ウェブブラウザのJavaScript(ジャバスクリプト)の設定が無効になっています。Javascriptが無効になっていると、サイト内の一部機能がご利用いただけません。 【HQ!!】ふわふわ肉食パンケーキ【クロ月】2014年6月20日 10:15 女の子というのは黒尾にとって、未知の生物に近い。何を考えているのか分からないし、どうしてこうも話題だからという理由でたいして好きじゃないものにまで並ぼうとするのだろうか。 人気パンケーキ店に三十分前から並んでいるのに待ち疲れた様子もなく「やっぱり人気なんだね」と笑う彼女のことを、黒尾はあまりよく知らない。同じ学科の彼女とは講義が重なることも多く、入学当初から顔見知りだった。それが同じゼミに所属するようになってたまに昼食を一緒にとっているうちにそういう雰囲気になって告白され、嫌いじゃないし彼女もいなかったので付き合うことにした。相手には悪いが、ただそれだけの相手だ。 好きか嫌いかと聞かれれば「好ましいと思っている」という曖昧な返答になる。こうしてデートをしている時、今のような甘いものがさほど得意ではないくせに彼女に付き合って甘いパンケーキ店に並んでいると、黒尾に気を遣ってか、はたまた待ち時間退屈しないようにかは分からないけれど、一生懸命に笑顔で話し掛けてくるところなんかは気遣いが出来ていいと素直に感じる。身長が高い黒尾を見上げ姿は庇護欲をそそるし、キスしたあとの嬉しそうな顔も、照れながら上目遣いで誘ってくるところも可愛いと思う。 黒尾の友人が「なんでお前みたいなのが彼氏なんだよ」とぼやくくらいに彼女は学科で人気があった。容姿が整っていて性格は控えめで、周りをよく見ることが出来る自慢の彼女だ。それなのに何が不満なのだと言われそうだけれど、ただ何となく特別な興味が湧かない。 甘いものが好きそうな雰囲気の彼女は実は辛党だ。甘い物は苦手だと言っていたのに、今並んでいるパンケーキ店はふわふわの軽い生クリームが売りの店だ。黒尾だってバカじゃないので、オーソドックスなバターのみのパンケーキや、ソーセージやトマトで煮込んだビーンズ、チーズが乗った食事パンケーキがあることも知っている。なので彼女がそれらを食べたいから並んでいることに問題はないけれど、「食べたい」よりも「周りの話題についていきたいから実際に行って食べてみたい」の色合いが強い気がしている。 流行に疎いよりはいいかもしれないが、敏感すぎるのも疲れないのだろうか。雑誌のスナップからそのまま飛び出してきたような服装や髪型、メイクは確かにオシャレだけど、そこに個性は見られない。 日々流行にアンテナを張り巡らせて身だしなみに気を遣う世の女の子には申し訳ない。が、正直なところ黒尾は、例えば渋谷のスクランブル交差点で彼女とすれ違っても気付かない自信があった。 街行く女の子達はみんな似た外見をしているので、人混みではとてもじゃないが判別出来ないだろう。彼女は確かに可愛いが、自然と目がいくような何かがあるとも思えない。可もなく不可もない相手という認識が付き合って数ヶ月経ってもなくならないのは黒尾に問題があるのだろうが、あながち仕方のないことなのだろうと開き直っている。 好きだとはっきり断言出来ないあたりから、そもそも間違っているのだ。それなら何故付き合っているのか、と自分に返って来るブーメランを避けるために彼女の前では優しい彼氏でいようと嫌な顔ひとつせずに、深夜のバイト明けで寝ていないので本当はデートをしたり気乗りがしないパンケーキに並んだりせず家に帰って今すぐ寝たいという本心を、眠気撃退が謳い文句のスーパークールミントのタブレットと共に噛み砕いて今も笑顔で相槌を打っている。「アボカドとオリーブのやつを食べてみたくて」「へぇ。そんなのあるんだな」「今は種類も多いからね。お肉がのったのもあるし、ここのお店はピザもパスタもあるから黒尾くんも大丈夫だと思うよ」 こういう一言に男は弱い。複雑なことを考える女の子と違って、男はいつだって単純でバカだ。黒尾の好みも踏まえて店選びをし、男のエスコートに頼らず「行きたいお店があるんだけどいい?」と男を立てながら上手くリードされて嫌な気はしない。むしろその方が、黒尾みたいな男からすれば、気楽でいい。「付き合わせてごめんね。みんなスイーツ系頼んでる中でこれを注文するの、ちょっと勇気ないから」 カフェとして利用する場合は飲み物とスイーツが多いので食事パンケーキは難しいかもしれないが、ランチなら気にせず食べればいいのに。女の子の感覚は黒尾には不可解なので、最初から理解は諦めている。