さて、話を戻しましょう。
流血が始まったその数時間後、個人病院に行った。小さな病院の受付は待合室の一画にあり、私のフルネームを何度も読み上げる受付のおばさんの声が響く。看護士が患者を呼ぶ時も同じ。番号札を渡すなどして、もうチョッとプライベートを考慮してもらいたいもんだ。
内診中にまた血が沢山出るといけないと思い、診察の直前にトイレに行った。出血量はかなりあった。尿を取る必要があるなんて全く考えなかった。でも、妊娠を確認するために尿検査すると言われ、水を飲んでしばらく待つ羽目になった。
妊娠が確認されると、まず診察室の一画で問診。そこはドアが開けっ放しで、カーテンで一応目隠しはされているものの、待合室から丸見え、聞こうと思えば話も筒抜け。
「それじゃ、上に上がって」 とドクターに言われた。
「え?上って?」
と私が言うと、
「隣の部屋のベットへ」 だって。
常連患者ならまだしも、初めて来院した私にそんな表現で指示されても分かるわけがない。何だこの医者?一気に不信感が募った。
隣の部屋と言っても、大きな一つの部屋を間仕切壁で区切っただけの診察室。入って手前が患者の通路、真ん中に間仕切壁で仕切られているだけの問診室、内診室、事務所が、その奥はスタッフの通路。ようするにプライベートが一切ない。
こんな最悪の環境だが、日本の産婦人科で一つだけ良いのは、簡単にエコー検査をしてくれる事だ。アメリカではそう簡単にはしてくれない。
この時も、すぐに内診用のエコーで検査。モニターを見ながらドクターがカーテン越しになにやら説明。
流産、そして手術の説明
「流産しかかってますね」
慰めのつもりだろうか?これだけ大量に出血してるんだから、流産間違いないでしょ。内診が終わると、また問診室に移動。子宮内から取り出した血の塊を見せられた。広げてみると、10cm×5cm位の膜のようなものだった。
「これだけの物が出てくると言う事は、もう流産ですね、残念ですが…」
言われなくても分かっていたので、別にどうって事はない。するとドクターは、流産の手術(掻爬(そうは)手術)をすると言い出した。
「あの~、完全に中の物が出てしまえば手術は必要ないって聞いたんですけど」
しかしドクターは、子宮内を掃除する為にも手術は絶対に必要という。この時点でも、なんだかこの年寄りドクターの古い考え方が垣間見えた。しかも手術は局部麻酔だと言う。同様の手術を受けた友人から、その手術がかなり痛かったと言う話を聞いていたので、私は全身麻酔でやるように頼んだ。ドクターは「普通はあまりやらないんだけど」と言いいながら、渋々だが了解した。
手術の日
初診日は抗生物質を出され、手術は翌日行われた。血圧も体重も体温も測らない。アメリカではありえない。手術台に乗ると、点滴が始まった。そして、麻酔薬が注入されるのと同時にドクターが入ってきた。
「出血はどうでしたかー?」
麻酔を入れたはずなのに、ドクターの質問が聞こえる。そして答えている私。
おかしい…全身麻酔なら普通5秒後には意識がなくなっているはずなのに。そして手術が始まった。どのくらいの間か分からないが、一瞬意識が無かった時間があった。が、気が付くと、子宮内を掻き回されている痛みでうなされている自分が居た。なんて恐ろしいんだろう。私は痛い事を訴えるために、わざとうめき声を高くしたが、そのまま手術は続けられた。たぶんトータルで10~15分位だっただろう。
手術後
術後、看護士から「全身麻酔でも完全に寝てしまう人と、そうでない人が居る」と聞かされた。普通全身麻酔は完全に眠らせるのが目的でしょうが。なんて無責任な。私はこれが日本の医療の実体かと思うと心の底から怖くなったし、こんな国から脱出できて本当に良かったとさえ思った。
看護士に抱えられて、別室のベットに寝かされた。自分で車を運転して帰らなければならなかったため、数時間休ませてもらう事になったのだが、ショックを受けた私はその後一睡も出来なかった。朝から何も食べていないため、お腹が空いただろうと看護士が持ってきてくれたお菓子とお茶が有難かった。
帰り支度をする際に、膣内に入れられてあったガーゼを取り出した。かなり長い物でびっくりした。ふんどしのような物も巻かれていた。その後は自宅まで問題なく運転して帰り、その日は1日中安静にしていた。働いている女性は、翌日から仕事に復帰する人がほとんどだと言う。
翌日。体調不良は全く感じられず、普通の生活に戻れたが、まだ無理をしない方がいいのかと思ってあまり動き回らないようにした。
手術から2日後の検診。内診はエコーで子宮内をチェック。もう何も残っておらず、きれいになった事を確認。その後海外保険の書類などに記入してもらう際、世間話をしながら日本の医療はアメリカより一昔も遅れている事をドクターが認めた。いや、このドクターの場合、遅れはそれ以上かもしれない。これから医者を目指す若い人達には、是非アメリカで修行をしてきてもらいたいもんだ。
産婦人科 日本とアメリカの違い
日本は個人病院しか行った事無いけど、どこも内診を受けている間、プライベートを考慮してカーテンなど引かれて医者と顔を合わさないようにされているが、あまり意味があるとは思えない。それに、それ以外は筒抜け。部屋は個室ではなく、ただ間仕切り壁があるだけで、通路はつながっている。そこへ順番待ちのほかの患者さんも居れば、看護士が数人行ったり来たりもしているわけだ。
アメリカの産婦人科はそんなんじゃない。個室に通されると、ドクターが入ってくる。内診をする時はカーテンなどなく、足を乗せる部分が出し入れできるようになっている同室のベットが、内診台に早代わり。下半身に着用しているものは靴下以外全て脱ぐのだが、その下半身を覆うためのシーツ(紙製の使い捨てや布製の物がある)を出してくれ、脱衣の間ドクターは外に出ている。そして、ベットに寝て、シーツで体を覆ってドクターを待つ。ドクターが男性の場合、内診をする時は必ず女性の看護士が付き添う。内診中は、ドクターの顔や何をしているかが見える方が安心できる。
このようにアメリカでは完全に個室で作業が行われるため、他の患者さんに話が筒抜け、なんて事は絶対に無いし、自分のお股を何人もの看護士にさらけ出すような事にもならない。