細胞膜と原形質

陸上植物も含めて真核性植物の細胞は、一般的な真核生物と同じくさまざまなオルガネラ (細胞小器官 organelle) をもっている。広義の植物の中で藍藻 (シアノバクテリア) のみは原核生物であり、オルガネラはなく、細胞全体が葉緑体と同じような構造をしている。

細胞膜 (cell membrane) = 原形質膜 (plasma membrane)
  細胞を取り囲む、厚さ7~10 nmほどの脂質二重層 (lipid bilayer) からなる膜。細胞膜の主成分はリン脂質などの極性脂質 (分子内に疎水性部分と親水性部分をもつ脂質) であり、気体や疎水性物質以外はほとんど透過させない。そのため細胞内は外界からは独立した区画として存在し得るが、細胞が生きていくためには外界との物質・情報のやりとりが必要である。細胞膜をはさんだ物質や情報のやりとりは、細胞膜に内在または表在する膜タンパク質 (ポンプやチャネル、キャリアー) が担っている。また、膜タンパク質を介した移動では高分子物質の輸送は不可能であり、この場合はエクソサイトーシスやエンドサイトーシスのような膜動輸送 (cytosis) によって行われる。色素体ミトコンドリアゴルジ体液胞のようなオルガネラも細胞膜と同様の脂質二重層に囲まれており、細胞膜と併せて生体膜 (biomembrane, biological membrane) と総称される。ただし脂質成分、タンパク質の種類やタンパク質含量はそれぞれ異なっている。細胞膜の内側の細胞質基質やオルガネラをまとめて原形質 (protoplasm) という。
(nucleus, pl. nuclei)
  遺伝物質であるDNAを貯蔵しているオルガネラであり、所々に直径50 nmほどの孔 (核孔、核膜孔 nuclear pore) が空いた2重膜 (核膜 nuclear membrane) で囲まれている。核内に占めるDNAの割合はほぼ一定 (3%以下) であるため、DNA量が多い種では核が大きい。ゲノムサイズはシロイヌナズナ (アブラナ科) で約 125 Mbp、クロユリ (ユリ科) で約 50,000 Mbp (50 Gbp) と変異が大きい。DNAはヒストン (histone) などのタンパク質と結合してヌクレオソーム (nucleosome) という基本構造をつくり、それが折り畳まれて染色質 (クロマチン chromatin) を形成している。染色質はDNA転写が盛んなユークロマチン (euchromatin) とそれが不活性なヘテロクロマチン (heterochromatin) に分けられ、これにはヒストンのメチル化やアセチル化が関わっているらしい。染色質は核分裂時には凝集して染色体 (chromosome) になるが、藻類の中には染色質が常に凝集しているものもある (渦鞭毛植物など) 。核膜の内側は核ラミナ (nuclear lamina) によって裏打ちされており、染色質はこれを介して核膜と結合している。また核内にはリボソームの合成場所である (核小体 nucleolus, pl. nucleoli) がある。陸上植物の仁には nucleolar cavity とよばれる腔所がある。ふつう陸上植物では、1細胞に核は1個 (単核) だが、被子植物の胚嚢中にある中央細胞はふつう2個の核 (極核) をもち、トウダイグサ (トウダイグサ科) などの単乳管の細胞は多核体 (coenocyte) になっている。原形質の中で核を除いた部分を細胞質 (cytoplasm) とよぶ。
色素体 (plastid)
  陸上植物では2枚の膜で囲まれたオルガネラ。基本的には光合成を行う器官であるが、発達段階・構造・機能に多様性が見られ、いくつかのタイプに分けられる。