向こうだって理解されなくても話を聞いてもらうだけで十分だろう。投げやりだがこれは事実なので、黒尾も女の子から敬遠されたりしない。 ともかく、本音か建前かはさておき、上手く誘導しながら余計な気遣いをさせない完璧な文言で黒尾に財布を出させた彼女の方が一枚上手で、黒尾もまた、彼女の前では猫をかぶっているということだ。「なら、なんで付き合ってるの? ヤりたいから?」 失礼なことを言ったのは二歳年下の後輩だ。後輩というには気を許しすぎているし、友人の方が近いかもしれない。彼女を大事にしつつも気を遣い、そのくせ男同士でバカ騒ぎする方ばかり優先する黒尾に辛辣な言葉を浴びせる人間は限られている。 週の真ん中である水曜日は、黒尾が一日フリーの曜日だ。昨日はたまたま不足が出たから入ったが、火曜日は学校だけでアルバイトを入れず 木曜日は三限からなので、実質火曜日の夕方から木曜日の昼まで空いている。 黒尾のスケジュールを知っているのは一部の人間だけで彼女には言っていない。言えばデートになってしまうことを危惧してなのだが、「恋人なんだから当然デショ」というのが後輩こと月島の意見だ。「好きな相手と一緒にいたいって思わない人、いないと思うケド」 どう考えてもスポンジとクリームの割合がおかしい、生クリームばっかりのショートケーキを食べながら月島は言った。イチゴはあまおうか何かだった。真っ赤な大粒で、よくあの薄いスポンジの上で沈まないな、と感心していたら「聞いてます?」と呆れられた。「適当にいい顔して優しい彼氏を演じられても、好きじゃないから優先できないんデショ。ヤりたいから付き合ってる、って言われても否定できないよ」 言われてみれば正論である。「そんなつもりねぇけどな」 小洒落たカフェは知る人ぞ知る穴場らしく、ゆったり流れる耳障りのいいBGMに時間を忘れそうになる。大好物のショートケーキを食べる月島の向かいで、黒尾は店自慢のブレンドコーヒーを飲んでいた。「まぁ、僕はそういうのもありだとは思うけど。黒尾さん詰めが甘いところがあるから気をつけた方がいいんじゃない?」「お前が言うと言葉の重みが違うから止めてくれよ」 女の子より男の方が好きな月島には色々事情がある。前の恋人は女の子だったが、ヤった後は出会い系サイトで知り合った男と寝ていたことを聞いた時はさすがの黒尾も驚いた。「なんで?」と踏み込んでもいいものか躊躇うことすらせず聞き返した黒尾に「抱くより抱かれる方が気持ちいいんで」と明け透けな返答をしてきたあたり、月島も黒尾に遠慮がない。 普通の後輩ではこうはいかないだろうし、友人に告白しにくい内容でもある。学校も学年も違い、適度な距離があるからこそ打ち明けられる秘密だ。実際、月島の恋愛遍歴を知っているのは黒尾と幼馴染の山口だけだが、抱いた後に後孔が疼いて抱かれたいと思うことまでは知らないらしい。自分に置き換えてみるならば、彼女に対する黒尾の感情を孤爪は知らないが月島は知っているのと同じようなものなのだろう、と妙な納得があった。 パンケーキは、そんな月島が好きそうな店だった。全席仕切りがあって半個室のような空間は気を遣わなくていいし、白を基調とした店内は女の子が好きそうな雰囲気だ。席に案内される際にちらりと見えたイチゴと生クリームがふんだんに使われたパンケーキは見ただけで胸焼けしそうだが、月島ならぺろりと平らげるだろう。 彼女は言っていた通りアボカドとオリーブのものを、黒尾はロコモコ風のものを頼んだ。この手のものに馴染みがない黒尾には味は普通としか思えなかったが、彼女は美味しいと最後まで言っていた。 ランチタイムを過ぎても混雑していた店を食べ終えてほどほどで出て、目的もなくぶらぶらとウィンドウショッピングをした。新作の服や靴、雑貨などを、他愛もない話をしながら順番に見て回るうちにいつの間にかいい時間になっていた。「晩ご飯どうする?」 時刻は十六時三十分。もう少し遊んでから食べて帰るか、一人暮らしの彼女の家で食べるか。後者ならお泊まりコースだろうし、前者でもこの近くにはホテルなんて数えきれないほどある。どう答えるか、と悩むより早く、黒尾のスマートホンが震えた。ディスプレイに表示された名前は珍しくないが、電話をしてくることはあまりない。長く続く振動を不審に思いながら、悪いと彼女に断ってから出た。「どうしたの?」 二、三言敬語で話した黒尾に小首を傾げながら彼女が問う。だが、その可愛らしい動作とは逆に、顔には隠しきれない不満と疑念が滲んでいる。