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自身の性と人種について表現するアメリカ人アーティストJ'Kerian Morgan。彼が歩んできた軌跡にLisa Blanningが迫る。
「乱交現場と全身吹き出物の人を見たよ。どっちもすごかった」とJ'Kerian Morganはツイートしている。彼はヒューストン育ちで現在はベルリンを拠点にLoticという名で活動するアーティストだ。「チューブの部分にキャラクターのイラストが書かれてたし!」という後の発言から、彼は吹き出物の原因は安物のローションにあると思っていることがうかがえる。ゲイになった若いJeff Millsとでも言えばいいだろうか、大きな瞳と小柄な体格のMorganは、定期的に面白い話やこうした出来事をソーシャルメディアに投稿している。彼をシャイな人だと思う人はまずいないだろう。ところが、若い時は違ったと、Morganは明かす。若い時と言っても、25歳の彼にとってはそれほど昔のことではない。しかし、挑発的なDJ/プロデューサーとしてのステータスを築いた現在の彼からすれば、随分と昔のことのように感じられるようだ。
昨年の秋にBerghainで行われたパーティー、Janusでの彼のセットの話をしよう。Janusは2012年の発足からベルリンの小さな会場を中心に定期的に開催されている。このパーティーのレジデントとして、Loticはオーディエンスとの関係を築き上げてきた。とは言え、彼がDJ中のブース前に大勢のダンサーが集まってくる理由は、それ以外のところにある。Morganはエネルギッシュなミックスに合わせて体全体を大きくくねらせ、自分が楽しんでいることを思い切り表現するのだが、どうやら、オーディエンスは音楽そのものだけでなく、Morganのそうした動きに惹き寄せられているようだ。彼のミックスでは通常、様々なジャンルのクラブミュージックが飛び交う。そこには、ラップ、R&B、ジャージー・クラブ、ボールルーム・ハウス、バウンス、さらには、レーベルFade To Mindの音楽のように、まだ呼び名さえ決まっていないスタイルまでもが含まれる。この日、Morganの次にDJをしたヘッドライナーTotal Freedom(Janusで定期的にプレイしている)のセットが始まると、DJブースの前が落ち着いて普通の状態になってしまった。しかし、それは珍しいことではなさそうだった。落ち着きを払ってDJするTotal Freedomに対し、Loticはその活性の高さによって熱狂を生み出していたのだ。
「DJとして、僕はみんなを踊らせたいけど、何が起こっているのかよく分からない状態にもなってもらいたい」と彼が語ったのは、前述のBerghainのイベントから1か月後のことだ。「パーティーがあまりにもスムーズに進み過ぎていたら、僕はその流れをわざと滅茶苦茶にしちゃうんだ(笑)。いつもわざとやってるわけじゃないよ。自分自身が楽しくなりすぎちゃって、そうなっちゃうこともあるし、自分が楽しむために、流れを一旦断ち切って変な音楽をプレイすることもある」。ハウスとテクノというイメージの街ベルリンで、Loticは予測不可能な要素をパーティーに持ち込もうとしている。初めて彼のプレイを耳にしても、すぐには彼の狙いを理解できないかもしれない。なぜなら、彼はラジオでかかるようなヒット曲もプレイするからだ。
しかし、Morganの楽曲や、彼の楽曲がどのようにセットに組み込まれているのかに耳を傾ければ、彼の言う「驚き」の要素を理解するきっかけとなるだろう。2013年の夏、当時のJanusが定期的に開催されていたChesterでLoticのセットを聴いた時のことは、今でも鮮明に覚えている。午前7時ごろのことだ。Morganは威圧的でありながら空間的なリズムを軸に、繊細なトラックをプレイしていた。シンセのアルペジオによって明るく照らし出されるサウンドは、まるでクラブの闇を切り裂く夜明けのようだった。そのトラックの正体はというと、彼のセカンドEP「Fallout」の最後に収録された”Fractures”だった。このEPは同年の10月にSci Fi & Fantasyより発表されている。
Morgenが初めて作品をリリースしたのはBen Aquaのレーベル#FEELINGSの立ち上げ第1弾のEPとなった2011年の「More Than Friends」だ。Morganのリリースを聴けば、彼のバックグラウンドにはラップやR&Bだけでなくエクスペリメンタルな音楽も含まれていることはハッキリと分かる。実は、昔の彼は根暗なバンドマンで、12歳の頃から学校のバンドでアルトサックスを吹いていた、ということが分かった時、筆者は思わず顔がほころんでしまった。「(学校のバンドからは)たくさんの音楽理論を学んだよ。例えば、アンサンブルでプレイする時は、コーラスの一番上のパートは少しフラット気味になることがあるとか、音というものがどのように成り立っているとか、そういうことを学んだ」。そうした彼がオースティンにあるテキサス大学で電子音楽の作曲を学び、電気音響学を専攻することになるのも、納得のいく話だ。
