心地よさは 未来を変える力になる
オーガニックコスメやスパの複合施設のパイオニアである、代表の杉谷惠美さんインタビュー
柔らかな物腰と凛とした佇まいが印象的な杉谷惠美さんは、植物の力に魅了されて人生が変わった女性のひとり。10年以上もの長きにわたってオーガニックアロマスパ《シンシア・ガーデン》を運営し、ホリスティックなアプローチでオーガニックの素晴らしさを広める活動を行っています。繊細さと強さと女性らしさが織り成す魅力の根底に横たわる“想い”についてうかがいました。
今でこそオーガニックをコンセプトにした複合施設は増えてきましたが、《シンシア・ガーデン》は青山という都会の真ん中で10年以上も前から。そのころはまだオーガニックは一部の限られた人のためのもので、まだまだ一般には認知されていなかったと思います。それよりもさらに前に杉谷さんは触れているというということですから、何か必然を感じてしまいます。オーガニックコスメや植物療法との出会い、また《シンシア・ガーデン》オープンのいきさつについて教えてください。
わたしの場合は20代でからだを壊したことで、植物療法に出会いました。今までなれ親しんできた西洋医療とは異なるアプローチに衝撃を受けましたし、やさしさと強さをあわせ持つ植物の力には感動しましたね。それをきっかけに「自分が体感した素晴らしさを多くの方に広めたい」という想いで、オーガニックコスメで施術を行うスパを代官山に開きました。ちょうど美容感度の高い女性の間でオーガニックコスメが少しづつ注目されはじめたころ。個人のスパとしては順調でした。数年経ち、まわりにも子どもを持つ女性が増えると、産後はやはり金銭的にも時間的にも以前のようには通えなくなってしまうことを知りました。癒しを必要としている女性に、もっとカジュアルに良質のオーガニックを提供したいと考え、青山に《シンシア・ガーデン》をオープンしました。
当時は「いきなり青山だなんて大丈夫?」と心配のお声もいただきましたが、わたしもまだ若く、良くも悪くもわかっていませんでした(笑)。もちろん、どこか別の場所でトライアル的にスタートさせて、めどが立ったら一等地に出店するというビジネスプランもあると思うのですが、自分の性格上、失敗したときに立地のせいにしてしまうと思ったんですよね。自分に逃げ場をなくす意味でも、最初から青山でいこうと。この10年で近隣の建物はほぼ全て入れ替わりましたし、今になって大変なことに挑戦したなと感じています。
今となれば先見の明があったと言えるかもしれませんが、杉谷さんにはひと一倍のポジティブ・マインドがあったからこそ、冷静に先を見据え、現代女性に響く新しい価値観を形にすることできたのだと思います。現在では併設のスパやカフェの存在も認知されて常にお客様が入られていますが、スタート時はいかがだったのでしょうか?
表参道からも外苑前から近い場所といっても、目的がないと意外と通らない道ですよね。エントランスも決して目立つ感じではありませんし、よく「近くにいるはずなのですがお店がわかりません」とお電話をいただいていました(笑)。そんな感じですから最初から順調などということはもちろんなく、近隣の建物に毎日ポスティングしていましたね。わたしがポスティングしているとスタッフが「代わります」と言ってくれるのですが、セラピストの手をわずらわせてはいけませんから。前のサロンのお客さまが足を運んでくださったり、口コミで徐々に徐々に、という感じです。
ショップスペースでは世界中から厳選したオーガニックコスメが並び、わたしも自分へのご褒美や友人へのプレゼントなどによく利用させていただいています。それとは別に、お手頃な価格帯がうれしいオリジナルブランドも多数扱ってらっしゃいますが、やはりシンシア・ガーデンといえば「ママバター」が代名詞。大ヒットブランドはどのようにして誕生したのでしょうか?