頬にかかる髪は毛先だけゆるやかに巻かれ、そういえば今日着ているセットアップは前回、と言っても三週間前だが、のデートでしきりに似合うか聞かれた末に購入していた服だった。 おそらく彼女は今日のデートに期待している。明日の午前に講義がないことは同じゼミなのでバレているし、お泊まりコースを望んでいるのだろう。「悪い、実は」 あぁ、また振られるな。ついでに平手打ちの一発や二発を覚悟しながら、黒尾は精一杯の申し訳なさそうな表情で、もう帰らないといけない、と伝えた。 左頬は無事だった。アルバイトに入らないと行けなくなって、と帰る理由を告げた黒尾に対して、彼女は冷静に理解を示した。「久しぶりのデートなのに残念だけど、しょうがないよね」 つくづくよく出来たいい彼女だと思うけれど、『いい彼女』であるための行動であるのだと黒尾もとっくに見抜いている。 昔から腹の探り合いも心理戦も得意だった。女の子相手に本気になるのもカッコ悪いし程々のところで負けていた自覚もあるので、黒尾は自分から振らない。そんなことをしなくてもきっと来月にはお決まりの台詞と共に振られるのだ。振られても然程傷付きはしない自分がすんなり想像出来る。溜め息を吐きながら買い物カゴに清涼飲料水を突っ込んだ。 ヤりたいから付き合ってるんじゃないの。 チクリと刺さる言葉を思い出すが、デートの回数が少ないからヤってばかりの印象があるけれど、そういえば彼女から誘われることも、遠巻きに「しないの?」と訴えかけられることも多かったのでお互い様だ。その他諸々の買い物を済ませ、やはり別れてもダメージがないな、と自分のどうしようもなさに黒尾は笑うしかなかった。「お前のせいで、店長に入院してもらうことになったじゃねぇか」 ドラッグストアで購入したマスクをしてからインターホンを押せば、のろのろとした足取りで額に冷却シートを張った赤い顔の月島が出迎えてくれた。「知らないよ、そんなの」 軽口を叩きながらも辛そうで、部屋に入ってからすぐベッドに押し戻した。「風邪? 熱測ったか?」「体温計ない」「だと思った。買ってきてよかったわ」 一人暮らしをしている月島の家へは何度か遊びに来ている。それこそ、火曜日の講義が終わってから外で夕食を食べて月島の家でだらだらと一緒に映画を見るのは半ば習慣化していて、月島に予定がなければ黒尾は頻繁に入り浸っている。 この家には最低限の救急セットしかないことを、黒尾は月島が越してきたその日に荷解きを手伝ったので知っていたので、ないだろうと思って買ってきたのだ。大人しく寝ながら測っている間に清涼飲料水を冷蔵庫に冷やし、何があるか確認する。あの様子だと熱は高そうだけれど、薬を飲ませる前に何が食べさせないといけない。「黒尾さん、今日デートだったんじゃないんですか?」「そうだけど? どっかの誰かさんがしんどいっていうから来たんだろーが」 おそらく、月島からの連絡がなければあのままホテルで休憩しただろう。さすがに若いと言っても深夜勤務の後一睡もせずお泊りデートをする元気はない。適当にヤって、軽く食事をして別れただろうと考えて、「やっぱりヤりたいだけみたいな感じなのかもな」とぼんやり思った。 だが今日はそんな気分にもなれず、月島からの着信に助かった心地でアルバイト先からの電話だと彼女に思わせるために咄嗟に敬語で対応した。「そういうお前こそデートだろ? 彼氏はどうしたんだよ?」 月島の今の恋人は七歳年上の男で、今の彼氏と付き合う前に付き合っていた二歳年上の彼女の元彼氏、という最近のドラマよりも濃い恋愛をしている。 聞いた所によるとその彼女が「元彼を忘れさせてほしい」と月島に懇願したことがきっかけで付き合い始めたらしい。まずその段階で「オイ、なんか違うだろ」と黒尾は思ったのだが、月島はなかなか悪食だった。 女の子と付き合うときは恋愛にのめり込んで自滅するようなどうしようもない女、但し外見はモデルや芸能人みたいな美人のみ、と付き合うし、男と付き合う時は年上の堅実な男を選ぶ。「わっかんねぇな、お前の好み」 そう言った黒尾に「軽い遊びみたいな男と付き合うと面倒だし、真面目な女の子は重いから」とさらりと返され、それがきっかけで月島の恋愛遍歴が気になった黒尾は「誰にも言わないから」と言って色んな話を聞かせてもらうようになった。今思うと黒尾が女の子を未知の生物として見るようになった切欠や価値観は、すべて月島の影響によるものかもしれない。 その彼女は月島と付き合って、周囲から羨望の眼差しを集めた。