「食べてすぐ横になると牛になる」
皆さんも子供の頃、このように言われた経験が何度かあるのではないですか?
お腹いっぱいになった食後というのは眠たくなってついに横になって(寝て)しまいますよね。
もちろん、横になると本当に“牛になる”訳はありませんが、古くからそんな風に言い伝えられているということは、実際に食べてすぐ横になると何かしらのリスクがあるのではないでしょうか。
今回は、ダイエットにも大きく関係のある、食後に横になる(寝る)ことのリスクや原因が何なのか紹介します。
食後すぐに眠くなる原因は?
お腹がいっぱいになった食事の後って、眠たくなってしまいますよね。
この食後に眠たくなる現象には、ちゃんとした理由があるため、異常でもなんでもありません。
食後に眠くなるのには、大きく分けると2つの原因があります。
消化・吸収の為の血液集中
私たちが摂取したものを消化吸収する際に、活発に働くのが胃腸です。
胃や腸は体内に入った内容物を消化して、その内容物に含まれる栄養素を吸収しますが、その時、胃腸に必要となるのが血液です。
消化活動が活発に行うために、全身を循環している血液が一時的に胃腸に集中します。
そうすると、胃腸に取られた分の脳に必要な血液量が普段よりも少なくなり、脳に十分な血液がないため、脳の働きが鈍ってしまい、眠気として症状にあらわれます。
食べたものを消化・吸収するという行為は、脳の働きを鈍化させるほどエネルギーを必要とし、基礎代謝にも含まれるほどのエネルギー量なのです。
そのため、胃腸が消化・吸収を行なっている間は、脳が体を休めるよう促しているとも言えるのです。
低血糖
食後に眠くなる原因として、「血液の集中」以外にもう一つ、それほどよくは知られていない理由があり、それが「低血糖」です。
低血糖とはどういう事かというと、血液中のブドウ糖が不足している状態のことをいいます。
ブドウ糖というのは、脳の働きを活性化させてやるには欠かすことのできない成分であり、ブドウ糖が不足した状態では、脳の活動が鈍くなってしまい、その結果眠気を引き起こしてしまうのです。
食べてすぐ寝ると太るは本当!
「食後すぐに寝てしまう」「夜遅い時間に食べると太る」ということは、最早ダイエッターのみの常識ではなく、一般常識となりつつあります。
寝る前の遅い時間と朝や昼の時間に、同じ料理を同じ量・エネルギー摂取したとして、食べる時間帯が違うだけでなぜ肥満につながってしまうのでしょうか。
摂取したエネルギーを消費しきれない
夜遅く食事を摂ると太る理由として、最も一般的なのが「摂取したエネルギーを消費しきれない」ということです。
一般的な夕食の時間帯である18時以降というのは、1日のうちで最も消費エネルギーの少ない時間帯であり、逆に摂取エネルギーは高くなりがちです。
只でさえ、摂取エネルギー>>消費エネルギーといった構図であるのに、さらに食事をする時間が遅くなり、食後すぐに眠りについてしまうと、摂取したエネルギーを消費しきれず、エネルギーが余ってしまうため体脂肪として蓄積してしまうのです。
自律神経の働き
自律神経は、交感神経と副交感神経の2つの神経系で構成されており、交感神経とは主に身体を活発に活動させるように作用し、副交感神経は主に体をリラックスさせて休めるように作用します。
対となるこの2つの自律神経は、日中は交感神経が優位となりますが、夜遅い時間帯や睡眠時などは、脳や体を休めさせるために副交感神経が優位となっています。
自律神経は、日中など活動が活発であり交感神経が優位となっている状態では、新陳代謝を促して積極的にエネルギーを放出するよう働きますが、副交感神経が優位となり脳も体も機能を停止したリラックスした状態では、代謝を抑制するように働いています。
そのため、深夜遅くや寝る直前の食事というのは、新陳代謝も低下しているため、体脂肪を蓄積しやすく太りやすくなってしまうのです。
夜は食事による熱産生が少ない