わたしが成人性アトピーになって悩んでいた時に、助けられたのがシアバター。シアバターは保湿力が高いだけでなく持続力もあるので、寝ている間に搔きむしってしまうなどということがなかったんですよね。市販のシアバター配合製品はありましたが、価格を抑えて、家族みんなで惜しみなく使えるものをつくりたいと思いました。イメージとしては家庭に一個の《オロナイン軟膏》のオーガニック版。セルフの売り場なので、説明不要のわかりやすさにもこだわりましたね。
発売当時はまだわたしやスタッフにも子供がいなく「授乳期の乳首ケアに良かったです」などという予想していなかったような感想をいただいては驚き、製品を通じてお客様、売り場から学んでいました。アフリカにあるシアバターの生産地とフェアトレードを結ぶことで地域の雇用の活性化、女性の生活支援に貢献できていることはうれしいですし、ブランドを継続する励みになっています。
《シンシア・ガーデン》立ち上げ時同様、製品開発もご自身が肌で感じたことが原点になっているんですね。そして《ママバター》と並んで大人気なのが、ヘアケアからスタートした《凜恋(リンレン)》。オーガニックのヘアケアというと高価格帯が主流でしたが、手の届きやすい価格帯で良質の国産植物原料からつくられた日本生まれのアロマコスメ《リンレン》の登場は衝撃でした。
ありがとうございます。高知の柚子農家さんから果皮の廃棄にお金がかかって大変というお話を聞き、エッセンシャルオイルを抽出して製品をつくろう、と思いついたのが《リンレン》開発のきっかけでした。良質で毎日使い続けられる価格帯であることにはこだわりましたが、決して「オーガニックコスメが安くなればいい」と思っているわけではありません。多くの有機栽培農家の方に接し、想像以上に時間も労力もかかることを知っていますから。「シンシア・ガーデン」の場合、海外からセレクトしているオーガニックコスメは決して安くないですし、希少性のある上級者向けのブランドが中心です。扱っている場所も少ないので来店動機にもなりますし、やはり徹底的にこだわってつくられた本当にいいものなので、オーガニックの素晴らしさを“深める”役割を担ってくれていますね。
対し、《ママバター》や《リンレン》などのオリジナルブランドでは一般に“広める”ものを。価格的にも売り場的にも手に入りやすく、生産者や地域に貢献できるようなものづくりを考えています。
現在では《ママバター》がシリーズ累計出荷個数410万個、《リンレン》が710万個を突破。杉谷さんがイメージされていた「良質のオーガニック&ナチュラルコスメを、広く一般化したい」という願いは叶ったのではないでしょうか?
うーーん…まだまだ、まだまだだと思っています。先日社内の打ち合わせで「い今やっと1合目です」と伝えたら、「せめて2合目と言って欲しかったです」と嘆かれてしまいましたが(笑)、やるべきこと、やりたいことは山積みですね。世の中をなげいたり、批判したところで何も状況は変わらないので、わたしたちはわたしたちのやり方で届けるべき人にしっかり届くよう、考え行動するだけですね。
オーガニックコスメを取り扱うショップはこの数年で随分と増えましたが、《シンシア・ガーデン》の存在は依然として唯一無二でユニーク。製品や取り組みひとつひとつからメッセージが感じられます。昨年デビューした早坂香須子さんとのコラボレーションブランド《ネロリラ ボタニカ》も、過疎化に伴い放棄された畑を有効利用するため誕生したとうかがいました。
《シンシア・ガーデン》のお客さまは30代、40代が中心なのですが、エイジングが気になりだした世代をも満足できるスキンケアをつくりたいと思いました。
スペシャリストの力を借りたいと、早坂さんに最初に相談したのは実はもう何年も前。大人の肌に目に見える結果を出す化粧品となると、どうしても厳しい目になり、想像以上に時間がかかってしまいました。そのぶん仕上がりには満足していますし、すでにリピートの声もいただいています。
《ネロリラ ボタニカ》は、実はあえてオーガニック認証をとっていません。認証を取るにはお金がかかってしまいますし、そこに投資するなら生産者へお返しするほうがわたしたちらしいかなって。いろいろな考え方があると思いますが、わたしたちにとってのオーガニックを常に考え、形にしていきたいですね。それがユニークと言われる所以かもしれません。
杉谷さんは2人の男の子のお母さんでもあります。お忙しい毎日、お仕事との両立は大変ではないでしょうか。
忙しい時期も、なるべく週に1日は休むように心がけています。毎朝5時半に起きてお弁当を作っていると、お弁当の食べ方や残し方で子どもの言葉にならない心情が読みとれるんです。時々面倒くさく感じてしまうこともありますが(笑)いいコミュニケーションツールになっています。
休みの日はなるべく自然に触れさせないと、と思い、千葉に畑を借りて野菜を育てています。収穫したもので子どもと一緒に料理をつくったり、なかなか楽しいですよ。都会に住んでいると一年中なんでも揃っていますが、旬の野菜や四季折々の自然の姿を体感してほしいですね。子どもを持つようになり、10年後、20年後、50年後の日本にきちんと価値をつくっていかなくては、という想いは、より強くなったかもしれませんね。
Photographed by Mai Kise
Interviewed by Yuko Homma
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