月島は「僕のこともブランド品みたいな感覚で付き合ってほしいって言ってたから」と言う人によっては盛大な勘違いナルシスト野郎と思われる内容を嫌味なく言ってのけた挙句、「だから彼女が一番欲しがってた元彼を奪ってあげたんだけど」と恐ろしいことを口にした。 全くもって、他者から自分がどう見られているかを客観的に理解している人間ほど怖いものはないと痛感する。自分の魅せ方、武器、どう振る舞えば関心を集められるかを熟知しており、狙った獲物は逃さない。「一時期耳にした雌ガールってのに近いな。こいつ抱かれる方がいいって言ってたからあながち間違ってないんじゃねぇの」 生々しいことまで想像しそうになった頭を振って、「誰だよ、こいつを草食系だって言ったの」とどこか分からないものに八つ当たりをしたくなるくらい肉食だった月島は、そうやってまた一人、新しい彼氏を見つけて彼女を振ったのだ。 元カレが二人揃ってホモで、しかも付き合い始めたと聞いた彼女に黒尾はひどく同情した。さらに質が悪かったのは、彼女がいくら「月島君ってホモなの!」と叫んだ所で誰も信用しなかった所だ。 学年や学科が違っても長身で顔が整っていれば自然と注目を集める。そんな誰もが一度は視線を向けてしまう月島と付き合っておきながら元カレに未練たらたらだった彼女が月島に振られたと聞いて当然だと思う人間が大半だったし、いくら彼女が月島はホモだと言っても振られた腹いせに言っているだけだと取り合ってもらえない。全く誰だよ、こいつを草食系だって言ったの。黒尾の疑問には、未だに返答はない。「ドタキャンされて、まぁいいかって思ったらしんどくなって」 月島の恋愛におけるウィークポイントは、そうやって狙いを定めて射止めた後はその積極性が欠けることだ。重い女の子が嫌だと言う月島は彼氏には甘えても我儘は言わないし、案外尽くす。だから肝心な所で頼る相手がいないのだ。今だって本当は彼氏に連絡して、例え夜遅くなってもいいから来てもらえばいいのに、月島は彼氏じゃなくて黒尾に連絡した。 体調が悪い時は気弱になってしまうものだ。そんな姿を見られたくなかったのか、といじらしい一面と普段の生意気さとのギャップに黒尾もつい世話を焼いてしまうけれど、見せる相手が違うだろうとも思う。「ったく、俺が振られたら責任とれよ」「駅前の定食屋でサンマの塩焼き定食奢ってあげるよ」「安い責任だな、おい」 ふふふ、と力なく笑った月島から体温計を奪う。三十八度七分。しんどいはずだ、と珍しく軽口の応酬に付き合った月島を見て思う。いつも一、二言しかノってこないのが月島なので、よほど頭が働いていないのだろう。「明日病院行くぞ。何か欲しいものあるか?」 冷却シートや市販の風邪薬、食べやすそうなゼリーやヨーグルトは買ってきたが、発熱時に何が欲しいかは個人によって違う。黒尾はあまり高熱を出した記憶はないけれど、清涼飲料水とヨーグルト、アイスクリームが無性に欲しくなる。「ううん、大丈夫」「とか言って、何も食わないで寝る気だろ」 少しでいいから食べろ、と目の前に何種類か並べると、少し迷ってりんごの果肉入りヨーグルトを選んだ。「ストロベリーのが食べたい」「なかったんだよ。後で買ってくるから、それ食ったら薬飲んで寝ろ」 小さいカップを時間を掛けて飲み込むように食べた月島に錠剤と水を渡す。薬を見て子供みたいに嫌そうな顔をした月島に無理やり飲ませ、寝かせた。「寝るまでいてやるから。で、買ってくるのはストロベリーのヨーグルトだけか?」「プリン」「はいはい。じゃあカギ借りるからな」 月島が好んでよく食べているのは生クリームが盛られたプリンだが、さすがに今は普通のでいいだろう。ドラッグストアとコンビニにはストロベリーのヨーグルトはなかったのでスーパーに行ってみるか、とこの近辺の地図を頭に思い描きながらベッドを背もたれにしてラグの上に座る。「くろおさん」「んー?」 熱があるからか、甘えた口調で名前を呼ばれ面映ゆい。日々の疲労やストレスの積み重ねが今回の発熱に繋がったのだろうが、その中でも一番の原因は彼氏のような気がする。 社会人と大学生。なかなか時間が合わないと前に月島が言っていた。月島だって、今本当に呼びたかったのは黒尾じゃなくて彼氏だろう。ドタキャンの理由は知らないが上手くいっているのだろうか、と疑問が頭に過ったが、黒尾には男同士の付き合いはよく分からない。ただ、いくら自分が行けなくても他の男が恋人の看病をしているのはあまり気分のいいものではない、ということは変わらないだろう。「そういや今日パンケーキ食ってきたんだけど、お前の好きそうな店だったわ」 しかもあの月島が自分から誰かを頼るなんて滅多にないし、それが自分なのだと思うと彼氏には悪いが「俺って案外懐かれてんだな」と少しむず痒い。