私たちの1日の総消費エネルギー量は、「基礎代謝+活動代謝+食事誘導性熱産生」の合計量になります。
基礎代謝とは、生命維持活動のために最低限必要な呼吸や体温保持といった、全く動かず過ごしても消費されるエネルギーであり、活動代謝とは通勤や運動など実際に身体を動かした際に消費されるエネルギーです。
これらのエネルギーに加え、食事を摂ることによって消化するためにもエネルギーが消費され、体熱を発し体温が若干上昇します。
この食事によって体が温まり、エネルギーを放出する人体反応を「食事誘発性体熱産生」といいます。
唐辛子やハバネロといった辛いものを食べた時にかく汗とはまた違った体熱であり、辛くないものでも食事によって体が熱くなり汗をかくことがありますが、これも食事誘導性熱産生によるもので、エネルギーを消費しています。
この食事誘導性熱産生でのエネルギー消費量は、一般に消費エネルギーの10%をも占めるとされ、朝が最も多く、夜になるとだんだん少なくなってきます。
この食事誘発性熱産生は1日あたりの消費エネルギー量をみてみても、決して少ないわけではなく、ダイエッターにとっても非常に大切なことです。
夜になるほど食事誘発性熱産生は低下するため、食事をとる時間が遅ければ遅いほど、食事によって消費されるカロリーも少なくなるので、太りやすくなってしまいます。
副腎皮質ホルモンの分泌量の減少
炭水化物やたんぱく質、脂質の代謝に大きく関係するホルモンに、副腎皮質ホルモン(糖質コルチコイド)というものがあります。
副腎皮質ホルモンは副腎から分泌されるホルモンであり、ダイエットに関係する主な働きとして、血糖値を素早く上げてエネルギーとして消費しやすいようにする働きがあります。
このエネルギー代謝に関与している副腎皮質ホルモンも、食事誘発性熱産生と同様に、朝が最も分泌量が多く、時間がたち夜になるにつれて減少していきます。
そのため、朝や昼よりも夜に食べたものはエネルギーとして消費されにくく、体脂肪として溜め込んでしまうのです。
副腎皮質ホルモンの分泌量は、夜になればなるほど減少するため、夜遅い時間に食事をとったり寝る直前に食事をとるなどすると、脂肪を蓄積しやすいため、肥満の原因となってしまいます。
脂肪を溜め込むBMAL1の増加
体脂肪の増減と大きく関わっている体内時計遺伝子BMAL1(ビーマルワン)。
BMAL1は、体内時計をコントロールする働きがあり、体内活動のリズムを正常に機能するよう調整するたんぱく質の一種です。
BMAL1は脂肪の合成を促進したり、血液内のブドウ糖の量を増加させる働きがあり、脂肪を蓄積させる酵素を増やすことがわかっています。
また、BMAL1の特徴として、分泌量が時間によって変動することがわかっており、午後3時頃に最も少なくなり、午後22時から午前2時までが最も多く分泌するとされています。
つまり、午後10時から午前2時の時間帯が最も体脂肪を溜め込みやすく、午後3時頃は最も脂肪がつきにくい、太りにくい時間帯であるということです。
同じ料理を同じ量、同じエネルギーを摂取するにしても、夕食を食べる時間帯が10時前に食べるのと、10時以降に食べるのとでは、脂肪の蓄積されやすさが全然違うのです。
そのため、夜10時以降に食事を摂るような食生活を送っている人は、脂肪がつきやすく太りやすくなってしまうのです。
夜10時〜午前2時という時間帯は、最も脂肪が蓄積しやすく肥満体となりやすい時間帯であり、多くの人が睡眠をとる時間帯でもあるのです。
食事はなるべくBMAL1の分泌量が少ない夜10時前には済ませておくようにしましょう。
食べてすぐ寝ることのリスク
食べてすぐに寝てしまうと、体にどのようなリスクが生じるのでしょうか。
逆流性食道炎のリスクが高まる
逆流性食道炎とは、胃からの胃酸が食道へと逆流することであり、主な症状としては、食道の炎症や胸焼け、胸痛や喉の痛みなどがあります。
