経済分析第193号
経済分析第193号(特別編集号)
- (はじめに)
- 福田慎一(東京大学教授)
- (序論)
長期停滞懸念下におけるマクロ経済:最近の議論のオーバービューと日本経済への含意 - 福田慎一(東京大学教授)
- (論文)
- 長期停滞論に関連する分析
- 第1章 R&D活動を考慮した世代重複モデルにおける、人口増加、
平均余命の上昇及び育児支援策の影響 - 二神孝一(大阪大学経済学研究科教授)
- 小西邦彦(京都大学経済研究所研究員)
- 第2章 日本企業の設備投資はなぜ低迷したままなのか
—長期停滞論の観点からの再検討— - 中村純一(日本政策投資銀行設備投資研究所副所長)
- 第3章 非保険リスク、長期停滞と財政政策について
- R.Anton Braun(アトランタ連邦準備銀行上級政策顧問)
- 中嶋智之(京都大学経済研究所教授)
- 第4章 日本国債の低利回りに関するマクロ経済面におけるインプリケーション
- 櫻川昌哉(慶應義塾大学経済学部教授准教授)
- 櫻川幸恵(跡見学園女子大学マネジメント学部)
- 第5章 国際資金余剰・世界金利・長期停滞
- 松林洋一(神戸大学大学院経済学研究科教授)
- 非伝統的金融政策の効果に関する分析
- 第1章 量的緩和策の銀行貸出への効果
- 立花実(大阪府立大学経済学部准教授)
- 井上仁(札幌学院大学経済学部准教授)
- 本多佑三(関西大学総合情報学部教授)
- 第2章 日本における期待インフレ率の変遷
- 沖本竜義(オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院准教授)
- 第3章 日本の金融政策とアジアへの波及:
グローバルVARモデルによるアプローチ - Robert Dekle(南カリフォルニア大学経済学部教授)
研究報告会と経済社会総合研究所の概要
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(論文)
第1部 長期停滞論に関連する分析
第1章 R&D活動を考慮した世代重複モデルにおける、
人口増加、平均余命の上昇及び育児支援策の影響
二神孝一(大阪大学経済学研究科教授)
小西邦彦(京都大学経済研究所研究員)
本稿はR&D活動と家計の出生選択を考慮した世代重複モデルを構築し、R&Dによる技術進歩と出生率の関係について分析を行った。主要な結果は以下の通りである。持続的な経済成長が不可能な領域が存在する。平均余命の上昇はR&Dの行われる領域を上昇させる一方で、人口が増加する領域を縮小させる。人口が増加する領域を上昇させるために、本稿では育児支援策を拡充させたときの効果を分析し、以下の結果を得た。家計への税負担が小さいときは平均余命が上昇したときと異なり、R&Dの行われる領域を縮小させて、人口が増加する領域を拡大させる。しかしながら、税負担が大きいときはR&Dの行われる領域と人口が増加する領域がともに縮小してしまう。
第2章 日本企業の設備投資はなぜ低迷したままなのか—長期停滞論の観点からの再検討—
中村純一(日本政策投資銀行設備投資研究所副所長)
日本の「失われた10年」においては、いわゆる「ゾンビ企業」の存在が産業の新陳代謝を妨げ、日本の長期停滞の原因であるとされた。しかし、「ゾンビ企業」の大半がリストラによって「復活」した2000年代半ば以降も、低金利、低成長、低インフレの状況は持続し、イノベーションの牽引役として期待された「優良企業」の設備投資も、、全体としては低迷したままであった。
本稿では、2000年代半ば以降最近に至るまで、豊富な現預金もしくは借入余力を持つ日本の優良企業において、なぜ設備投資が低迷したままなのかを、そのような「保守的投資・財務行動」を喚起する3つの動機、すなわち経営者の保身(エントレンチメント)、将来の投資機会に備えた予備的貯蓄、および内部資金市場の歪みに焦点を当てつつ、世界金融危機の前後における投資行動の構造変化の可能性を念頭に置いて分析した。トービンのq型の投資関数に、3つの動機の影響を検証する諸変数を追加した投資関数の推計の結果、世界金融危機以前(2004〜08年度)には、無借金状態を維持するために投資を抑制する「疑似資金制約」の行動が確認され、その動機として経営者の保身と予備的貯蓄の両者の可能性が示唆された。世界金融危機後(2009〜13年度)には、疑似資金制約の行動は弱まったものの、輸出産業を中心とする製造業では、過去の経営危機の経験が予備的貯蓄の動機を高め投資の抑制につながる経路が残存していた。
