事業計画書の書き方(新規起業編)
第一章 美容業の場合
② 【取扱内容・サービス開業に必要な資金】2013/2/25
小橋川会計事務所
所長
小橋川 淳一
3 取扱商品・サービス
先生 『私は税金や会計の専門家だけど、一般の人から見たらどんな仕事を一体しているのだろうとか思うよね。』
A 『はい、私も起業に興味が無いころは全くわかりませんでした。言葉を聞いたことがあるくらいで・・・』
先生 『そう、金融機関の担当者も様々な事業を見ているからといっても全部に詳しいわけじゃないから、美容業についてよく知らないかもしれない。美容室といったら、女性が行く場所というイメージを持っていたり、どこの町でもよく見かけるから差別化は難しそうだなというマイナスイメージを持っている担当者もいるかもしれないね。』
A 『そうなんですか。そんな人たちに自分の夢を分かってもらう自信がなくなってきました。』
先生 『違うよ、A君。逆転の発想が大事だよ。前に創業の動機の話をするときに話したじゃないか。』
A 『あっ!そうでした。自分の夢を出発点に、サービス内容を考えていけばいいんですね。』
先生 『そうそう。今までにない付加価値のあるサービスはどんなことなのか考えてみてごらん。少しずつでもいいからイメージを言葉にしてみよう。』
A 『小さい子がビデオを見ながら笑っている姿や、その横でお母さんたちが微笑みながらキレイになっていくようなイメージ。子供がいるから行けないのではなく、小さい子供も一緒に、楽しくキレイになって、喜んでもらえるような・・・』
先生 『自分の原点を思い出せたね。じゃあそれを言葉にして書いてみようか。』
取扱商品・サービスの記述のポイント
- ステップ1 「美容業」から一歩踏み込んで考える
美容業とはあくまで、一般的な名称にすぎないので、カット・カラー・パーマ・シャンプー等の主要施術や、それに付随してどのようなサイドメニューを行うのかを考える。
一般的なサイドメニューには、ネイルや着付け等のサービス等、関連美容品等の販売が考えられるが、それらを”あえて行わない”という選択肢もあるので、迷った時は自分自身の創業の目的や動機をもう一度振り返ってみよう。
Aさんの場合
・お母さんにも来てほしいので、子供が遊べるスペースを設けたい
・仕事が忙しい女性も平日に来てもらえる時間まで営業する日を設定する
・癒される空間にしたいし、自宅でもリラックスできるようなグッズを販売したい
・ネイルサービスはまだ考え中
などなど- ステップ2 ステップ1の中で優先順位をつける
ステップ1の中で、既存の美容室ではあまり取り組んでいないものや、自分が特に取り組みたいことを絞ろう。
Aさんの場合
・子供を持つ女性と仕事が忙しい女性向けのサービスに特化する- ステップ3 ”サービス”は簡潔に、”セールスポイント”は具体的に記述する
“サービス”欄は、ステップ1で考えたことを簡潔に書く。”セールスポイント”欄ではステップ2で絞った項目を優先して、具体的に書いてみよう。
ステップ1・2で考えたことは、すべて記述する必要はないが、融資前の面談などで質問されたときに役立つので、ぜひ一度紙に書き出してみるとよい。
Aさんの事業計画書
・美容業全般(カット、カラー、パーマ等)
・キッズスペースの併設
・アロマ関連グッズの販売
・営業時間は12~22時とし、昼間は小さい子供がいる主婦層、夜は会社員(女性)をターゲットとする。
・室内に子供が遊べる空間(キッズスペース)を併設し、おもちゃや絵本などを置いておく。
・多種のアロマを活用し、長時間の滞在に居心地の良いスペースを作ることで、リピーターを獲得すると同時に、カラーやパーマなど客単価の上昇を図る。
4 開業に必要な資金
先生 『さて、ここから計画書の肝となる部分に入ってきますよ。心してかかろう。
早速だけど、美容室を開業するのには、どんなことにお金が必要かな?』
A 『えーっと、まずはお店がなくてはならないし、施術をする人が必要だし、器具や薬剤も必要になりますね。』
先生 『そうだね。ではそれらを具体的にみていこう。大まかには、①不動産関連費用、②施術設備・材料関連費用、③人材関連費用、④顧客関連費用、⑤事務処理関連費用に分けられるんだ。』
A 『そんなにあるんですか。』
先生 『ひとつひとつは難しくないから大丈夫だよ。
まずは①不動産関連費用。開業するのに一番お金がかかるものが建物と内装費だね。新築であれば改装が必要だし、居抜(いぬき)(同業他社が使用していた状態のまま借り受けるケース)で借りる場合は改装費がかからないけど、どちらも敷金や保証金が必要になる。加えて、不動産仲介手数料も加えると家賃一年分くらいになる場合もあるね。自分の店舗のイメージがあるはずだから、内装は床・天井・壁紙の張り替え・塗り直し、看板等店の外装も手直しも必要だよね。不動産業や内装業の方か、美容業向けにまとめて施工を扱っている専門業者さんに見積もりを取るといい。』
A 『見積もりをお願いする時は、自分が開業したい地域に近い方がいいですよね。』
先生 『そのとおり。地域によって相場は全然違いますし、商慣習も異なるので注意が必要だよ。一言付け加えておくと、見積もりを取ってみると理想と現実のギャップに気づくこともあるから、時間に余裕があれば、業者や内容を変えて、複数の見積もりを取って比較するのがベストだよ。』
A 『はい。がんばります。』
