ウェブブラウザのJavaScript(ジャバスクリプト)の設定が無効になっています。Javascriptが無効になっていると、サイト内の一部機能がご利用いただけません。 さいたはな2016年12月16日 17:34「はい、おめでと、華!私からのプレゼントは……ほら、開けて開けてっ」「まあ……素敵……」 華さんがラッピングを解いて、包まれていたふわふわの塊を広げる。それは、まっ白なモヘアニットのマフラー。可憐で、清楚で、すごく華さんに似合いそう。「まあ……まあ、まあ……それに、とっても長くて……」「でしょー?恋人巻きできるサイズだよ!」「……あら」 その端っこの模様に、華さんが目を留める。沙織さんは、嬉しそうに体を乗り出した。「お?気がついた?気がついた?」「この刺繍……[[rb:蔓日々草 > ツルニチニチソウ]]ですね。本当に上手……」「へっへー。女子力といえば、手編みのマフラーだもんね」「女性のわたくしに女子力を発揮して意味があるのですか……?」「うぐ。こうやって上達してるから、本番では完璧なの!来年は彼氏に……ううん、旦那様にマフラー送る!」「はーい、ご予定は承りました」 こういう時の華さんの笑いかた、とっても可愛い。 今日は華さんのお部屋で、あんこうチームお泊りの誕生日会。わいわいと夕食を済ませて、交代でお風呂に入って。そして今は、お布団を敷き詰めてパジャマパーティー中だった。カラフルな5人のパジャマが、祝福のフラワーブーケみたい。「でも、やっぱり……」 沙織さんが話題を変え、それを以心伝心、優花里さんが引き継いだ。「西住殿のプレゼントが、一番目立ちますねぇ」 みんなの視線が、自然と一点に集まる。華さんのそばにいる、特大ボコぬいぐるみ。お座りポーズで、高さは55cm。「愛が、重い」「華とボコ、どっちへの愛ー?」 ぼそりと呟く麻子さん。沙織さんまでひどい。かぁ、と顔が熱くなった。「ち、違うよ……わわわわた、私っ、ちゃんと華さんのこと、考えて……」 だって、その黒ボコは静かで優しい目をしてて、華さんの面影があるって、ずっと前から気になってたんだから! しどろもどろになって言い訳する私を、優花里さんがフォローしてくれる。「大丈夫です。西住殿は誕生日プレゼントに便乗してボコの布教を、なんて方では断じてないって、みなさん分かってますよぉ」 ……そ、そうやって言葉にされたら、ますます恥ずかしいよ。 蒸気が出そうなほど赤くなってしまった私に、沙織さんと麻子さんも助け舟を出してくれた。「でも華って、ボコのこと結構気に入ってたよね」「いっそ本当に仲間に引き込んだらどうだ」「……うん……で、でもね……ええと……」 説明するの、難しい。 ためしに一度、華さんとボコの鑑賞会をしたことがあるんだ。華さんはすごく熱心に見てくれるのだけど、感想を聞いてみたらまったく話が噛み合わなくって……。それどころか、そんなストーリーだったかなって、どんどん私の自信が無くなってしまった。「あー……」 沙織さんがピンと来たみたいで、私のヘタな説明を端的にまとめてくれる。「華ってば、けっこー天然だもんねぇ。頭はいいのに、ぼーとしてるっていうか……」「独自の世界観を持っているな」「……えーと。その、今も、ですねぇ」 おずおず発言した優花里さん、その視線を、みんなが追いかけた。 華さんは会話の輪を離れ、黒ボコを抱きしめたまま、おっとり私たちを見て微笑んでた。なんだか華さんの頭の上に、ふわふわ泡が浮かんでるような――そんな雰囲気。「……華、眠いの?」「いいえ……?」「じゃあ何してるの!今夜の主役でしょ!?もっとアピールして、ぐいぐい来なよ!」「合コンじゃないんだぞ」 あはは……。合コンって、そんななんだ。 でもやっぱり、華さんの誕生日なのに、華さんを放ったらかしなんてヘンかも。それで私は、ちっちゃく手を挙げ、意見を口にした。「あのっ……華さんのしたいこと、したい。……ど、どうかな」「わたくしのしたいこと、ですか……?わたくしは、ただ、こうしてるだけで……」 当惑気味な華さん。けれど、何か思いついたみたいに、ぱち、と胸の前で手のひらを合わせる。