内視鏡所見
検診で「胃ポリープ」と言われました。
現代人はピロリ菌が感染していない人が非常に多くなりました。ピロリ菌が感染していない胃では胃炎が起こりません。前庭部という胃の出口近傍で作られているガストリンという胃酸分泌を刺激するホルモン、このホルモンはピロリ菌の炎症で血中に放出され胃酸分泌を刺激するとされています。一方でピロリ菌がいない場合には組織内ガストリンが上昇することが観察され、同時に粘膜の一部がぷくりと膨れてくる、まるでニキビのように中に胃液を含んだ嚢胞状の膨らみが同時多発的に出現します。この膨らみを「胃底腺ポリープ」(fundic gland polyp: FGP)と呼びます。
ピロリ菌が感染していないとすでにわかっている場合、あるいは背景の粘膜に萎縮がない場合、胃にポリープがあると指摘されたらほとんど胃底腺ポリープです。
ピロリ菌が感染していても、ガストリンが高い場合や、同じく胃粘膜の増殖を刺激する女性ホルモン(Estrogen)が多い場合、あるいは増殖にかかわるβカテニンという遺伝子の異常がある場合も同じく胃底腺ポリープを認めることがありますが、むしろピロリ菌が感染している場合に見られるポリープは幽門腺が増殖した「過形成性ポリープ」が多く、背景粘膜や位置、形状などからバリウム検査で鑑別するのは難しい事ではありません。従って「胃ポリープ」などという曖昧な呼び方は止めて欲しいと思っています。(さすがに遠慮があるのか、最近は「胃隆起性病変」というさらに曖昧な呼び方をしています)
私の個人的なデータでは、ピロリ菌の非感染者、女性に限ると55%以上にこの「胃底腺ポリープ」を認めています。男性は45%です。さらに色素を使用して1mm程度の大きさのポリープを頑張って探すともっと見つかります。ピロリ菌非感染者のほぼ全員にもともと「胃底腺ポリープ」があるのではないかと思うほどありふれた所見です。
さて、胃ポリープとされてしまう疾患には、鑑別が容易な「過形成性ポリープ」の他にどんなものがあるのでしょう。粘膜下腫瘍というものがあります。これは1cm以下ではあまり問題にはならず、しかも形態的に鑑別も可能で、胃ポリープと呼んではいけません。「腺腫」(この場合腸型腺腫)も診断は極めて容易です。もちろん癌も診断は容易で、わざわざポリープとは表現しないはずです。
カルチノイドや胃型腺腫といった、医者を悩ませる病変がない事はないのですが、頻度としては医者が一生かかってカルチノイドが数例、胃型腺腫は見つかるかどうかという少なさからすると、素人のみなさんが「胃ポリープだ」と言われてそれを連想する事は合理的ではありません。
従って、「胃ポリープ」と表現されるような疾患に心配なものはなく、安心して良いですよ、と説明するのです。ただし、必ず一度は正確な診断を受けて欲しいと思います。正確な診断とは、美麗な写真を記録し、その写真を専門医が見れば誰もが納得するような、そういう診断の事です。
前回の「萎縮」に引き続いて、「胃底腺ポリープ」(fundic gland polyp: FGP)の話。
検診で「ポリープの疑い」なんて書かれたらほとんどがこれだ。そして医師にも理解している人が多くはないので書いておこうと思った。(「検診で胃ポリープと言われました」)
胃は粘液などを分泌する腺細胞で覆われている。それらは胃の出口(幽門)を中心に分布する幽門腺、入口(噴門)付近の噴門腺、それ以外に分布して胃酸などを分泌する胃底腺、に分類されている。
腺細胞が過剰に増えるとそれは表面から見て膨らんで見える。それを胃ポリープと呼んでいる。場所により腺細胞は違うのだからポリープにも幽門腺由来のもの、胃底腺由来のもの、噴門腺由来のものとがあるはずだし実際そうだ。
ピロリ菌が感染して胃の表面に炎症が起こると粘膜の増殖が生じることがあって、これは胃底腺領域であっても組織で見ると幽門腺のような形態になって増殖(過形成)が生じてくる。これを一般的には「過形成性ポリープ」と言う。もちろん幽門腺がそのまま増殖してくることもある。(噴門腺は難しいので省略)
このいわゆる過形成性ポリープの話は今回はおいておくけれど、読売新聞にたった数年前に書かれた記事ですら、この過形成性ポリープと胃底腺ポリープが完全に混同されてしまっている。偉い先生が書かれた記事なのに、だ。「検診で指摘されるポリープはほとんどが過形成性ポリープで云々・・・」という書き方からも混同している事は明らかだった。胃底腺ポリープも確かに胃底腺の過形成なのだけれど、それを混同するのは問題だろうと思う。
さて胃底腺ポリープは、胃底腺そのものの過形成で生じたポリープで、実際その数は膨大だ。検診で指摘されるポリープの多くはこのポリープだ。