  光合成を行うものは葉緑体 (chloroplast) とよばれ、クロロフィルを主とした光合成色素が存在し、扁平な袋であるチラコイド (thylakoid) が多数重なったグラナ (grana) などの内膜系が発達している。チラコイド膜には光化学反応の酵素が存在し、NADPHを生成すると同時にチラコイド内腔にプロトンを送り込んでプロトン勾配を形成し、これによってATPを生成する。内膜系以外の空間はストロマ (stroma) とよばれ、カルビン回路 (Carvin cycle) の酵素や原核生物型のリボソームなどが存在し、また合成されたデンプンが貯蔵されている。陸上植物ではツノゴケ類を除いてふつう1細胞に葉緑体は多数存在する。ツノゴケ類の場合にはふつう1細胞に葉緑体は1個であり、さらに葉緑体の中にはピレノイド (pyrenoid) とよばれるタンパク質の塊が存在する。ピレノイドの主成分は光合成酵素のルビスコ (RuBisCO) であり、藻類には広く見られるが、陸上植物ではツノゴケ類のみに存在する。
  分裂組織などに存在する未分化の色素体は小さく、チラコイドなども未発達であり、前色素体 (proplastid、エオプラスト eoplast) とよばれる。そこから葉緑体へと分化し始めた色素体は前葉緑体 (エチオプラスト ethioplast) という。また篩管要素にはタンパク質を含んだ特殊な色素体が存在することがある。クロロフィル以外の色素 (カロテンなど) を集積した色素体は有色体 (chromoplast) とよばれ、花弁果実の着色などに関与している。色素を含まない色素体は白色体 (leucoplast) と総称され、デンプン貯蔵に特化したもの (アミロプラスト amyloplast) やタンパク質を貯蔵するもの (プロテノプラスト protenoplast)、脂肪酸合成・貯蔵を行うもの (エライオプラスト elaioplast) などがある。光合成能を欠く寄生植物や腐生植物では葉緑体が形成されないが、色素体は白色体の形で存在する。
  藻類の葉緑体はその包膜の数 (2枚、3枚、4枚) やチラコイドの重なり方、光合成色素組成などの点で多様である。
  色素体の存在は植物細胞の特徴であり、シアノバクテリア (藍藻) の共生に起源をもつ。その名残として色素体は独自のゲノム (色素体ゲノム,色素体DNA)、タンパク質合成系 (70S リボソーム) をもっており、自身の分裂によってのみ増殖する (無から新生されることはない)。色素体DNAはふつう 100~200 kb ほどの環状DNAであり、100種類ほどの遺伝子をコードしている。
ミトコンドリア (mitochondrion, pl. mitochondria)
  2枚の膜で囲まれたオルガネラであり、糖を酸化的に分解してエネルギーを得る酸素呼吸の場となっている。陸上植物の細胞中にはふつう多数のミトコンドリアが存在して変形・融合・分裂を頻繁に行っており、活性の高い非光合成組織では細胞容積の20%を占めることもある。内膜が内部に突出してクリステ (crista, pl. cristae) を形成している。クリステを含めて内膜には電子伝達系の酵素が存在し、内膜を挟んでプロトン勾配を形成し、それを使ってATPを合成する。陸上植物を含む緑色植物は多細胞動物と同じく平板状のクリステ (flat cristae) をもつが、ミドリムシ (ユーグレナ植物) のクリステは盤状 (discoid) 、コンブ (不等毛植物) のクリステは管状 (tubular) である。内膜に囲まれた空間は基質 (matrix) とよばれ、クエン酸回路 (citric acid cycle, TCA回路 tricarboxylic acid cycle、クレブス回路 Klebs cycle) や脂肪酸代謝の酵素、原核生物型のリボソームなどが存在する。また陸上植物では、ミトコンドリアは光呼吸にも関わっている。
  ミトコンドリアは基本的に全ての真核生物に存在し、α-プテオバクテリア (真正細菌) の共生に起源をもつ。そのためミトコンドリアも独自のゲノム (ミトコンドリアDNA,ミトコンドリアゲノム)、タンパク質合成系 (70S リボソーム) をもち、自身の分裂によってのみ増殖する。多細胞動物のミトコンドリアDNAがほぼ例外なく 17 kb ほどの小さな環状DNAであるのに対し、陸上植物では変異が大きい。コケ植物では 100~180 kb ほどで遺伝子組成などの点でも真核生物の原始形をとどめているが、被子植物では 200~2500 kb と巨大であり、多量の反復配列を含む。
