企業の新陳代謝と
CFOの責任

デロイト トーマツ CFOプログラム

日本を代表するCFO(Chief Financial Officer)たちが集う一大イベント、「CFO VISION 2016」(デロイト トーマツ グループ主催)が9月27日、帝国ホテル 東京で開催された。企業の持続的成長を議論する場としてその認知度と期待は年々高まっているが、第4回となる今年のテーマは「企業の新陳代謝とCFOの責任」。古きを捨て、新しきを育てるためにCFOがなすべき役割について意見を交わした。

CFO VISION 2016には、国内有力企業113社のCFOが参加した
デロイト トーマツ グループ CEO
小川陽一郎氏

 国際情勢や世界経済の変化のスピードがますます速まるにつれ、企業経営の不確実性が否応なしに高まっている。そうしたなか、「変化のスピードを意識しながら、いかに変革を行っていくかが企業にとって大きなチャレンジとなっている」。主催者を代表して開会の挨拶に立ったデロイト トーマツ グループCEOの小川陽一郎氏は、そう切り出した。

 自社の戦略に合致しない、あるいは将来性が乏しい事業にリソースを振り向けていては、変化のうねりに飲み込まれ、企業の存続は危うくなる。「何を捨て、何を育てるか。その新陳代謝をいかにやり切るかがマネジメントの大きな課題となっており、財務やリスクマネジメントに高い専門性と深い知見を持つCFOが鍵を握る存在となっている。そのCFOの責務について共に議論していきたい」と結んだ。

破壊的変化の時代には
自ら破壊的変革に挑む

コニカミノルタ株式会社
代表執行役社長
山名昌衛氏

 一人目の基調講演者として登壇したコニカミノルタ代表執行役社長の山名昌衛氏の講演テーマは、「コニカミノルタが挑む新しい価値の創造」。山名氏は講演の冒頭で、昨年11月に米『フォーチュン』誌が世界的企業のCEOたちを招いてサンフランシスコで開催した「フォーチュン・グローバル・フォーラム」に参加したときのエピソードを次のように紹介した。

 同フォーラムでは、「デジタルトランスフォーメーションができなければ、20年後にはフォーチュン500にランキングされている企業のうち4割が消滅しているだろう」との危機意識を参加者が共有、「CEOたちが真剣な議論を交わしていたことが衝撃的な記憶として残っている」という。

 山名氏が社長に就任した2014年にコニカミノルタは、「トランスフォーム2016」と題した中期経営計画をスタートさせた。変革を求める顧客企業のニーズに突き刺さる製品やサービスを提案し、新しい顧客価値の創造を続けなければ、もはや生き残ることはできないという危機感がこの中期経営計画の背景にある。それはまさに、サンフランシスコに集まったCEOたちの危機意識と一致するものだった。

 デジタル技術の革新的な進歩によって、事業の短命化がますます加速している。例えば、デジタルカメラが発売されてからカラーフィルム市場は5年間伸長したが、その後の5年で市場規模は一気に半減した。そのデジタルカメラ市場もスマートフォンの登場から3年でピークを迎えた後、わずか3年で半減してしまった。

 こうした破壊的変化の時代には、「守勢に回れば淘汰されてしまう。敢えて自ら破壊的変革に挑むしかない」。山名氏は経営者として強くそう思っている。同社は2006年には祖業である写真フィルム・カメラ事業から撤退した。当時で約3000億円の売り上げ規模があったが、グローバル市場で勝ち残るためにはリソースの集中と素早い決断は避けられない。創業事業といえども、例外ではなかった。「グローバルジャイアンツと戦うには、フォーカスとアジャイル(敏捷さ)が求められる」。そういう企業文化に変革する意思を示す、象徴的決断であったともいえる。

 連結売上高の8割を海外市場で上げるコニカミノルタは、常にグローバル市場を視野に入れて成長領域、勝算のある領域にリソースを集中する「ジャンルトップ戦略」を推進している。オフィスサービス事業ではA3カラー複合機、商業産業印刷事業ではカラーデジタル印刷機、機能材料事業では液晶テレビ用視野角拡大フィルムなど事業分野ごとにシェアトップを争う製品・サービスを持っているが、戦略的提携やM&Aも活用しながら、迅速にトップポジションを狙う姿勢を貫いている。

 また、市場や顧客に密着しつつ新たな事業開発を行うために日本、北米、ヨーロッパなど世界五極のビジネスイノベーションセンターを設置。社外の人材や組織と連携したオープンイノベーションによって、アジャイルな事業開発を目指している。