それを誤魔化すようにあのパンケーキの話をした。何センチも盛られた生クリームと真っ赤なイチゴがふっくらと柔らかいパンケーキの上に乗った店一番人気のメニューを月島は気に入るだろう。「今度行くか?」「その話は、もうちょっと熱が下がってからまた聞くよ」 いくら好きでも、高熱がある時に甘ったるい話は気持ちが悪い。黒尾の軽口に付き合ってはいるが、月島にそこまでの元気はなかった。「おう。とりあえず寝ろよ。その間に買い物行くけど、まだ帰らないから」 今日は水曜日。明日も午前中は予定がないので病院に付き添うくらいはしてやれる。本当は黒尾がいない方がゆっくり寝られるのかもしれないが、一人暮らしで体調を崩していると無性に心細くなったりするのでもう少しだけいようと思った。黒尾も病人の前だから気を張っていられたけれど、もう眠くて限界だった。月島の胸がゆったりと規則正しく上下するのを見ながら、大きな欠伸をひとつした。「俺も仮眠とるかな」 もうしばらくしたら、またコンビニに行こう。一時間もすれば納品が終わって商品も増え、月島ご所望のストロベリーのヨーグルトもあるだろう。勝手知ったる月島の家。家主が寝たのをいいことに、つられるようにベッドの隣、ふかふかのラグの上で黒尾も眠った。 黒尾が目を覚ましたのは二時間後だった。月島に名前を呼びながら軽く揺すられ、重い頭を起こした。仮眠をとればすっきりすると思っていたのにまだ靄が掛かったままだ。やっぱりしっかり寝ないとダメなのか、と起き抜けの状態でぼんやりと考えた。「黒尾さん、熱あるんじゃないですか?」 言われてみれば、頭は熱いのに体は寒い。寝るときはきちんとクローゼットから勝手にブランケットを出して被って寝たので寒くなかったし、こんなにすぐ月島から移されることもないだろう。 渡された体温計を脇に挟むが、なかなか鳴らない。ようやくピピピピと電子音が響いたと思えば、三十七度五分。これくらいなら平気だが、いざ数字を突きつけられると急に体が重く感じる。「何度ですか?」「三十七度五分」「……僕、移した?」「いや、さすがにそれはないだろ。昨日深夜だったし、今日人混み行ったからそこでもらってきたんだと思う」 とりあえず寒い、と言えばふらふらした足取りで月島がクローゼットを開け、パーカーを貸してくれた。これじゃあ、どっちが病人か分かったものではない。月島もそう思ったのか、黒尾がパーカーのジップを上げた後、顔を見合わせ二人で苦笑した。「何か、すごく疲れた」「俺もだから」 多目に買ってきてよかった、と黒尾も冷却シートを額に貼るが、それを見て月島はふと尋ねた。「黒尾さん、帰れるの?」 さすがの黒尾も、まさか冷却シートを額に貼ったまま電車に乗らないだろう。月島のパーカーの上からブランケットを被り、ベッドに頭を預けるように凭れる姿からは帰る気が全くしない。「無理。泊めて」 月島の家と黒尾の実家は、移動時間で言えば三十分と近くはないが遠くもない。ただ乗り換えが面倒で、今の時間帯からして帰宅ラッシュに巻き込まれるのは目に見えている。熱を自覚した状態でハブ駅の混雑を潜り抜けながら満員電車に乗る気が起きないのも無理はない。「ねぇ、これどっちも長引くパターンな気がするんだケド」 病人が二人揃ったところで何にもならない。黒尾が買ってきた冷却シートや清涼飲料水が減るスピードが二倍になるだけだ。「そうならねぇためにも、明日朝一で病院行くぞ」「ですね。はぁ、黒尾さんなんか呼ぶんじゃなかった」 どっと疲れたのか、月島が行儀悪くベッドにダイブする。その衝撃と重さで揺れたマットレスが黒尾の後頭部を直撃して、頭だけで支えていた体がぐらりと傾く。「人のデート邪魔しておいて、ンなこと言うなよ」「それは申し訳ないと思ってますケド、って何ですか?」 のっそり体を起こした黒尾がベッドに上がってくる。「どうせ俺も風邪ひいてんだから、入れてくれよ」「狭いから嫌です」 月島の家に客用の布団なんてない。大学の友人と集まる時は同じ高校出身でルームシェアをしているという二人の家が使われ月島の家の出番はないので、泊まりに来るような友人なんて東京にはいない。「下、寒いんだよ」 それなら悪化する前に帰ればいいのに、と思わないこともないが、今から帰宅する億劫さも分かる。それにこんな状態を想定していなかったが、デート中の黒尾を呼びつけて世話を焼かせようとしたのは紛れもなく月島なので、いくら正論だと思ってもあまり強く出られない。「……分かりましたよ」 渋々端に寄れば、空いたスペースに黒尾が入り込んでくる。