ペルオキシソーム (peroxysome)
  1枚の膜で囲まれた直径 0.2~1.5 µm ほどの小さなオルガネラであり、多量の酵素を含んでいる。ミクロボディー (マイクロボディー microbody) とよばれることもある。さまざまな物質の酸化反応に関与し、その過程で過酸化水素 (H2O2) が発生するが、ペルオキシダーゼ (peroxydase) やカタラーゼ (catalase) によってこれを分解する。陸上植物においてペルオキシソームは脂肪酸分解、活性酸素除去、分岐アミノ酸の分解などに働いているが、組織によって特異的な働きを担っていることもある。例えば子葉や貯蔵組織では脂肪酸の分解 (β酸化、グリオキシル酸回路) に関与するグリオキシソーム (glyoxysome) がある。緑葉では葉緑体ミトコンドリアと協調して光呼吸 (グリコール酸経路) に関与する緑葉ペルオキシソームがある。またマメ科の根粒には、固定された窒素からウレイドを合成するために特化したペルオキシソームがある。このようなペルオキシソームの分化は光条件などによって柔軟に変換する。ペルオキソームは独自のゲノムはもたないが、自身の分裂によってのみ増殖するらしい (ただし近年,小胞体起源で形成される可能性が指摘されている)。
小胞体 (endplasmic reticulum, ER, pl. endplasmic retiula)
  扁平な袋状や管状の膜系が複雑な網目を形成している構造であり、物質の合成・修飾・輸送や細胞のカルシウムイオン調節などに関わる。核膜は小胞体と連続しており、核膜は特殊化した小胞体領域と考えることもできる。外側に翻訳の場であるリボソーム (ribosome) が付着した粗面小胞体 (rough endplasmic reticulum, rER) は扁平な膜系からなり、液胞ゴルジ体、細胞外で機能するタンパク質の合成と輸送に関わっている。粗面小胞体上のリボソームで合成されたタンパク質は小胞体内腔へ輸送され、COPII小胞とよばれる輸送小胞によってゴルジ体へ運ばれる。一方、リボソームを欠く滑面小胞体 (smooth endplasmic reticulum, sER) はふつう管状の膜系からなり、膜や脂質の合成に関わっている。中性脂質などは小胞体の脂質二重層の間 (疎水性部分) で合成され、膨潤した小胞体膜が切り離されてオイルボディ (oil body, オレオソーム oleosome) になる。粗面小胞体と滑面小胞体は連続しており、また原形質連絡のデスモ小管を介して隣接する細胞の小胞体も連続している。
ゴルジ体 (Golgi body、ゴルジ装置 Golgi apparatus)
  扁平な円盤状の小胞 (ゴルジ嚢, ゴルジ槽 Golgi cistarnae) が積み重なった(陸上植物ではふつう4~8層)オルガネラ。陸上植物ではタンパク質の修飾・プロセシングやマトリックス多糖の合成を行っており、また液胞や細胞外分泌タンパク質の細胞内輸送における中継基地になっている。陸上植物の細胞中では多数のゴルジ体が散在していることが多く、ディクティオソーム (網状体 dictyosome) とよばれることもある。ゴルジ体には極性があり、小胞体に面してそこから供給を受ける面をシス面 (cis face) または形成面 (forming face)、小胞を分泌して送り出す面をトランス面 (trans face) または成熟面 (maturing face)、さらにその間をメディアル領域(medial)とよぶ。それぞれの部分を構成するゴルジ嚢がシス嚢、トランス嚢、中間嚢である。ゴルジ嚢内には糖修飾酵素などさまざまな酵素が存在するが、これもシス側からトランス側整然と配置されている。ゴルジ体はふつう湾曲しており、凸面がシス面、凹面がトランス面であることが多い。小胞体からタンパク質を含んだ小胞 (輸送小胞) がシス面に供給され、トランス面からゴルジ小胞 (Golgi vesicle) の形で細胞膜液胞に運ばれる。ゴルジ体内での物質移動機構については小胞輸送モデル(ゴルジ小胞によってシス側からトランス側へ嚢間を移動)と槽成熟モデル(嚢自体がシス面からトランス面へ移動)があるが、近年になって酵母(子嚢菌)において後者が正しいことが示された (こちらを参照)。