 コニカミノルタは、「Open and honest」「Customer-centric」など6つの価値基準を定めているが、「この価値を守りながら、グループ43000人には自律的かつスピーディに動いてくれと言っている」(山名氏)。その一人ひとりの行動が、グループ全体のトランスフォームをもたらすからだ。

 そして、「戦略参謀たるCFOが、ビジネスリテラシーと冷静な目を併せ持って、事業部門の課題や痛みを共有しながら全体最適の決断をしてくれれば、トランスフォームの実現性は大いに高まるはずだ」と期待を示し、講演を終えた。

最大の脅威は「立地」の劣化
構造転換は腰を据えて

神戸大学大学院
経営学研究科 教授
三品和広氏

 続いて基調講演に登壇したのは、神戸大学大学院経営学研究科教授の三品和広氏。独自の実証的アプローチによる経営戦略論に基づき、新陳代謝の重要性を訴えた。

 2004年の著書『戦略不全の論理』で三品氏は、40年間に渡る一部上場企業の営業利益率の変化を追跡、1960年代には平均10%を超えていたものが、2000年には5%を切る水準にまで低下した長期低落の事実を示すと共に、電機・精密業界の163社を個別に分析。創業経営者からサラリーマン経営者に移行する過程で利益率が低下していくことを突き止めた。「創業経営者がボトムライン重視であるのに比べて、サラリーマン経営者は成長を志向するあまりトップラインの拡大に軸足を置きがちだ。そして、利益の出にくい事業に手を広げた結果、こうなった」と三品氏は指摘する。

 続く2007年の『戦略不全の因果』では、創業者経営とサラリーマン経営の会社を比較分析し、三品氏の言葉でいう「転地」、すなわち主力事業の入れ替えを創業者が当たり前のように行っているのに対して、サラリーマン経営で転地に成功したのは非金融の上場会社1000社余りのうち過去40年でわずか16社しかないという事実をあぶり出した。

 サラリーマン経営ではなぜ転地の成功例が極端に少ないのか。それを探る過程で明らかになった苦い現実を人々に突きつけたのが、2010年の『戦略暴走』。年間の営業利益を上回る特別損失を出す「戦略暴走」を露呈した上場企業は、過去45年で179ケースあったが、そのうち転地に挑んで失敗したのはわずかに5ケースほど。その他のほとんどは、バブル期の不動産投資の失敗、窮地に追い込まれた主力事業を挽回しようとする追加投資の失敗、海外に生産拠点を設立するための大型投資の失敗、そのいずれかのケースであった。「バブルの波に乗った失敗を含めて、サラリーマン経営者が転地、すなわち新陳代謝をせず、廃れゆく本業にしがみついたこと、右へ倣えで海外に巨大工場を建てたことなど、戦略の暴走と投資判断の甘さが利益率の長期低落傾向の大きな要因であることが浮き彫りになった」(三品氏)。

 三品氏は現在、戦略論の集大成として『経営戦略の実戦』シリーズを執筆中で、3部作のうちの第一巻『高収益事業の創り方』を昨年上梓した。

 同シリーズでは一部・二部上場の1805社(非金融業)の調査結果から、利益率、成長率、占有率の3つを向上させ、真のエクセレントカンパニーとなるために追求すべき戦略を解き明かそうとしている。

 講演では同シリーズの核となる概念の一つである「戦略の重層構造」について解説した。戦略の基底には「立地」(誰に何を売るか)があり、その上に「構え」(バリューチェーンの構築)、「製品」(売るものの技術仕様をいかに設定して売る相手に訴求するか)、「管理」(製品の品質・コスト・納期、人員、資金のマネジメント)というそれぞれの戦略レイヤーが積み重なっていく。

 この重層構造の土台となる立地が崩れてしまったら、構えや製品、管理の戦略は意味をなさなくなり、事業そのものが崩壊する。「スマホの登場でデジカメ市場が半減してしまったように、立地の劣化が企業にとって最大の脅威であり、それが極めて起こりやすい時代に私たちはいる」と三品氏は警鐘を鳴らし、「事業が大きくなるほど転地は難しいし、時間もかかる。成功の鍵となるのは、最低でも10年は戦略をぶらさず前線に立ち続けられる経営者を育成することだ」と会場のCFOたちに提言した。

新陳代謝とはリソース配分
CFOは困難な意思決定担う

 後半のパネルディスカッションでは、伊藤忠商事、エーザイ、三菱ケミカルホールディングス(HD)のCFOを迎え、「企業の新陳代謝とCFOの責任」をテーマに語り合った。