「……あ……。したいこと、ありましたぁ」 朗らかに、歌うように、華さんの甘い声で――。「ものまねクイズたいかあい」 えええー。……みんなの、嬉しくなさそうな合唱。 それはそうだよね。全国大会優勝祝賀会の、隠し芸。アヒルさんチームのみんなは上手だったのだけど、上手なモノマネだからこそクイズとしては面白くなくて、会場の反応はあんまり良くなかった。ものすごく楽しんでたのは、華さん一人。 だからといって似てないモノマネは、する方が恥ずかしい。だいたい急に言われても、私モノマネなんてムリだよ……。そんな風に、ぐるぐる考えてたら。「わかった!」 と、沙織さんが決めちゃった。あうぅ。「華の誕生日だもん、リクエストに応えるよっ。ねっ、みぽりん!」「う、うん……そうだね……。……うん、がんばる」「そうですっ、何事も実戦経験です、西住殿!」「……なら、任せろ。私が先鋒だ」「えー!?麻子がやる気出すなんて」 麻子さんが、ふらり、と立ち上がった。可愛いパジャマ姿に、どこか迫力がみなぎってる。 深く、息を吸って……。「――『れ゛い゛ぜいざぁん゛!!ま゛だぢごぐよ゛っ!!』」「うっま!?」いつもの声と全然違う麻子さんに、沙織さんがびっくり。すかさず華さんが手を挙げた。「はーい!園さんでーす!」「正解だ」「……失礼ながら、出オチ感といいますか、ちょっとズルい気も……」「着想の勝利と言ってくれ」 仲良く耳打ちする優花里さんに、満足そうに麻子さんが応える。そして、もふもふとお布団にくるまった。あいかわらず、気まぐれな猫みたいな麻子さん。「よーし、じゃあ次、私いっちゃうからねっ。これ、かなり自信あるんだっ」 沙織さんが、こほん、と咳払い。沈黙と注目の中、口を開く。「『それより、ちょっとは手伝って下さいよ~』」「……?」 一斉に首を傾げる、みんな。 それは少し語尾を伸ばしただけの、いつもの沙織さんで……。私も、いくら考えても分からない。ご、ごめんね。「うああ何これー!すぐ当てられないの、めっちゃくちゃ恥ずかしいじゃん!」「沙織さぁん、もっとお願いしまぁす」 華さんのおねだりに、沙織さんはぐっと何かに耐える表情。ほっぺたを真っ赤にしたまま、片手で髪を後ろに束ねる。「……『桃ちゃん、ここで外すぅ~?』」「わっかりましたー!はいはーい、小山先輩!」「沙織、逃げたな」「いいのー!正解正解!」 布団に飛び込んで、頭隠して尻隠さずになる沙織さん。かわいそうだった……けど、私の近い将来の姿って思ったら、他人事じゃないんだよね……すごくドキドキしてきた……。 そんな私とは対照的に、優花里さんが勢いよく立った。「では不肖、秋山優花里が、副将を務めさせていただきますっ」 きりりと直立不動で宣言してから、休めの姿勢。そして。 「――『12月16日と言えば、かの高杉晋作が馬関の新地会所を、空砲による威嚇で無血占拠した日ぜよ』『しかし、それは五十鈴嬢の誕生日に相応しいのか?』『なら西部戦線にて独軍が最後の大反攻、ラインの守り作戦を開始した日だ。M10に偽装したV号戦車はあまりに有名だな』『いやいや。ここは大阪冬の陣で徳川軍の放った砲弾が大阪城本丸御殿に見事命中した日で……』『それだぁ!』」「わかりましたぁ。おりょうさん、カエサルさん、エルヴィンさん、左衛門佐さんでーす。当たりました?当たりました?」「ご名答です!」 ……。 いえーい、なんて向かい合いで両手をくっつけて、はしゃぐ華さんと優花里さん。 そんな二人をよそに、残りの私たちはポカンとしてた。だって、じょうずすぎる……。四人分きっちり演じ分けて、最後の声を合わせるところ、優花里さん一人でしてるのに、本当にそんな風に聞こえるの。「……ゆかりん……な、なにその完成度」「まさか即興で台詞を考えたのか」「いいえぇ。せっかく五十鈴殿のお誕生日ですからと、なんとなく気になりまして、下調べを……」「……優花里さん、すごい……」 ぱち、ぱち。呆然と拍手する私に、優花里さんがでへへ、と髪をかき混ぜる。でも、この後に順番が待ってる私にとっては、ものすごいプレッシャー。頭の中が、まっ白になってしまう。