・ここにいること
 プリシラ・アーン (Universal)



 アルバムの宣伝コピーは「オーガニックでエレクトニック、ナイーヴでエッジー」。

 「手作りの加工品、甘くて辛い」みたいなけったいなコピーですが、ここでもオーガニックという言葉がある。ただ、オーガニックなのはサウンドなのだそうで、彼女の声自体は「ピュア・ボイス」なんだそうです。

 でも、ピュアなのかオーガニックなのかはともかくとして、私はこの人の歌もとても気に入っています。きっかけは仕事中にFMで聴いた「アイル・ビー・ヒア」。ドラマの主題歌だったそうですが、そちらは見ていなかったので初めて聴いたのですが、プリシラ・アーンの澄んだ歌声と、とてもアコースティックなサウンドがとても心地よかったから。ジャズよりはポップス、さらに根っこにはフォークやカントリー・ミュージックの雰囲気をたたえた音楽ですから、当然、SHANTIとは意味合いが違いますが、この人も自分の声の持ち味を最大限に生かして、とても透き通った音楽を聴かせてくれています。決して声を作らず、喋るように自然な息遣いをもって歌っているのがまさにオーガニックな感じ。SHANTIよりももっと「清純派」的な歌と言えるかもしれませんが、アレンジがそもそもジャズとは全然違うものなので、何の注釈もなくただただ彼女の透明な声を楽しめば良い。

 ただ、今回のニュー・アルバムは、彼女本来のナチュラル・ヴォイスをそのまま生かした、アコースティック・ギター弾き語りメインのサウンドから一歩足を踏み出していて、大半の曲でエレクトリックなサウンドを取り入れています。恐らく打ち込みの乾いたドラムビートがあり、アンビエント系というかノイズ系というか、そんな今風のサウンドを身にまとっているのです。エコー利きまくり、オーバーダビングしまくりのお風呂場サウンドは、まるで往年のバンド10ccの世界だったりもする。

 とは言え、それはあくまでアレンジだけの話。プリシラ・アーンの曲自身はさほどテイストを変えている訳ではないので、ただ衣裳を変えて音のコスプレを楽しむ、みたいな意味合いのアルバムと言えると思います。やっぱり彼女の声、曲にあるオーガニックな味わいはとても魅力的です。

 ボーナストラックでは、彼女もまた日本語の歌を一曲。はしだのりひことシューベルツのヒット曲「風」を歌っています。この曲も私はとても好きな歌なのですが、プリシラ・アーンののびやかな歌が一服の清涼剤となって心に沁みてきます。日本語も信じられないくらいにきれいで、言葉の意味がとても明瞭に伝わってきます。

 正直、アンビエント系バリバリのアレンジの曲はちょっと聴くとざわざわしてしまうのですが、アコースティックなアレンジの曲は、とてもとても気に入っていて、日常の雑事に負けてヨレヨレになった心の皺を伸ばすのに時折使っています。

 と、SHANTIとプリシラ・アーンという2人の「オーガニックな」女性シンガーの歌、最近の私のとっておきのお気に入りです。しかもご両人とも美人。ああ、彼女らの歌を間近で聴きたい、PAなしで、直接彼女らの声を聴きたい、オーガニックな状態で聴きたいと思います。
 
 考えてみると、有機栽培の食品というのは、コストもかかりますし、大量生産にも向かない。だから、生産者と消費者が直接「顔の見える関係」の中で流通することが多い。一方で、この「オーガニックな音楽」は、大手のCDレーベルが、会社のビジネスとしての思惑とか戦略といったものを腹の底に持ちつつ、私たち消費者の手に届きます。でも、本来は、音楽の醍醐味は実際に耳に目に触れてこそ味わえるものですから、本当に「オーガニックな音楽」であり続けるには、やはり音楽の作り手と消費者が密接に繋がることが重要になるはず。実際、SHANTIは精力的に小さなライヴハウスやレストランなどで、客と至近距離の中で歌を歌ったりしていますし、PVでも街中で路上ライヴをしている姿が映し出されているものもある。プリシラ・アーンも、彼女の自宅で録画したアコギの弾き語りビデオをYouTubeに投稿している。二人共、まさに聴き手との「オーガニックな関係」を大切にしているのです。私たち聴き手も、彼女ら自身が発信する情報に触れ、直接のつながりを持とうとしている。ならば、時代の大きくて急速な流れの中で、きっとレコード会社も、ビジネスライクで無機的な農薬から、有機栽培を促進する日光や水、栄養というような存在へと方向性を変えていかざるを得ないのではないでしょうか。その過程でいろいろなことが起こるでしょうけれど、どんなことがあってもいい音楽へのニーズだけは消えることはないはずなので、素晴らしい音楽が共有される「場」は何よりも大切にしてほしいし、私も大切にしたいと思います。

■SHANTI "Love Matters"


■プリシラ・アーン "Dream"




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  • 2017.07.31 Monday
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