 まず、このテーマについて3人のCFOが簡単なプレゼンテーション(右のコラムを参照)を行った後、モデレータを務めた『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』編集長の岩佐文夫氏が、「事業を続けるべきか、撤退すべきか。CFOの立場で難しい判断を迫られた場合、どう意思決定しているのか」と問い掛けた。

株式会社ダイヤモンド社
DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集長
岩佐文夫氏

 伊藤忠商事の鉢村剛氏は、「総合商社はもともと事業の新陳代謝が激しく、3年の時間軸で当初計画していた数字に達していなければ撤退するのが原則。戦略的判断で例外を認める場合もあるが、マーケットに対する定量的なコミットメントを重視しているので、数字は厳しく評価せざるを得ない。今は8割近くの投資先事業が黒字だが、儲からない事業は早めに手を打ったほうがいいケースが多い。そうやって、ポートフォリオの組み替えをしていかないとアセットの有効活用はできない」と断言する。

 続いて三菱ケミカルHDの小酒井健吉氏は、「キャッシュフロー的に成り立たないことがはっきりしていれば事業部サイドも諦めるが、全社的立場でみると撤退した後、人材を含めた経営資源の振り向け先がないと判断が難しいし、発展性がない。また、現在は世界シェアトップのアルミナ(酸化アルミニウム)繊維は20年かかってここまできた。こうした時間のかかる事業は、先のリスクを読みながら経営会議で議論を繰り返し、継続か撤退かを判断するしかない」と語った。

後半のパネルディスカッションでは、現役のCFOが実体験をふまえ、活発に意見を交わした

 エーザイの柳良平氏は、「CFOとしてファイナンス基準で撤退を判断するのは当然のこと」と前置きしつつ、「戦略的位置づけからどう判断するかが難しい」と続けた。例えば、同社は昨年、安定的に黒字を出している子会社を三菱ケミカルHDのグループ会社に売却した。「製薬会社として認知症とがんの領域に選択と集中を進めるという戦略のなかで、当社の傘下にいるよりも三菱ケミカルHDグループに入ったほうが企業価値を高められると判断した」からである。

 逆に新規事業や大型投資にゴーサインを出す場合は、どんな点に留意しているのか。

 鉢村氏は、「トラックレコードをチェックしようがない新規案件、将来的なシナジーを考えてチャレンジしなければならない分野などは一定の限度で投資を認めるが、毎年、数字を厳しくレビューする。憎まれ役になることもあるが、私たちがいろいろなリスク分析をすることが事業部サイドに新たな気づきを与えるケースもある」とする。

 グループで約2万もの製品群を抱える三菱ケミカルHDの小酒井氏は、「製品・事業の目利きは事業部門に任せている。一方で、CFOの人事権で各事業に経理担当を派遣して実態を素早く把握し、会社全体としてのリスクマネジメントの中でどこまでエクスポージャーをとれるのかをコントロールしている」という。

 大学院でファイナンスを教える立場でもある柳氏は、「M&Aの判断も難しい。これも戦略的判断が財務規律より優先される場合があるが、買収金額がつり上がってステークホルダーに説明できない数字になったとき、CFOは職を賭してでも止める矜持と覚悟を求められる」と企業価値の番人としてのCFOの役割を訴えた。

 こうした議論を踏まえて岩佐氏は、「日本企業は変化のスピードが遅いといわれるが、ぶれずに財務規律を守り、健全な財務基盤を築くことが、新しい事業へのチャレンジや構造改革に欠かせないことを実感した」と述べた。

デロイト トーマツ コンサルティング 合同会社
執行役員 パートナー
日置圭介氏

 そして、コメンテータとして議論に加わったデロイト トーマツ コンサルティングの日置圭介氏は、「企業の新陳代謝とはリソース配分そのものであり、CFOは経営の一番難しい部分を担っている。コンサルタントという立場で多くの企業に接してきたが、事業の撤退にしろ、新規開発にしろ、追い込まれてから動き始めるのではなく、プロアクティブに動いている企業のほうがうまくいっている。そのためには、日頃から自分たちの強みと弱みについてCEOをはじめとする経営陣とよくコミュニケーションをとっておくことが重要だ。ブレーキにしろ、アクセルにしろ、ロジックとハートで踏む。それがCFOに求められている役割ではないか」と語り、パネルディスカッションを締めくくった。