第3章 非保険リスク、長期停滞と財政政策について
R.Anton Braun(アトランタ連邦準備銀行上級政策顧問)
中嶋智之(京都大学経済研究所教授)
1990年代以降、20年以上にわたって、日本経済は停滞を続ける一方で、所得格差の拡大を経験してきた。安定した職は減少し、終身雇用制が消失しつつある一方で、高度な知識やスキルを必要とする職の賃金は上昇してきた。そのような所得の2極化は富の格差の増大にもつながってきた。本論文ではこれらの現象と整合的な理論モデルの構築を行った。我々のモデルでは、所得リスクの増大がGDPの減少と富の格差の増大をもたらす。そのモデルを用いて、様々な財政政策の効果を比較検討した。主要な発見は、資本に対する税率を減らすことで、GDPの上昇、富の格差の減少、そして、経済厚生の改善をもたらしうるということである。
第4章 日本国債の低利回りに関するマクロ経済面におけるインプリケーション
櫻川昌哉(慶應義塾大学経済学部教授准教授)
櫻川幸恵(跡見学園女子大学マネジメント学部)
政府債務残高の水準が極めて高いにもかかわらず、なぜ国債利回りが低いままなのかは、現在の日本経済における主要なパズルの一つである。本稿は、このパズルを明らかにする理論メカニズムを示し、そのマクロ経済へのインプリケーションを考察する。
分析のカギとなるのは、ホームバイアスが強く、投資家が資産ポートフォリオの国際的なリスク分散を達成できない場合、財政リスクをヘッジする代替的な資産を保有できないという視点である。なぜなら、財政破たんが起きると、国内のいかなる資産もその収益の減少を免れないからである。
この結果、国債の利回りは財政のデフォルトリスクに対して非感応的になり、政府は多額な債務発行が可能になる。しかしながら、こうした持続可能性は、実質金利の下落という犠牲によってのみ実現する。このことは日本経済を回復させようとする政策効果を弱めてしまい、結局のところ長期停滞をもたらすことになる。
第5章 国際資金余剰・世界金利・長期停滞
松林洋一(神戸大学大学院経済学研究科教授)
本稿は目下世界経済において懸念されている長期停滞の可能性を、グローバルなパースペクティブにおいて定量的に検証していくことにする。世界各国の低迷する経済成長は、その帰結として世界実質金利を低下させ、世界的な対外不均衡を持続させている可能性が高い。世界実質金利とはグローバルな自然利子率とも解釈でき、この利子率の低下は世界的な不況の長期化と物価の下落をもたらすことになる。本分析ではいくつかの手法を用いて世界実質金利を計測し 、貯蓄・投資バランスの枠組みに基づいて同変数の下落要因を実証的に明らかにする。検証結果より、世界実質金利の低下傾向は、主に各国の投資低迷に起因していることが明らかにされる。
第2部 非伝統的金融政策の効果に関する分析
第1章 量的緩和策の銀行貸出への効果
立花実(大阪府立大学経済学部准教授)
井上仁(札幌学院大学経済学部准教授)
本多佑三(関西大学総合情報学部教授)
本稿の目的は、日本で実施された量的緩和策が銀行貸出に対し効果を持っていたか否かを実証分析することである。そのために、個別銀行の財務データを用いてパネルデータ分析を行った。分析の結果、次の点が明らかになった。まず、2000年代前半に実施された量的緩和策は銀行貸出に対し正の有意な効果を持っていた。とりわけ、時期としては2002年度、業態としては第二地方銀行、財務状況としては不良債権比率の高い銀行によく効いていた。一方、2010年に採用された包括的金融緩和策と2013年に採用された量的・質的金融緩和策の銀行貸出への効果については、一部に有意な結果が見られたものの、頑健な証拠とまでは言えなかった。以上の分析結果は、伝統的金融政策のもとで検出された“銀行貸出チャネル”が量的緩和策のもとでも存在することを示唆している。最後に、銀行貸出チャネル以外の経路として、ポートフォリオ・リバランス・チャネル、総需要の喚起を通じたチャネル、バランスシート・チャネルの3経路を取り上げ、それらの効果について議論する。
