2010年08月15日

F1のシミュレータ: デジタルの現実

Digital reality: F1 simulators revealed

我々は、一流チームの開発ツールにアクセスし、それがマシンとドライバーの改善のためにどのように使われているのかを調査した。

注:秘密保持契約のため、この特集のために協力してくれたチーム名を明かすことができない。記事中の画像は単なる実例であり、我々のスタッフが使用したシミュレータを示していない。

わたしは最近一流F1チームのシミュレータをテストするという珍しい機会に恵まれた。それがどのF1チームであるかは秘密である。その日のわたしのホストは「どのチームもレッドブルほどオープンではないんだよ」と皮肉っぽく冗談を言った。

F1では、基本的に固定型と運動準拠型の種類の対話型シミュレータ(愛情を込めて「人間の参加を必要とするシミュレータ」とも呼ばれる)がある。固定型シミュレータは、F1マシンのモノコックを利用し、その前に大きな球形のリアプロジェクション式スクリーンがすえつけてある。モノコックにはCAN-バス・インターフェイスが含まれており、ハンドルとダッシュボードの電子装置が、現実世界と相互運用を可能にする。さらに、ステアリングラックそのものが、可変抵抗とフィードバックをもたらすモーターから構成される(疑いを持たないドライバーが怪我をすることもある)一方で、ステアリング・レートとマッピングは実際のマシンと互換性がある。

わたしは、ふたつ目のタイプのシミュレータ、フルモーション型を試すことができた。最新の可動型シミュレータは、第一次世界大戦までその起源をさかのぼる。1919年米国空軍のシミュレータは、原始的な電気機械的プラットフォーム上の縮尺航空機シャシーに搭載され、戦闘機に取りつけられたマシンガンの発砲方法をパイロットに教えるためのものだった。10年後、25歳の飛行機ファンであるエドワード・アルバート・リンクが、最初の運動準拠型フライト・シミュレータ「ザ・パイロット・トレーナー」を発表した。これは3軸回転を含んでおり、当初は計器飛行を教えることを目的としていた。その後のモデルは50万人以上の米国人パイロットの訓練に利用され、第二次世界大戦中1万ユニット以上が販売された。



わたしのホストは「シミュレータを使う主な目的のひとつは、ドライバーの習熟だ」と説明する。「若手ドライバーが最初にF1マシンをテストするとき、彼らには過度のプレッシャーがかかる、彼らはパフォーマンスを見せる1度だけのチャンスであり、結果が出せなければ次のテストがないことを知っている。だから我々は最初のテストの前に彼らをシミュレータに座らせ、我々の仕事のしかた、エンジニアとのデブリーフの方法、特に正しい用語の使い方などのプロセスを学ぶ機会を提供する。たとえば、無線で話をしているとき、エンジニアは、ターン13あるいはターン14と言ったとき、サーキットのどの場所が指摘されているかをドライバーが理解しているものと予期している」

モーション・プラットフォーム自体は、クルーデンBV社が設計・製造している。同社は小規模なオランダの会社で、起源はフォッカー・エアクラフト・カンパニーである。クルーデン社はプロの対話型運動準拠型レーシング・シミュレーションの世界的リーダーとしてすぐに地歩を固めると同時に、ヘクステックのブランドでエンターテインメント市場でも事業を行なっている。

クルーデン社のプラットフォームは、高さ15フィート(4.57m)、5本の電気機械的アームによって支えられ、3つのディスプレイ、シート、ペダル、ハンドルを含んでいる。シートとホイールはGTレースカーのものであるが、ペダル・アセンブリ(ブレーキとアクセルはひとつずつ)は、F1コックピットの感触を再現するために成形フットステイが含まれている。

稼働中は、プラットフォームが6自由度(6DoF)で動く。つまり、左/右、上/下、前/後と、3つの垂直軸を中心とした回転(縦揺れ、偏揺れ、横揺れ)である。



わたしのホストは「ドライバーがシミュレータに入っていることを忘れるためには、プラットフォームの動く速度が重要である」と説明する。「経験不足のドライバーは誇張された手がかりが必要だ」 わたしは、これがレースカーのドライビングとシミュレータのドライビングにおける技術の移転を実証する興味深い比較だと思う。「最終的に、ドライバーはモーション・プラットフォームの感触をもつなじんだコックピットを求めるようになる。当然、大半のチームはこの目標を目指している。

クルーデン社の市場優位性の多くは、独自のシミュレーション・ソフトウェアのおかげである。ソフトウェアは、オンラインでダウンロードできる無料の自動車シミュレーター "Racer" から派生している。当初2000年8月にリリースされた "Racer" は、ルート・ファン・ハールの個人プロジェクトとして始まった。今やクルーデン社の技術最高責任者を務めるファン・ハールは、常にコミュニティの参加を積極的に促進し、このプロジェクトのウェブサイトを称賛する全員がアクセスできるような技術的知識を豊富に有していた。ウェブサイトには、「知識の共有は高速プロセスの最善の方法である」とある。さらに、ファン・ハールは "Racer" のソースコードもバージョン0.5.0までダウンロードできるようにした(現在の "Racer" のバージョンは0.8.6)。このコードはもう何年も前のものであるが、それでもおそらくプロジェクトにおける究極のコミュニティの貢献だろう。となると、匿名のチームのF1シミュレータが、公表されているソースコードのソフトウェアを利用しているのは皮肉なことかもしれない。