先生 『②施術設備・材料関連費用は、パーマ用機器・洗髪用椅子・鏡・施術用椅子・業務用ワゴン・リネン類収納ケースなど比較的大きなものとパーマ液・カラー剤・シャンプー・トリートメント剤など消費する材料があるね。材料は前もって発注する場合が多いだろうから、1カ月~2カ月に消費予定の分の費用は、開業前に用意しておこう。』
A 『あっ、そうですね。忘れていました。』
先生 『お客さんによっては、お店のシャンプーなどを使ってみたいという要望もあるかもしれないから、それも余分に置いておくといいね。ハサミなどは個々人で用意することが多いって言ってたね。』
先生 『③人材関連費用は、スタイリスト・アシスタントの人件費だね。もちろん給与だけでなく社会保険料等や通勤費なども必要になるから、難しいようなら専門家の手を借りて試算してみるのもいいだろう。人件費は開業前からかかるものだと考えた方がいいよ。教育・研修やお店の宣伝と、開業前にも時間と手間がかかるからね。』
A 『営業日から考えておけばよいとばかり思っていたけどそうではないんですね。』
先生 『もちろん、経験者を開業日と同時に雇うという考えもあるけど、お店の設備や機器の扱いに慣れてからお客さんにサービスを提供する方がいいからね。』
先生 『次に④顧客関連費用だけど、何か思いつくかな?』
A 『顧客に関わる費用ってなんでしょう。前の美容院で担当していた方への挨拶状とかですか。』
先生 『もちろん、そういった前のお客様へお知らせも必要です。④顧客関連費用は大きく分けて2つある。1つは店を新規開店したことを店舗の周辺や以前のお客様に宣伝する費用と、もう1つは店内でお客様をもてなす為にかける費用だよ。』
A 『先生、それなら想像がつきそうです。たとえば最寄駅で配る宣伝用のパンフとか、お客様が和やかな気分になれるアロマやコーヒーサービス、ヒーリングミュージックとかですね!』
先生 『そのとおり。まずはお客様をお店に来ていただくための、次に来ていただいたお客様を離さないための、おもてなしだね。』
先生 『最後の⑤事務処理関連費用は、予約処理やお客様リストの作成、さらには会計処理のために日々必要となる事務機器や消耗品なんだけど、具体的に分かるかな?』
A 『レジの機械や業務用のPC、名刺に文房具とかですか。』
先生 『うん、そうだね。他にはお金や顧客の管理をするための表計算ソフトや、チラシを作れるデザインソフトなんかもそうだね。』
先生 『これらすべての費用を種類別にまとめて、どの程度かかるのか計算してみよう。必要なものは業者に依頼したり、ネット販売等で、金額を見積もっていこう。見積もりの仕方は、不動産なら店舗面積や出店場所、人件費や材料なら、従業員の人数さらにはお客様の予定人数等具体的な数をもって算出することが大事だよ。(これは第3回でも説明します。)』
先生 『こうして見積もった項目は、お金として準備しなくてはいけないという意味では一緒なんだけど、事業計画書に書くときは、これらの項目を2つに区分してみよう。美容室を営業できる状態にするまでにかかるお金(設備資金)と、実際に営業が始まってから必要になるお金(運転資金)の2つだよ。』
『開業に必要な項目はさまざまだけど、不動産関係や改装費、施術器具、各種備品等の開業前に整えておく必要があるものは設備資金に、それ以外の日常的に変動して必要となる材料、広告費、人件費、月々の家賃などを運転資金と区分するといいよ。』
| 検討する項目 | 設備資金となるものの一例 | 運転資金となるものの一例 | |
|---|---|---|---|
| ① | 不動産関連 | 敷金等不動産初期費用 改装、内装、外装 | 月々の家賃・管理費 ガス代、電気代、水道代 |
| ② | 施術設備・材料関連 | シャンプー台、パーマ機器 ワゴン、収納棚 | シャンプー、カラー剤など リネン類 |
| ③ | 人材関連 | 給与(社会保険料、各種手当て) アルバイト料 | |
| ④ | 顧客関連 | 挨拶状、開店のチラシ等広告費 コーヒーサーバー | アロマ関連グッズ、広告費(ネット、紙媒体)、有線放送、コーヒー豆、お茶 |
| ⑤ | 事務処理費用 | PC、ソフトウェア 文房具 | 名刺 文房具 |
| ※運転資金には、この他に営業が軌道に乗るまでに必要な資金(つなぎ資金)が必要になる場合があります。 それについては次回以降に触れたいと思います。 | |||
取扱商品・サービスの記述のポイント
- ステップ1 前述の①~⑤に分けて、自分にとって必要な項目を検討する
前述した①~⑤の項目のすべてが必要なわけではないので、自分にとって必要な項目を検討する。
例えば、当分の間は人を雇わない予定であれば人材関連費は不要であったり、自分が行いたい広告宣伝の方法や顧客対応方法によっても必要な項目も異なってくる。- ステップ2 各項目の金額を見積もる
見積もりと実際の費用が大きく異なると開業後すぐに資金不足になる場合があるので、特に不動産や設備など金額が大きくなるものは、専門の業者への見積もりを依頼する。
材料などは、商品カタログやインターネットの価格を調べてみるとよい。
数万円未満の比較的少額の項目は省いてもよい。- ステップ3 「設備資金」と「運転資金」に分けて記述する
表を参考に、「設備資金」と「運転資金」に分けて記述する。難しい場合は、1回だけの出費(=設備資金)なのか、毎月の出費(=運転資金)なのかで分けて考えるとよい。
事業計画書を提出する際には、ステップ2の見積書を添付する。