「サンプリング音や実際に鳴っている音をいっぱい使ってオタクみたいに音声を色々と加工しながら作品の完成形を作っていくんだ」とMorganは当時のことを回想する。「Max/MSPやCsoundとか、その手のソフトを使っていたよ。今みたいに音楽のことを考えるようになったのは、この頃のことだね。僕の音楽はすごくサンプリング・ベースに見えるけど、それは、サンプリングに頑なにこだわっているからなんだ。当時は、既に存在している音をどうやって変化させていくかってことをたくさん学んだ。すごく面白い音も作ったよ。2009年から2012年にかけて作ったサウンドライブラリーには変な音素材がたくさん入っているけど、その素材からきちんとした作品を構築したことは一度も無かった」
そうしてMorganは大学で学ぶ内容に対して不満を募らせるようになり、その結果、使用ソフトをAbletonに変更し、ポップミュージックを好んで聞くようになった。そして、大学のラジオ放送でDJをしたことで、彼はダンスミュージックも聞くようになる。「すごくカワイイ図書館が大学にあって、そこでエレクトロニックミュージックのセクションから何枚も借りて聞いてた」と彼が詳細を語る。「それにエクスペリメンタルミュージックのセクションからも借りてた。この2つは僕のお気に入りだったんだ。そうした中で、2009年か2010年にクラブに行って、Kingdomのプレイを聴くことがあったんだ。その時、全てことが頭の中でカチッとなるのを感じたよ」。当時はまだ、Fade To Mindからは作品が発表されていなかったが、このレーベルの共同設立者の1人であるKingdomは、既にNight Slugsのアーティストとして活動していた。「彼がプレイしているのを聴いて、それがあまりにも新体験過ぎて、その時に自分が何を聴いたのかほとんど思い出せない。どの曲もすごく変なんだけど、僕は思いっきり踊ってた。『あぁ、これが僕がやるべきことだったんだ』って瞬間だった。遂に、自分がどういうアプローチで音楽を制作するべきかが分かったんだ」
ニューヨークのクラブVenus Xで開催され、Janusの基盤となったパーティーGHE20GOTH1Kと並んで、Fade To Mindは、クラブミュージック界の急先鋒となる。彼らは、アメリカ人が制作する世界的かつアンダーグラウンドなクラブサウンドを中心に新たな波を巻き起こした。基本的にレーベルの所属アーティストたちは、民族的か性的、もしくは、その両方の面でマイノリティの人ばかりだった。Morganが大学を卒業し、2012年前半にベルリンに引っ越した頃、Fade To Mindはその独自性を強く打ちだすようになっていき、Fatima Al QadiriのEPに続く形でリリースされたKingdom、Nguzunguzu、Kelelaの楽曲は、翌2013年のレーベルの成功を演出した。
自分がゲイだということに中学生で気付いたMorganにとって、クラブに行くということと、DJになるということは、社会問題とも関連している。「オースティンはとても白人社会だった」と彼は語る。「白人と一緒に隔離政策がやって来て、隔離政策と一緒に人種差別がやって来る。だから、僕はそんなにセックスをすることができなかったし、あまり自分に自信を持てなかった。のけ者にされている人にとってクラブは特別な場所だってことは明らかだったよ。だから、そんなクラブを守る必要があると強く感じた。僕の場合、パーティーに行くことでクラブを守るんじゃなくて、DJになってパーティーをコントロールしてクラブを守ろうとしたんだ。もちろん、クラブを守るという意味では上手くはいかなかったけど、『僕はミュージシャン、そして、僕はゲイ』と別々にアイデンティティを感じるんじゃなくて、『僕はゲイ・ミュージシャンなんだ、そのことにもっと堂々と素直になるんだ』って感じるようになれたんだ」
となると、音楽面においても、社会問題の面においても、そして、個人的嗜好の面においても、Fade To MindはMorganにとって夢のレーベルだった。実験精神とクラブ感覚を融合させるという彼の方向性や、彼が同レーベルのアーティストと定期的にパーティーでプレイしていたことを考えれば、Fade To Mindも彼に興味を持つことになるのは当然だった。「Fallout」が発表されて間もなく、レーベルがMorganにデモを送ってほしいと話を持ちかけた時、もちろん、彼はそのチャンスに飛びついた。