それだけならまだ許せたが、ぴたりと体をくっつけ抱き締められることまで許容出来ない。「離れてください」「これ以上こっち寄ったら落ちる」「こっちもギリギリなんですから」 約百九十センチの男が二人で一緒に寝るのは最初から無理がある。仰向けだと肩が出るし、向かい合うと腕の置き場に困って先ほどみたいに抱き締めてしまうので、お互い背を向けて寝ることで落ち着いた。「はぁ、何やってんだろな」 看病するつもりで来たはずなのに、まさか自分も発熱すると思っていなかった黒尾がぼやく。一人暮らしで体調を崩すと心細く、必要なものがあっても買いに行くことすら出来なかったりするので、心配してデートを切り上げて来たはずなのに。 でもデートの最中も早く帰りたいって思ったのは既にウィルスをどこかからもらってきていたからだろうと、すとんと胸に落ちるものがあった。「こっちの台詞ですよ。今ので熱が上がった気がするし」「悪いな。俺がいたら彼氏呼べないだろ」 単なる先輩兼友人でも、男と同衾している所を見られる訳にはいかない。黒尾が帰れたらいいのだろうが、泥にはまったように体が重く、縫い付けられたようにベッドから動けない。「それは別に、いいですケド」 今日のドタキャンの理由を、月島も彼氏から聞いていない。今日は有休で、水曜日は月島も休みで昼から会えるからとデートの約束をした。その時からずっと、たぶんドタキャンしてくるなと月島は思っていたので、家を出る時間になって連絡が来たときもやっぱりな、としか感じなかった。 今の彼氏はノンケだ。女の子が好きで、今回付き合うことになったのは元カノに呆れたからでしかない。彼女の家に置いたままになっていた荷物を取りに来た時にたまたま月島がいて、月島がいるのに自分を見て目の色を変えた元カノに眉を潜めた彼氏が「邪魔してごめんな」と月島に、自分はその気がないのだと訴えるように謝った。月島は彼女のことを何とも想っていなかったのでそう伝えたところ、彼氏が「しつこく付きまとわれて困っている」と、こぼしたのだ。 それがきっかけで、彼氏の荷物をどこに仕舞ったか忘れたととぼけ、少しでも長引かせようと探している振りをしている彼女の影に隠れてこっそり連絡先を交換した。そして月島が言ったのだ。「しばらくホモだって言われるかもしれませんけど、一泡吹かせて縁を切りませんか?」 そうやって彼は、月島の彼氏になったのだ。 言わば期間限定の偽装彼氏だ。月島がゲイよりのバイだと聞いても「そうなんだ」の一言だけで、向こうは何とも想ってなかっただろうに月島からの好意に絆されたのかキスはしていたし、セックスも一度だけだがしてくれた。男同士ではセックスをしないカップルもいるからいいと言ったのだが、そこは彼氏の好奇心が勝ったらしく、一度だけホテルへ行った。 体の相性は悪くなかったけれど、それ以降仕事を理由に会う機会が減り、月島もバカではないので終わりだと悟った。今日はもし会えたら別れ話をして解放してあげようと思っていたのだが、もうその必要はないかもしれない。結局家から出る前に予定がなくなり、せっかくだから買い物でも行こうかと玄関で靴に片脚を突っ込んだ時、頭が重く、ふらついていることに気付いた。 今日黒尾もデートだというのは知っていた。黒尾とはなぜか毎週のように会っている。月島がデートだと言ったら「俺もたまには付き合うか」と彼女に返信をしていた。彼女のことを暇潰しに使う黒尾は、おそらくもう好きではないのだろう。月島の恋愛事情に興味を示して話を強請り親身になって考えアドバイスをくれるくせに、黒尾は自身の恋愛に無頓着だ。 長く続いた彼女もいたし経験もそれなりにあるけれど、最近は一歩引いたところにいて恋愛に積極的ではない。告白され嫌いでなければ付き合い、ヤることはヤっているので月島に身体目的と言われているのだ。月島も恋人がいるのにセフレがいる時があるので、人の事を言えないけれど。「最初から呼ぶつもりはなかったんで」 だから月島も「熱っぽくて動けない」と黒尾を頼ったのだ。「なに、上手くいってねぇの?」「そっちと似た状態ですね」 立場は逆でも、恋人との関係は似ている。具体的な話を聞いていなくてもお互いの恋人に対する態度や言葉尻から察することが出来るくらいには、二人は近い。月島の返答に「ぶふっ」と噎せるように笑った黒尾はそのまま咳き込んだ。「……黒尾さん、元気なら帰ったらどう?」「ゴホッ、あー……、今ので体力使ったから無理」「バカじゃないの?」 抱腹することなど何一つ言っていないのにこの有様なのは、熱のせいで沸点が低くなっているからかもしれない。