発表資料:2007年11月15日
人の肌色を決めるメラニン色素の生成メカニズムに新たな知見
独自に作製したキメラ皮膚(再構成皮膚)を活用し
メラニンを直接作らない角化細胞にも肌色への寄与があることを発見


 花王株式会社(社長・尾崎元規)生物科学研究所は、シンシナティ大学およびシンシナティ子供病院との共同研究において、人種や個人差による肌色の違いを決める新たな因子を見い出しました。これは、既に知られている因子であるメラニン(黒褐色の色素)を作り出す細胞(メラノサイト)だけでなく、メラニンを直接は作らない角化細胞にも、肌色への寄与があることを初めて見い出したもので、本成果は、国際的な実験生物学誌である『FASEB(Federation of American Societies for Experimental Biology)ジャーナル』9月号に掲載されました。

 本研究は、皮膚の色がどのように決定されるのかという皮膚の本質的な成り立ちに迫るもので、特に、皮膚を構成するどの細胞が皮膚色の決定に寄与しているかという点に着眼し、異なる肌色の皮膚から単離した細胞を混ぜて皮膚を再構成させる「キメラ皮膚(再構成皮膚)」の技術を導入したことにより、これまで明らかにされていなかった角化細胞の肌色への寄与を見い出した点*が、高く評価されています。

*1 メラニンを直接作らない角化細胞にも肌色を変える能力があり、褐色肌(黒人)の角化細胞には、肌色をより黒くする機能があるという点です。つまり、褐色肌のメラノサイト(メラニン色素産生細胞)を褐色肌の角化細胞と組み合わせたキメラ皮膚は、褐色肌のメラノサイトを白色肌(白人)の角化細胞と組み合わせた時よりも、メラニン産生量が多いことが認められました。

 今回、明らかとなった角化細胞の肌色決定に寄与する機能は、角化細胞をターゲットとした肌色制御の可能性を示唆するものです。これは、角化細胞が皮膚の最外層にあり、よりアプローチが容易なためで、このことから、肌色を変えることで見た目の若さ、美しさの実現をめざす「美白」や「セルフタンニング」といった商品への応用が期待されます。


■研究背景
 皮膚は、外界と触れ合う表皮とその下にある真皮から成ります。皮膚の色の素となるメラニンは、表皮の最も下の部分にあたる層(基底層)に点在するメラノサイトで産生され、表皮を構成する角化細胞へと受け渡されることにより、肌色や毛色が形成されることが知られています。(図1「肌色の形成メカニズム」参照)

 日焼けなどの紫外線の刺激を受けていない状態での肌色(生来の肌色)の違いは、メラノサイトが本来持つメラニンを作り出す能力(メラニン産生能)の違いによるといわれています。つまり、皮膚の肌色は、メラノサイトのメラニン産生能が高く、メラニン産生量が多いと褐色に見え、メラニン産生量が少ないと白く見えます。一方、表皮の大部分を構成する角化細胞の肌色への関与については、ほとんど明らかにされていませんでした。

 こうした状況において、花王は、継続した紫外線への暴露と皮膚の老化が原因で生じるシミの発生メカニズムの解明*を通して、角化細胞がメラノサイトに多大な影響力を持つことを再認識し、紫外線を浴びていない時でも角化細胞が皮膚の本来の色の形成に何らかの役割を果たしていると推察しました。

*2 紫外線を浴びた時に角化細胞から分泌されるエンドセリン、SCF(Stem Cell Factor)というふたつのサイトカイン(情報伝達物質)が、メラノサイトを活性化させて、メラニン合成を促進し、メラニン沈着を引き起こすことに深く関与していることを見い出しました。