2014年の1月、MorganはFade To Mindにデモを数曲送ったが、それから何か月経っても、彼らから返事が届くことは無かった。不満が募る中、彼は気分転換にエディットものを作成したり、オリジナルトラックを繋ぎ合せてミックステープ『Damsel In Distress』を作ったりした。「いわゆる普通のミックステープなんだけど、アンチ・ミックステープのミックステープなんだ。どの部分を聴いても踊ることが出来ないからね」と彼は笑う。「わざとそうしたんだ。ミックスを聴いた人が人生で最悪と感じるような25分にしようと思っていた。そうしたら、すごく人気になっちゃったんだよ。『あれ?もっと理解に苦しまれるはずだったのに』って感じだった。だって、あのミックステープは助けを求めて泣き叫んでいるんだ。これで終わりにしようと思って作ったミックスだったのに、何故か人気になっちゃってさ。おかしかったよ。そんなことは期待してなかったからね」
『Damsel In Distress』では、ガラスが砕け散り、鳥とクラクションの音の大群が押し寄せ、ホラー映画のサウンドトラックのような不気味さが漂い、前述の失意に満ちた気持ちがミックステープにはしっかりと表れている。しかし同時に、Morgenの生まれ持ったリズム感がミックスを支えている。新たに培ったDJとしての感性を通じてミックスされたこの作品は、Morganの音楽を最も適確に形にしたものだ。そして、このミックスによって、彼の楽曲は新たなリスナーを獲得することになる。
「Robin(Tri Angleを運営しているRobin Carolan)が僕のトラックをBjörkに渡すんだって!」 ある夜、クラブの裏手でMorganが筆者にこう囁いた。それからしばらくして、Unsound Festivalが終わった日の朝、クラクフの空港に向かう車にMorgen、JanusのプロモーターであるDan Denorch、JanusのレジデントKablam、Ashland Minesとしても知られるTotal Freedom、そして筆者が一緒に乗り込んだことがあった。それまで誰一人寝ていなかった。道中でMorganは、Unsound Festivalで出来たボーイフレンドとセックス・クラブを探していたことを明かしてくれた。一方、MinesはBjörkが主催したプライベートパーティーに出席した時の話を我々に話してくれた。「Björkはお前のトラックをプレイしてたよJ'Kerian」。Minesの発言に一切驚きを見せなかったMorganだったが、その数か月後、彼がBjörkの次回作で1曲リミックスを手掛けたことを明かしてくれた時の彼は、喜びを隠しきることができなかった。
もしかするとBjörkは、Loticの次回作EP「Heretocetera」の収録曲もプレイしたかもしれない。「Heretocetera」では、『Damsel In Distess』の緊張感に加え、豊かなメロディ要素があり、若干ではあるが、より洗練された楽曲に仕上がっている。そして、このEPでも同様にゆがんだリズムが用いられている。「EPのタイトルはAudre Lorde(著名な黒人女性運動作家)のエッセーから付けたんだ」とMorganは語る。「彼女はモスクワにいて、ストレートの友達と一緒に生活しているんだ。食事も彼らと一緒にする。普段旅行する時は、彼女のガールフレンドと一緒か、もしくは、当時の彼女はまだ男の人と婚姻状態にあって、彼女はその人も旅行に参加することをすごく望んでいた。まあそれはともかく、彼女の文章の書き方で、『彼らは色んなことについて話し合っていた。車、家族、エトセトラ、エトセトラ、ヘテロセトラ(hetetocetera)』というのがあって、わぁ、これいいって思って、頭からその言葉が離れなくなったんだ。『Damsel In Distress』以降、僕は、黒人であること、ゲイであることを、自分の作品を通じてハッキリ堂々と表現していきたくなった。単にインタビューでそのことを言うだけじゃなくてね。自分がミュージシャンになっていくことを自覚するほど、僕と同じような人たちに向けてやれることは全てやらなきゃいけないと思うようになったんだ」
黒人らしさという言葉は、白人らしさと同じく、頻繁に耳にする。特に、ヒップホップやR&Bのように従来から黒人のものとされている音楽を語るなら尚更だ。しかし、ゲイらしさ、という言葉はどうだろうか?Loticの作品には、少なくとも、これまでとは違う「らしさ」が明確に表れている。そこには、悲しみ、怒り、恐れ、驚き、孤独といった様々な感情が、エキサイティングに次々と投影されている。この多様な感情がそうさせるのだろう。彼の作品を初めて聴くと、その複雑さに取っ付きづらさを感じるかもしれない。しかし、徐々にその本質が伝わってくるはずだ。それはミックスされた中で聴くと特に際立つだろう。そう、Lotic自身のDJがそうであるように。 - 0/
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