「別れんの?」「たぶん。向こうはこのまま自然消滅狙ってると思うんで」「俺と一緒か」「耳が痛い話デショ」 正確には、黒尾は自然消滅というより振られたがっているようなもので、「このまま飽きてくれねぇかな」が本音に近い。自分から振ってもいいが、過去に縋り付かれて別れ話が縺れたことがあり、それ以降は別れる方向に誘導しつつ円満に振ってもらうことにしている。「で、お前はじっと待ってんの?」 それは月島らしくない気がした。曖昧な関係をだらだら続ける黒尾と異なり、月島ははっきりしている。付き合う時も別れる時も、黒尾が見ていて清々しいほどに潔い。 例の彼女を振った時の「僕も彼が好きになっちゃったんだ。ごめんね、紹介してくれてありがとう」という台詞には腹を抱えて涙を流した。そんな月島が、ただ振られるのを待つとは思えなかったのだ。「別に、連絡先消せば終わることだから」 けれど月島は予想に反して、それ以上のことをしないらしい。今の彼氏は付き合って四ヶ月。その間二週間に一回程度のデートでキスは何度もしたし、セックスも一度した。だが、二人の間にある恋人らしいやりとりはそれだけで、頻繁に連絡を取り合うのでもなければ、互いの家に行ったこともない。 元カノと別れる際、より面白くなるから。 不純な動機で付き合い始めたが、彼氏は人間として尊敬できると月島は思っている。真面目で誠実で、営業職だからか話術も巧みだし、人の話を引きだすのもうまい。そして、こんな月島の提案ににやりと笑って乗るような、話が分かる一面もある。そんな人の注目を集める人だからこそ周りの人間には困ることがなく、月島でなくても他にいくらでもいい人はいる。 元々がノンケで女の子が好きな人なので、元カノを突き落として縁を切るためだけに四ヶ月も拘束したのは申し訳ないと思うので、「今までありがとう。面白かったよ」と別れ話をするつもりだった。それを察知したのか肝心なところで逃げ出す弱さがあるから、あの人はあんな女に好かれ、付け込まれるのだろうと月島は分析している。面倒なことになりそうだな、と思うような出来事に遭遇した時、その人の人柄が見えるものだ。「それ、甘くねぇか?」「そんなことないと思うケド」 月島の考えをそこまで知らない黒尾は、ただ単に月島が女の子より男が好きだからだと思っている。だから女の子には手厳しい別れ方をし、男には甘いのだろう、と。 それも半分正解だ。実際、月島は男には甘い。恋愛中心になるようなどうしようもない女ばかり選ぶくせに、男はきちんと男同士の付き合い方を分かっている誠実なタイプと付き合っているところからも窺える。軽い興味本位の奴と付き合うのは骨が折れるという事情もあるけれど、マイノリティを自覚している者同士、言い表せない仲間意識があるせいかもしれない。「向こうはノンケだしね」 ゲイかノンケかバイか。そのあたりも重要になってくるのだけれど、ノンケの黒尾に言ったって分からないことなので月島は深く話さないし、黒尾も聞かない。 ふーん、とどこか腑に落ちないような相槌が真後ろから聞こえた。狭いベッドの中、ぴたりとくっついた背中は熱い。下らないことばかり話していないでさっさと寝るべきだと分かっているのに、生温い微睡みの中で口だけが絶えず動いている。「ややこしいことは分かんねぇけど、お前が別れたら今日のパンケーキ奢ってやるよ」「じゃあ来週の水曜日ね」「早ぇな、おい」 まぁいいけどな、と安請け合いする黒尾ももうすっかり彼女を別れた気でいるのが滑稽で、月島も妙におかしくなって笑ってしまう。連絡先をひとつ消してフェードアウトするだけの月島と異なり、黒尾の彼女は同じゼミなので苦労もあるだろう。せめてソフトに別れられたらいいが、黒尾はいつでも平手打ちの覚悟をしている。今までされたことはないが、いつ女の子に手を上げられてもおかしくないことをしている自覚はあった。 恋愛事情は異なるが案外自分達は似た者同士だな、と思いながら、くつくつとした笑い声が収まり、今度こそ口を閉じて目を閉じる。でも、だからといって体調を崩すタイミングまで同じでなくてもいいのに。二人共本当なら今日はデートをして、恋人と楽しい時間を過ごして、ホテルに行って愛を囁き合う予定だった。それがどちらも別れの直前で、デートも上手くいかずに何故か月島の家で一緒になって寝込んでいる。どんな縁だ、と呆れつつ感心した。「なぁ」 寝たと思った黒尾が、月島を呼ぶ。「この状態って、もしかして俺、貞操の危機?」 何かと思えば下らなさすぎて、月島は笑いすら出なかった。