当院ではオリンパス社の内視鏡装置を使っていて、200シリーズ、230、240、260シリーズとだんだんステップアップしてきた。このうち、胃に関しては、240シリーズ、260シリーズで非常に画質の進歩があった。解像度だけでなく、ダイナミックレンジも拡大している。(経鼻内視鏡の一部はまた200時代の画質に戻っているのでここでは考えないことにする)
どうしてそんな話を書いたかというと、胃底腺ポリープの発見率は使用する装置にひどく依存するからだ。
欧米で胃底腺ポリープの発見率は1.9%程度という報告がある。(日本でも1989年の報告で1.9%という数字がある)が、これは著しく低い数字である。当院では女性の23.4%に胃底腺ポリープは見つかっているし、男性にも16.3%見つかっている。恐らく報告があった当時、ヨーロッパの機械は100シリーズやファイバースコープであったろう。
ピロリ菌がいない患者さんに限れば、女性の57.1%、男性の48.3%に胃底腺ポリープが見つかる。非常にありふれた所見だ。
「胃底腺ポリープ」というのは、胃底腺がそのまま素直に増殖した隆起だから表面がクリっとして平滑で、周囲との境界が鮮明で、色調は周囲と全く同じで、中に水のようなものが溜まっているように見えたりする。
そのポリープが見つかる胃には以下のような特徴がある。(前回の萎縮の記事を理解しないとこれはわからない)
1) 萎縮は、C-1あるいはC-0である。つまりピロリ菌感染がない非常にきれいな粘膜である。
2) 萎縮はC-2とかC-3。だけれど、過去にピロリ菌の除菌をしていて非常にきれいな粘膜である。
3) 萎縮もあるし、いかにもピロリ菌感染があるのだけれど、なぜかそこに胃底腺ポリープがある。
圧倒的に多いのは1)のパターンだ。しかし、ピロリ菌の除菌をする症例が増えると2)の患者さんも増えてきている。さて、わからないのが3)で、ほんの数例だが背景に萎縮があり、ピロリ菌もいるのに形態的には胃底腺ポリープだ、という膨らみが胃内に存在する患者さんがいる。これはβカテニン遺伝子異常などが関与したりするのかも知れないけれど調べられないので今後の課題。
1) 前庭部の粘膜内ではガストリンという消化管ホルモンが盛んに産生される。ガストリンは胃底腺を刺激して胃酸分泌などを誘導するが、FGPのある胃では血中ではなくて組織内のガストリンが多く観察されるのだという。それにより刺激された腺細胞が増殖を起こす。血中ガストリンが高いのはピロリ菌感染した胃なので難しい。PPIで遺産分泌を抑制すると大型化したりすることも考えると、ガストリンが有効活用されない「なにか」機序があって、それが組織中ガストリンの増加およびFGPの出現を惹起するのかもしれない。またある種の遺伝子変化があるともされている。
2) 女性で多い理由は、女性ホルモンが増殖に関与している。(腺細胞の中にエストロジェンの受容体が証明されているわけではないけれど、もともとエストロジェンのようなホルモンは、細胞膜を容易に通過して核内に入り込み細胞増殖に関与する可能性がある。あるいは多くの胃癌でエストロジェンレセプターが発現している事から、もともと腺細胞にはエストロジェンへの感受性があるかもしれない)面白いのはどうもこのエストロジェンで刺激されているかもしれない10%のポリープは、いわゆるFGPよりもやや大型であるということだ。これはこれでFGP-like lesionと呼ぶべきなのかもしれない。
3) ピロリ菌が感染し、胃炎がおきると前庭部の粘膜内ガストリンが低下するので胃底腺への刺激がなくなる。これがピロリ菌感染者では胃底腺ポリープが少ない理由である。
この仮説を増強するように以下のような事象が観察されている。
1) プロトンポンプ阻害薬を使用すると胃酸分泌を抑制、そのため胃酸分泌を刺激するためのガストリンが過剰産生される。この薬を長期にわたり使用していると胃底腺ポリープが大きくなることが観察される。
2) ピロリ菌の除菌をした患者さんでは、除菌後に胃底腺ポリープが発現することがある。
以上をまとめると以下のようになる。
胃ポリープと言われたら
圧倒的に数が多いのは胃底腺ポリープである。胃底腺ポリープはFAP(家族性大腸腺腫症)に合併する事が多いと脅かすマスコミや医師がいるが、FAPに合併する胃底腺ポリープは肉眼所見が全く異なっていて密集した無数のポリープであるから、胃ポリープがあるからといってFAPを心配するのは間違い。
2) 胃底腺ポリープがあるときに、背景粘膜がどうであるかによって説明は変わる。通常は背景粘膜はピロリ菌の居ないきれいな粘膜であるが、その時には将来胃癌のリスクは低いと考えられる。定期的な経過観察についても一部の患者さんをのぞけば必要なしと説明している。
4) 胃にポリープがある、と言われた場合には必ず過形成性ポリープなのか、胃底腺ポリープなのか、それ以外のポリープなのか、それを医師には質問して欲しい。良性です、はその答えにはなっていない。