第2章 日本における期待インフレ率の変遷
沖本竜義(オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院准教授)
過去30年間において、日本経済はバブル経済の発生と崩壊、その後の長期経済停滞、リーマンショックやユーロ危機などの国際金融危機、ゼロ金利政策の導入、量的金融緩和の開始、インフレ目標の導入など様々な事象を経験してきた。この過程の中で、日本における期待インフレ率がどのように変化してきたかを実証的に調べることは非常に重要な問題である。このような問題意識の下、本稿では、過去30年に渡る日本の期待インフレ率の変遷を平滑推移フィリップス曲線モデルにより分析した。分析の結果、期待インフレ率レジームと金融政策レジームには、強い関係が見られ、金融政策が期待インフレ率の形成に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。また、2013年初頭の日本銀行のインフレ目標の明確化とそれに付随する量的・質的緩和政策の導入は、デフレからの脱却という課題には一定の成果を上げた可能性があるが、2%のインフレ目標の達成には十分ではない可能性などが示された。ただし、2016 年早々から、日銀はマイナス金利付き量的・質的金融緩和を導入しており、その影響については、時間が経ちデータがそろうのを待って、新たな分析が行われることを期待したい。
第3章 日本の金融政策とアジアへの波及:グローバルVARモデルによるアプローチ
Robert Dekle(南カリフォルニア大学経済学部教授)
本稿では、日本の拡張的金融政策がアジアの近隣諸国に与える影響について、GVAR(Global Vector Autoregression Model)を用いて検証している。分析の結果、マネタリーベースの拡大を日本の景気刺激的な金融政策ショックと定義するならば、これは、短期的に韓国、中国、タイのGDPを押し下げる効果があることが分かった。一方で、中長期的にみると、タイのGDPにはプラス、中国のGDPには中立、韓国のGDPには若干のマイナスの影響がみられる。
全文の構成
- 1福田慎一
(序論)
- 5福田慎一
(論文)
第1部長期停滞論に関連する分析
二神孝一・小西邦彦
- 231.はじめに
- 242.モデル
- 293.モデルの均衡
- 324.育児支援策
- 365.経済成長率
- 386.計算結果
- 457.むすび
- 46付録・参考文
中村純一
- 531.はじめに
- 572.仮説と実証分析の枠組
- 623.説明変数とデータ特性
- 674.推計結果
- 795.むすび
- 81参考文献
第3章非保険リスク、
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、長期停滞と財政政策について(*)(PDF形式 532 KB)R. Anton BRAUN・中嶋智之
- 851.はじめに
- 882.モデル
- 933.結果
- 1004.むすび
- 101参考文献
櫻川昌哉・櫻川幸恵
- 1051.はじめに
- 1112.モデル
- 1133.モデルの特徴
- 1214.政策的含意
- 1235.ディスカッション
- 1256.むすび
- 127参考文献
松林洋一
- 1331.はじめに
- 1342.低成長下の世界経済と長期停滞論の興隆
- 1373. 2 国開放経済モデルの構造
- 1404.世界実質金利の計測
- 1455.世界的な対外不均衡
- 1496.貯蓄・投資と世界実質金利の定量分析
- 1577.おわりに
- 158参考文献
第2部非伝統的金融政策の効果に関する分析
立花実・井上仁・本多佑三
沖本竜義
- 1991.はじめに
- 2022.分析の枠組み
- 2073.分析結果
- 2134.為替レートと原油価格の影響
- 2215.結び
- 224参考文献
Robert DEKLE
- 2291.はじめに
- 2312.仮説
- 2333.グローバルVAR モデル
- 2384.日本の金融政策(量的緩和)ショックの識別
- 2395.結果
- 2456.定量化
- 2467.むすび
- 247参考文献
- 249
(*)がついている論文の本文は英語。