液胞 (vacuole)
1枚の膜で囲まれたオルガネラであり、この膜 (生体膜) は特に液胞膜 (トノプラスト tonoplast) とよばれ、多数の輸送タンパクが内在する。ふつう液胞膜のプロトンポンプによって液胞内は酸性 (ふつうpH 5.5程度だが、レモンの果実のように極端に酸性なこともある) に保たれている。液胞の数や大きさは多様であるが、一般に成熟した細胞では1つの大きな液胞が存在し、細胞容積の大部分を占めている (中央液胞 central vacuole)。細胞容積の増大は陸上植物における植物体成長の主要要因であるが、これを担っているのは液胞体積の増大である。液胞の内容物はおもに水からなり、糖・有機酸・アルカロイド・色素などの水溶性物質を含むが、ときに不溶性物質も含まれる。液胞は細胞膨圧の調節、貯蔵、分解、廃棄物集積などさまざまな役割を果たしている。物質を貯蔵する液胞を貯蔵液胞 (strage vacuole)、分解活性の高い液胞を分解液胞 (lytic vacuole) とよぶが、中央液胞などは両方の機能を併せ持つ。また老化細胞などに見られる、オルガネラなどを取り込んで分解している液胞を特にオートファゴソーム (autophagosome) とよび、動物細胞のリソソームに相当する。
タンパク質小体 (protein body, protein vacuole, protein granule)
1枚の膜で囲まれ、貯蔵タンパク質 (reserve protein) (表3) を含むオルガネラ。種子の胚乳や子葉に多い。貯蔵タンパク質 (プロラミン) を合成した粗面小胞体から直接形成されたものをタンパク質小体 I (protein body I) とよび、粗面小胞体で合成された貯蔵タンパク質 (グルテリン、グロブリンなど) が液胞に供給されてできたものをタンパク質小体 II (protein body II) とよぶ。液胞への貯蔵タンパク質の供給はゴルジ体を経るものと、直接小胞体から液胞へ供給されるものがある。胚乳の糊粉層細胞に含まれるものは特に糊粉粒 (aleurone body, aleurone grain) とよぶことがある。
細胞質基質 (cytoplasmic matrix, cytosol)
細胞内においてオルガネラを除く領域を細胞質基質というが、細胞質という語 (前述) も同義に使われることがある。細胞質基質や葉緑体ミトコンドリアペルオキシソームなどで働くタンパク質は細胞質基質に遊離しているリボソーム (遊離型リボソーム) によって合成される。ただし、藻類の中には葉緑体で働くタンパク質が粗面小胞体に付着したリボソームで合成されるものもいる。細胞質基質でのタンパク質合成の際、多数のリボソームが一本のmRNA分子上に列んでポリソーム (polysome) を形成していることもある。また細胞質基質には解糖系などさまざまな反応を触媒する酵素が存在する。
細胞の生物学 (東京医科歯科大学教養部生物 和田勝先生)
細胞小器官の名称と機能 (愛媛大学分子細胞生物学研究室)
 溶解性
アルブミン (albumin) 水に可溶ロイコシン (ムギ類)、レグメリン (マメ類)、リシン (トウゴマ)
グロブリン (globulin) 中性塩溶液に可溶グリシニン (ダイズ)、ファセオリン (インゲン)、エデスチン (ケシ)
グルテリン (glutelin) 希酸・希アルカリに可溶グルテニン glutenin (コムギ)、オリゼニン oryzenin (イネ)
プロラミン (prolamin) アルコールに可溶ゼイン (トウモロコシ)、グリアジン (コムギ)、ホルデイン (オオムギ)、セカリン (ライムギ)
表3. 貯蔵タンパクの類別