力士の一日は稽古から始まる
昔、とある相撲部屋の稽古を見学したことがあります。
怒号が飛び交うなかでの、手と足と口と物を使ったかわいがりは子供だった僕にはけっこうなカルチャーショックでした。
関東へ引っ越して、最近また相撲部屋へ稽古見学に行ったのですが、蹴たぐり回して棒でぶったたいて横っ面張り飛ばすような昔さながらのかわいがりはもう見られませんでした。
しかし、そうは言っても相撲の稽古、めちゃくちゃにハードでした。「もう無理」ってとこからが本当の稽古って感じです。
力士の筋肉と体脂肪率については以前このブログで書いたのですが、そうした強靭な肉体を手に入れるための苦労はやはり並大抵ではないようです。
自分の知る限り、どこの相撲部屋でも稽古は早朝からです。
股割り、四股、てっぽう、申し合い、三番稽古、そしてぶつかり稽古。
それぞれの稽古について、見学に行ったときのことを思い出しながら書いてみます。
股割り
股割りは痛そう…。
自分はできないのでどうしてもそういうふうに見てしまいますね。
相撲界に入ったばかりの新弟子たちが怪我を少なくするためにまず出来るようにならなくてはいけないものが股割りだと言われています。ようは開脚ですね。
相撲は腰(一般的な腰とはちょっと意味が異なる)が大事と言われますが、その腰を割るために股割りは必要なのです。
腰を入れて、腰を据えて、腰で相撲が取れるようになることが相撲取りの最初の壁なんですね。
単に腰を低くすることが腰を割ることだと思っている人もいますが、これもちょっと違うらしい。股割りによって股関節が開き、そのうえに腰がのるイメージかなあ。
股割りは、素人が見様見真似でやるのは危険です。ちゃんと指導を受けましょう。
四股(しこ)
四股は力士の基本であり、とても重要な稽古のひとつです。また、土俵を清めるための動作でもあります。
はるか昔は醜(しこ)と読んだらしいです。”醜”は強く恐ろしいものへの畏怖の念も込められた言葉なのです。
四股の動作
体を温める意味で、早朝一番、まずは四股を踏んでから稽古スタートという部屋が多いようです。
1.足を肩幅より大きく開いた状態で膝を曲げて腰を落とします。
2.片足に重心を乗せて、もう片方の足をゆっくり上げていきます(勢いをつけずに足をあげる)。
3.片足が上がった状態で1~2秒静止。そのまま地面に勢いよくたたき落とします。
今度はもう片方の足に重心を移して同様の動作をします。
この動作を何十回、何百回と繰り返すのが「四股を踏む」稽古です。
上記は基本です。
四股は大変奥の深いものらしく、力士によっても微妙にやり方が違います。最も効果的に足腰を鍛える「四股」が力士それぞれにあるのでしょう。
※たまーにテレビで芸能人の方が四股のマネをしているのを見ますが、あれは全然ちゃいますw
四股踏みでダイエット?
また、四股はお尻の筋肉やハムストリングに効果が期待できるので、ダイエット、美容のために取り入れている方もいらっしゃいます。
腰を浮かせず、ゆっくりとやることが鍛えるポイント。現代風に言うならばスロートレーニングですね。
しかし、普段あまり体を動かしていない人がいきなりやると足や腰がつるかもしれません。
とくに、上げた足をまっすぐの状態で静止させるやり方を真似するのは至難の業!(股割りができないとこれは無理かも?)
確かにまっすぐに高々と足をあげた四股は見ていて美しいですが、トレーニングとして用いるならば動画のように無理せずに足をあげるほうが良いと思いますね。
一般の人だと50回もできればたいしたもんだと思います。ある程度慣れると100回以上でも踏めるみたいですね(僕は20回もやると足腰がパンパンになってしまう)
四股1000回踏みなさい、なんちゅう本もあったけど、モノホンの四股を1000回踏める人が果たしてどのくらいいるのかね…。
てっぽう
伝統的な相撲の稽古のひとつがてっぽうです。
相撲部屋の稽古場には、どこでも鉄砲柱があります。その鉄砲柱に体重をのせつつ両手で交互に柱を叩く動作ですね。
肩甲骨を緩めて、効果的に使えるようにするための運動だそうです。
一見とても簡単そうだし、楽に見えるので自分も習ってやってみたのですが、正しいてっぽうをしようとすると凄く難しいです。
手だけではなく体全体を前にもっていき、リズミカルに叩くのが正しいやり方なのですが、すぐバラバラになっちゃいます。
一般人が体重をかけた“重い”てっぽうをやろうとすると、かなり疲れます。
力士の重たいテッポウは威力が凄い。
そのため、以前は名古屋場所や福岡場所の通路では「テッポウ厳禁」の文字を目にすることがありました。今もあるのかなあ。
申し合い
土俵はひとつなので、土俵上で稽古ができる力士は自然二人ということになります。
それ以外の力士は土俵の外で、上述の四股、てっぽう、すり足などを行ったり、土俵上の力士の動きを見て勉強したりします。
申し合いは、言わば実践です。
土俵で勝負した二人の力士のうち負けたほうは土俵の外へ出ます。そして土俵外で見ていた力士が勝った力士に指名を受けるために挙手します。勝ち抜き戦みたいな感じですね。
また、親方が対戦相手を指名する場合もあるようです。
三番稽古
こちらも実践。
二人の力士が納得いくまで土俵上で相撲を取り続けるものです。苦手力士克服のために、その本人に相手をお願いすることなども三番稽古の特徴と言えます。
申し合いと混ぜ合わせて三番稽古する部屋もあるみたいです。
ぶつかり稽古
見ているほうが辛くなるような「これぞ相撲の稽古」と呼べる、鬼ほどハードな稽古がぶつかり稽古。
かわいがりも、主にこのぶつかり稽古のときに行われます。
いっぽうが前傾姿勢になって胸を貸し、もういっぽうは胸を出している相手を土俵の外へ押し出すために突進します。
当然、胸を貸す力士もそうやすやすとは土俵を割ってくれません。押しきれないと、土俵に転がされてまたやり直し。
そうしていくうちに少しずつ消耗してやがては息も絶え絶え、体は砂で真っ黒になり、髷はぐちゃぐちゃ。土俵に転がされてから起き上がるのにも時間を要するようになります。
それでも押し出すまではぶつかり稽古は終わりません。親方から檄が飛び、先輩力士から叱咤されます。
初めて見る人はびっくりするかもしれませんが、錣山親方(元 寺尾関)が現役の頃はこんなものではなかったはず。
まとめ
稽古中は四股を踏む音や土俵に倒れる音が響き、荒い息遣いと怒声がときどき聞こえるほかは本当に黙々と稽古に励んでいましたね。
僕が見学させてもらった部屋は、そんな稽古が昼前くらいまで続きました。本当にストイックだなあという印象です。
また、力士の回復の速さも目を見張るものがあります。
さっきまで朦朧としてゾンビ(失礼)のようになっていたのに、稽古が終わりしばらくすると呼吸が整い、やがて笑顔が見られるまで回復します。さすが。
そして風呂に入ってちゃんこを食べて昼寝zzz (昼寝はちょっとうらやましいw)
夕方からは自主トレを行ったりする力士も多いみたいです。ウェイトトレーニングで筋力強化や足腰の鍛錬などをするようですね。
己の身一つで立ち回る力士、やはりそのトレーニングは生半可なものではありませんでした。※稽古の見学は、部屋に連絡を入れると詳細を教えてくれると思います。