「安心して。僕にだって選ぶ権利はあるから」 いくら同衾しているからと言って高熱の状態でそんな気分になるはずがない。黒尾だってそれぐらい分かるだろうにわざわざ言うあたり、今になってこの状態がむず痒くなったのだろう。ただでさえ熱に魘されているのに、そこに場違いな空気を織り交ぜられたら吐き気もしそうだ。「んじゃ安心して寝られるな。あ、寝てて気持ち悪くなったら言えよ」 はぁ、とわざとらしく安堵し、黒尾は「おやすみ」と続けた。変なことを言ったのを誤魔化すためか、最初から畏まらずに自然とこれを言うためにわざわざ軽口を叩いたのかは分からないが、黒尾のこういった一面を月島は好ましく捉えている。 十分気遣いが出来る男なのに、なぜ彼女を大事にしてやらないのか理解に苦しむ。 これで黒尾がノンケじゃなかったら今ので惚れていたかもしれない。半ば本気で思うくらい月島がうっかり黒尾の好感度を上げてしまったのは、心身ともに弱り切っているからだろう。 はぁ。少しでも頭を冷やせと自嘲するように溜め息を吐いて、月島も返した。「……黒尾さんもね。おやすみ」 どちらにせよ、一人で夜を過ごすより安心できるし、同じ怠さの中でも気分は楽になった気がして、月島は小さな感謝を言葉に込めた。 翌朝、熱は昨夜と変らず二人揃ってマスクをして仲良く病院へ行った。診察は「風邪ですね」の一言で終わり、処方箋を出してもらってドラッグストアに行ったついでに買い物をした。結局昨日買いに行けなかった月島ご所望のストロベリーのヨーグルトにプリン、アイスクリームや簡易雑炊のもと、清涼飲料水を買い込んだのはいいけれど、どちらも本調子でないのでレジ袋が重く、足取りはふらふらで家に着くまで普段の倍の時間が掛かった。「やばい、二リットル重い」「だからネットで買えば、って言ったのに」「いつ届くか分からねぇだろ」「そんな元気があるなら帰ればいいデショ」「明日熱下がってたら帰るわ」 頭痛はひどいし吐き気もする。会話をするのも億劫だけれど黙って帰るより気分は晴れるので、下らない言い合いを続けた。信号待ちをしていると、黒尾が「あ」と声を上げた。「どうしたの?」 神妙な顔でスマートホンを取り出した黒尾はメッセージを確認してすぐ電源を落とし、スウェットのポケットに入れた。「彼女。『別れよう』ってさ」「へぇ、オメデトウゴザイマス」「アリガトウゴザイマス」 普通は慰める場面だが、黒尾相手にそんなことは不要だ。棒読みで祝えば、同じ調子で返ってくる。本当にどうしようもないな。少し逡巡してから、月島もスマートホンを取り出しメッセージを送った。本当は送る気なんてなかったけれど、すっきりした顔の黒尾を見ていると自分から動くのもたまにはいいかな、と思った。「彼氏?」「うん。『ありがとう』って送っておいた」 文面こそ違えども、黒尾の彼女と心境は同じだ。これに黒尾は「お疲れ様デス」と一言労い、月島は何も返さなかった。「次は男にすんの? それとも女?」 黒尾はナイーブな話題でも気にせず踏み込んでくる。「普通そういうこと聞かないと思うんだけど」と心の中でつっこむが、そもそも黒尾に普通を求めることが間違っていると思い直した。「さぁ。しばらく作るつもりはないけど、男かな。色々と面倒だから、ゲイの人がいい」 男に対する抵抗を失くさせ、少しずつ距離を縮めてキスをして、そこからじっくり時間をかけてセックスに持ち込む。そんな恋愛も楽しいけれど、しばらくご無沙汰なので面倒な過程を飛ばして付き合えるゲイがいいと思った。彼氏を作るには時間が掛かるので、それまでは掲示板で一晩限りの相手を見つけてもいい。 短い振動が返信を告げ、早速開けば端的に一言「わかった」だけだった。この四ヶ月、色々あったわりに呆気ないものだが、元々月島にとってはそんな存在だった。「黒尾さん、来週パンケーキね」 その一言で全てを悟った黒尾は「俺のサンマの塩焼きはどうなるんだ」と不満気味だ。黒尾が振られたら責任をとって奢ると言ったのは月島だと、昨日の話を引っ張り出す。 風邪を引いた男が二人、病院は近所だからとスウェット姿にマスクをして、大して重くもない荷物に苦労しながら覚束ない足取りで歩いている姿は情けないものがある。二人共まだゴホゴホと咳き込んでいるし、熱の篭った頭はぼんやりしている。けれど、余分なものが消えてなくなり体はどこか軽く、吐き気はあるが不思議と気分はいい。「じゃあ、サンマは再来週で」 しばらく水曜日はあてもなくだらだらと過ごすのもいいかもしれない。そのためにも早く治さないと、と二人はまた狭いベッドに寄り添った。