■花王のアプローチと成果
※詳細を図2にまとめました。

1.生来、肌色の異なる人のメラノサイトと角化細胞を一つの皮膚に再構成するキメラ皮膚の作製に成功

 従来行なわれてきた皮膚組織を用いた解析では、メラノサイトの違いを除くことができないことが、肌色に関する角化細胞の研究を難しいものとしてきました。そこで花王は、表皮を構成する細胞であるメラノサイトと角化細胞について、肌色の同じ人のメラノサイトと、肌色の異なる人の角化細胞を組み合わせたキメラ皮膚を作製*することで、それぞれの細胞の皮膚色への寄与を明らかにすることができました。

*3 褐色肌のメラノサイトと褐色肌の角化細胞を 褐色肌のメラノサイトと白色肌の角化細胞をそれぞれ組み合わせました。

 今回、作製したキメラ皮膚で角化細胞の皮膚色への影響を調べたところ、褐色肌のメラノサイトと褐色肌の角化細胞との組み合わせは、褐色肌のメラノサイトと白色肌の角化細胞とを組み合わせた時よりも、表皮のメラニン量が多いことが認められました。つまり、褐色肌の角化細胞には、肌色をより黒くする作用があることが明らかとなりました。(図2参照)
 
 通常、このような異なる人から単離した細胞の組み換えは、細胞移植時の免疫反応で拒絶されて作製できませんが、免疫不全マウス背部に人工皮膚を作るという手法を用いることにより、複数の人由来の細胞から成り、かつ生体と同等の機能(例えば、紫外線を当てると色素沈着するなど)を持つ皮膚の作製に成功しました。
 この新たな研究手法の開発によって、各細胞同士の相互作用を調べることが可能となり、今後、シミの原因因子を探るといった皮膚研究への応用が期待されます。


2.メラニンを直接は作らない角化細胞にも肌色への寄与があることを新たに発見

 今回の実験手法と結果は以下の通りです。(図2「角化細胞の肌色への寄与」参照)
 褐色肌の皮膚、白色肌の皮膚からそれぞれ角化細胞を培養し、褐色肌の皮膚から培養したメラノサイトと混合したものを、真皮を構成する細胞である線維芽細胞とともに、免疫不全マウスの背部に固定したチャンバーの中に滴下します。滴下された細胞は次第に角化細胞は角化細胞同士、線維芽細胞は線維芽細胞同士で集まり、それぞれが表皮及び真皮の形をつくり、皮膚構造ができあがります。この時、メラノサイトは、正常な皮膚に見受けられるように表皮基底層に自然に位置していきます。この再構成皮膚は、紫外線を当てると色素沈着を形成するという正常皮膚と同じ特性を持ちます。このようにして、(1)角化細胞もメラノサイトも褐色肌由来、(2)角化細胞は白色肌由来でメラノサイトは褐色肌由来という2種類のキメラ皮膚ができあがります。

 このキメラ皮膚は、メラノサイトは同一であるにも関わらず、皮膚のメラニン量は異なり、褐色肌由来の角化細胞で作られた皮膚がより黒くなります。すなわち褐色肌由来の角化細胞には肌色をより黒くする作用があり、白色肌由来の角化細胞には肌色をより明るくする作用があることが明らかとなりました。(図2参照)
 さらに詳細な解析を行なったところ、褐色肌由来の角化細胞にはメラノサイトのメラニン合成を活性化する作用があり、メラノサイト自体の数を変えることなくメラニン合成を促進していることが明らかとなりました。


■今後の展開
 生来の肌色は居住地域によって、また、男性と女性との間でも異なることが知られています。今回発見した角化細胞からのメラニン合成制御は、このような肌色のバリエーションを生み出すシステムのひとつであると考えられます。本知見をもとに、肌色を変えることで見た目の若さ、美しさの実現をめざす「美白」や「セルフタンニング」といった商品への応用が期待されます。

<図1.肌色の形成メカニズム>


<図2.角化細胞の肌色への寄与>



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花王株式会社 広報部
電話 03-3660-7041~7042

※社外への発表資料を原文のまま掲載しています。