わたしのホストは「何年間も、我々は主なレーシング・シミュレーションゲームのほとんどを評価してきた。あまりに小さかったり、あまりに閉鎖的だったり、非協力的だったりした。あるいは、最近では誇大広告に過ぎないものもあった」と苦笑いをする。「いくつかのベンダーとは長期的関係があり、ほとんどの場合、その関係は両者にとってプラスである」

現在入手可能なレーシング・シミュレータがひとつもF1に供給するという具体的な意図をもっていないのは、偶然なのだろうか? あるいは、これらはオープンなので、拡張可能なのだろうか? 結局、最大かつ最も活発なコミュニティを持つ "rFactor"(より正確には rFactor-PRO(4) )は、F1チームのほぼ半数が利用するという実証済みの歴史を持っているのだ

こういったプロフェッショナル・グレードを応用することで、低レベルかつ細かい拡張が可能になる。「我々は、車両ダイナミシストと協力して、カスタム物理モデルをシミュレーションに注入している。これには、タイヤを正確にモデル化する能力や空力学も含まれる」 では、F1から撤退するタイヤサプライヤーであるブリヂストンから、彼らはどのようなサポートを受けているのだろうか。わたしの情報源は「ほとんどない。我々は、マシンから得たデータに基づき、社内でタイヤモデルを作っている。タイヤに大きな力をかけると、ほとんどの検査装置が壊れるので、ブリヂストンがタイヤのバウンドを効果的にテストするのはとても難しい」 シミュレータは2008年タイヤモデルを搭載しており、わたしのテストのときは溝つきタイヤだった。正確にモデル化されていれば、最近のスペックに比べた場合、溝つきタイヤは機械的グリップがそれとわかるほど少ないはずである。

また部品の評価のためにシミュレータを使っていることも、現在のF1におけるシミュレータの重要な役割を証明している。「シミュレータに部品の空力マップを投入し、マシンのバランスに対する感触や効果を評価することができる」 このような複雑な空力学は、乗ってみればすぐにわかり、加速に伴う空力学的グリップの増加は、これまでにドライブしたどのシミュレータとも違っている。例えば、低速コーナーの出口は、トラックション制限がかかる唯一の機会であり、高速でブレーキを踏むと、ブレーキをロックさせるのはほぼ不可能に感じられる。

わたしのホストは、マシンの開発におけるシミュレーションの利用方法について説明を続けている。

「我々は、部品がドライバーにどのような感触を与えるかに焦点を合わせている。例えば、フロント・ウィングを開発したとしよう。これは最初のターンインで特定の感触を与える、あるいはドライバーの好むパワーステアリング・マッピングをもたらしたとする。その後、これを設計チームに持ち込んで『こんな感触の部品を作ってくれ』と言うんだ」

さらに、対話型シミュレータはより専門的なツールを評価することができる。「実際に操縦可能かどうかにかかわらず、最適結果をもたらす思いがけないシミュレーションができる。したがって、このようなシミュレータを使って、この最適セットアップがドライバーのパフォーマンスにどのような影響を与えるのかを確認することができる」 わたしは、グランプリ週末でさえ、テスト・ドライバーを時おりシミュレータに乗せ、トラックにいるチームに情報を提供していることを知って驚いた。「現場にいるよりもシミュレータの方がかなり速くテスト・プログラムをこなすことができる。例えば、ヘレスでの典型的な3日間プログラムは、ファクトリーでは10時間で完了することができる」

シミュレータをドライブすれば、サーキットモデルが詳細に表現されていることに気づかされる。わたしはバルセロナにあるシルキュイ・デ・カタルーニャを訪れたことはないが、再現されたレイアウトの詳細を認識できるほどにである。わたしのホストは「サーキットモデルは我々独自のもので、我々の知的財産である。サーキットをレーザー・スキャンして、チーム間でコストを分担する第三者機関があるが、モデルそのものは我々独自のものだ」 これに興味を持ったわたしは、路面のグリップレベルやバンプなどに関して、サーキットから協力を受けているのかと尋ねた。彼はしばらく考え、答える前に微笑む。「わたしに言えるのは、我々はサーキットマップの作成にはマシンからのデータに大きく依存しているということだ...」

25年前ジェフ・クラモンドが初めてフォーミュラ3チャンピオンシップのゲームである "REVS" を "BBC Micro" のためにリリースしたとき、彼はビデオゲームの一世代に、そして最終的にはモータースポーツの頂点に影響を与えることを理解していたとは想像しにくい。しかし、"REVS" に始まり、クラモンドのGP2、3、4のグランプリシリーズを経てパピルスの尊敬すべき "Grand Prix Legends" に続く歴史を辿れば、"Racer" と "rFactor" とF1シミュレーション全般にインスピレーションを与えた複合的な役割を理解できるだろう。最終的に、時間が経てば人気のあるレーシング・シミュレーションゲームはF1にますます近づいて行くだろう。しかしレーシング・シミュレーションに関しては、その逆である。F1は時間の経過とともに、多くの人が思うよりもずっと消費者の利用するものに近づいているのだ。

-Source: Racecar Engineering
-Amazon: F1 2010 PS3 | F1 2010 Xbox360



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