食べた後すぐ横になってしまうと、胃酸が逆流しやすいため、食後の1・2時間はなるべく安静にしておきましょう。
逆流性食道炎が慢性化してしまうと、症状が悪化して食道癌のリスクを高めてしまいます。
脳卒中のリスクが高まる
食事後というのは、胃や腸に血液の流れが集まって摂取物を迅速且つ効率的に消化し吸収します。
そのため、胃や腸に血液が集中した分、大脳の血液量は普段よりも少なくなってしまいます。
食後すぐに寝てしまうと、大脳に流れる血液が不足した状態であるため、脳卒中を起こす危険性が増してしまうのです。
食後はこういった危険性を取り除いてやるためにも、睡眠までは少なくとも30分程度は間隔をあけるようにし、できることなら散歩などの軽い運動をしてから寝ると、体内の内容物もある程度しっかり消化でき、ダイエットにも健康にもいいといわれています。
夜遅くに帰宅して、深夜過ぎに遅めの夕食を食べてすぐ就寝してしまう生活というのは、脳卒中や急性冠動脈疾患といった病気のリスクを増加させてしまうのです。
睡眠の質が低下し、体に負担がかかる
食事をとった直後の睡眠というのは、体にとってもかなりの負担となってしまいます。
もちろんこれは、食物の消化・吸収の役割を担っている胃腸も例外ではなく、通常よりも消化機能が低下してしまいます。
食後すぐの睡眠は、消化機能が低下してしまうため、胃の中に消化しきれていない内容物が長時間留まることになってしまい、胃腸に負担をかけると同時に、朝起きた時に消化不良となって胃に不快感を感じてしまいます。
また、睡眠時に消化機能は低下するとはいえ、眠っていても胃の中に消化するべき内容物がある場合は、胃腸の消化にエネルギーが費やされます。
本来、肉体や脳、体の各器官を休める睡眠時に、体内の内容物を消化することにエネルギーを費やされて、体はしっかり休息をとることができず、睡眠の質を下げてしまうことになります。
睡眠がしっかり取れていないと、寝不足や体のだるさから、翌日の活動を活発に行えなくなります。
食後にすぐ寝てしまうという行為は、ただ肥満を加速させるという健康障害だけでなく、睡眠の質を下げたり消化不良で、翌日の活動にも支障をきたすこととなってしまいます。
食べてすぐ寝るのではなく「横になる」だけならメリットも!
食後すぐに寝てしまうと太ってしまうのは事実ですが、だからと言って、食後にすぐ身体を動かすのも健康上あまりよくありません。
食後というのは、食べた物を消化・吸収するために胃腸周辺に血液が集中します。
食事が終わると眠くなるのは、胃腸に血液が集中し、頭(脳)への血液量が十分ではないため、脳の働きが鈍化し眠気を引き起こしてしまうのです。
ところが、食後すぐに運動を行なってしまうと、血液は胃腸ではなく筋肉のほうに集中してしまい、胃腸の働きが活発に行われなくなってしまうのです。
胃腸の働きが悪いと、食べたものはしっかりと消化されず、消化不良を引き起こしてしまいます。
つまり、食後というのは消化・吸収の観点からすると、しっかりと内容物を消化して栄養を吸収するためには、食後は眠らない程度に横になり胃腸の働きを最大限活かせるようにしてやることが大切なのです。
まとめ
食べてすぐ寝る行為というのは、単に肥満を招くだけでなく、病気のリスクの上昇や消化不良・睡眠の質の低下といった健康障害をもたらします。
生活が不規則な人や夜遅く帰ってくる人などは、食事と睡眠の間隔が短くなってしまいがちですが、なるべく食事と睡眠の間隔はあけるように努めてください。
「食べてすぐ寝ると牛になる」とはよくいったもので、食後すぐに睡眠をとると太ってしまうのには、しっかりとした理由があるのです。
これらの理由は全て食事を摂る時間帯によるものであり、この食事の時間を改善することができたら、自然と肥満も防ぐことができます。
みなさんも肥満を事前に防ぎたいのであれば、夕食を食べる時間にはくれぐれも注意してください。