「ご、ごめんっ。誰のモノマネするのか、まだ決めてない……待ってね。すぐ考えるから」「あら、まぁ……ふふ。ごゆっくり」 華さんはやさしく笑ってくれたけど、私は気持ちが焦るばかりで、これだというモノマネがちっとも浮かばなかった。これって案外、難しい。自分も相手も、その人のことをよく知ってて、伝わるようにしっかり特徴を覚えてないといけない。「――でもさ、華」 みんなを待たせてるあいだに、沙織さんがさり気なく、時間稼ぎの会話を作ってくれた。「答えを当てるのが好きって言ってたけど、前のクイズ大会の時って、そんなに夢中になってなかったよね。ほら、大洗横断なんとかってやつ。……もしかして、モノマネフェチ?」「なんだそれは」「世の中には色んな嗜好がありますからねぇ」「……んー……?」 華さんは自分でも初めて気がついたみたいに、人差し指の先を唇に当て、考えこんだ。 それから、心の中から答えを拾い集めるみたいに、ゆっくり話しはじめる。「そう、ですね……。わたくし、この通りですから……以前は、なかなかご学友と仲良くなる機会がなかったんです」 ……うん。今夜の華さんを見ただけでも、友達作るのは得意じゃなさそうって、分かるよ。私も人のことは言えないけど。 華さんの独白は、静かに続いた。「沙織さんは、どなたとでもお友達になれますのに、わたくしに特に構ってくださって……本当に感謝しきれないくらいです」 華さんが微笑みかけ、照れて笑い返す沙織さん。「ですけど、みほさんに思いきって声をかけた日から、何もかも変わりました。春に花が咲き誇るように、わたくしにもたくさんの絆が増えて……今では、当てっこができるくらい、沢山の仲間がいます。ひとりひとりのことを、こんな風に覚えていられます。それがわたくし……嬉しいんです。だから、なのかもしれませんね。みなさんのモノマネを見るのが、好きなのは……」 華さんはいつもの、ふわりとした笑顔で、順番に私たちを見てく。「ありがとうございます、沙織さん。――麻子さん、優花里さん、それに……みほさん。五十鈴華は、今、この場所にいることができて、とても幸せです。きっと、いつまでも忘れません」 自分のこと話すのに、ちょっと緊張してたのかな……それとも、疲れたのかな。ほ、と熱っぽい溜め息をついて、頬を押さえる。「華ぁ」 そんな華さんに、沙織さんが思いっきりしがみついた。 沙織さんの顔は髪に隠れて見えなかったけど、その声はすこし、震えてるみたいで。「……ずっと、一緒だよ」「はい」あったかそうに、沙織さんにもたれかかって。華さんはプレゼントのマフラーを愛しげに、膝の上で撫でる。「……蔓日々草の、花言葉ですね。生涯の友達……それと、幸せな追憶」「うん」 そっか……。沙織さんと華さん、最初から通じ合ってたんだね。でも、それをわざわざ口にはしなくて。……いいなぁ、あの二人。 麻子さん、お布団にくるまったままだけど、名前を呼ばれた時にぴくりと動いたから、ちゃんと聞いてたのは分かる。きっと、照れ隠しだよね?優花里さんは感激して、目を潤ませてた。 私は……。 私は、お礼を言わないといけないのは私の方だよって、本当は叫びたいくらいだった。けど、それを口にしたら、いっしょに胸の熱が溢れて、優花里さんより先に泣いてしまいそう。 だから代わりに、静かに立ち上がった。私がものまねする人が、決まったから。 深呼吸――。「西住みほ、ものまねします」 その人が、大好きなことを。 その人の記憶がどれほど大切かを。 その人の声と仕草が、どれほど深く、私の心に焼き付いてるかを。 思い出の宝箱にしまった言葉で、示すんだ。「――『よろしかったらお昼、一緒にどうですか?』」(おまけ)「え、ええと……『せっかく来たんですから、ここは突撃ですっ』」「わかりませーん……」「ふええええ。そ、それなら……」「まったく。西住さんも、うっかりが過ぎるな」「ねぇ……華ってば、とっくに分かってるんじゃない?」「ど、どうでしょう……五十鈴殿のことは私にも測りかねます……」「……こ……『ここでしか咲けない花もあるのに……』」「……どなたでしょう……?」「うええええん」