腹膜炎とは、何らかの原因により腹膜に炎症が起こる疾患です。大きく急性腹膜炎慢性腹膜炎に分類でき、急性では、突然の激しい腹痛が起こります。慢性では、痛みが出たり消えたりといった症状が現れる点が特徴です。また、重症の急性腹膜炎を24時間以上放置してしまった場合、命にかかわることもあります。

今回は、横浜市立大学附属病院消化器・腫瘍外科の秋山浩利先生に、腹膜炎の原因から症状、腹膜炎になりやすい方など、腹膜炎の概要についてお話をうかがいました。

腹膜とは

腹膜とは、腹部の臓器(肝臓・胃・小腸など)の外側及び、腹壁、横隔膜、骨盤底などを覆っている膜です。腹膜の表面には漿膜(しょうまく)というすべすべした少し湿り気のある膜があります。

人体の断面

上のイラストの、黒い部分が腹腔というお腹のなかの空洞部分で、黄色の部分が腹膜です。

腹膜の役割

胃や小腸は蠕動(ぜんどう)*するため、固定されていると動くことができません。そこで、腹膜が腹腔という空間を作り、自由に動けるようになっています。また、腹膜は、新陳代謝として、常に体液の吸収と分泌を行っています。

蠕動(ぜんどう)…消化管壁内の筋肉の収縮によってできた動きが、徐々に伝播していく運動。

腹膜炎とは? 腹膜炎の分類

腹膜炎とは腹膜に炎症が起きる疾患です。

腹膜炎の分類

腹膜炎は大きく、急性腹膜炎と慢性腹膜炎に分類されます、そして、下の図のように、それぞれに限局性と汎発性が存在します。

腹膜炎の分類

急性腹膜炎と慢性腹膜炎

急性腹膜炎は、炎症や痛みといった症状が急激に発症します。一方、悪化したり症状が緩和したりと長期間慢性的に繰り返すものが慢性腹膜炎です。腹膜炎を発症する患者さんの、約95%が急激な腹痛を訴えてこられる急性腹膜炎です。

限局性腹膜炎と汎発性腹膜炎

限局性腹膜炎は、腹膜の一部にだけ炎症があるものです。腹膜全体に炎症が広がったものを汎発性腹膜炎といいます。

腹膜炎の症状

腹膜炎の症状は、急性腹膜炎、慢性腹膜炎ともに、腹部の痛みが中心です。

急性腹膜炎の症状

急性腹膜炎の場合、急激な腹痛に襲われ、我慢をしても治りません。患者さんのなかには、未だかつてないほどの痛みがあると表現する方もいます。痛みで歩けない、また、腹部をたるませないとつらいため、前かがみになります。また、腹痛の他には、発熱などの症状もあります。

慢性腹膜炎の症状

慢性腹膜炎の場合は、急激な腹痛に襲われることはありません。2~3か月程度の間、微熱があり、軽症から中程度の腹痛が出たり、症状が収まったりを繰り返します。

限局性よりも汎発性のほうが、痛みが強い

汎発性腹膜炎は、腹腔全体に炎症が広がっていることから限局性腹膜炎よりも痛みが強い傾向にあります。そして、人間の防御機構としてお腹を守ろうと強い力が入るため、お腹が板のように硬くなります。これを板状硬(ばんじょうこう)といいます。

また医師が診察する際に、腹部に触れただけで出現する激しい痛みを無意識に筋肉で守ろうとします。これを筋性防御(きんせいぼうぎょ)といいます。発熱や、痛みからの嘔吐などが見られるケースもあります。

高齢者は痛みが症状に比べ少ないことも

高齢者が腹膜炎を発症した場合、症状が進行していたとしていても、痛みが少ないというケースもあります。たとえば、寝たきりの高齢者が腹痛を訴えていたが、そこまで痛がる様子はなかったため放置した結果、重症化してしまうこともあります。高齢者は痛みへの感覚が鈍くなっていることで、そこまで強い痛みを訴えないことが考えられます。

腹膜炎のメカニズム

腹膜炎を発症するメカニズムは、腹膜そのものが炎症を起こす場合と、腹腔内の臓器が炎症を起こし腹膜にまで炎症が及ぶ場合の、大きく2種類にわけることができます。また、腹膜炎の原因となる疾患は多岐に渡ります。

腹膜自体が炎症を起こす場合

腹膜炎を起こす原因の7、8割は、消化管穿孔(せんこう)です。消化管穿孔とは、胃、十二指腸、小腸、大腸といった消化管に穴があき、胃液や腸液、大腸内の便が、腹腔内に漏れることを指します。たとえば、胃潰瘍が悪化した結果、胃が穿孔するといったケースがあります。

そして、消化管の内容物が腹膜を刺激するため、腹膜に炎症が起こります。この現象が、消化管穿孔により腹膜炎を発症する最初の原因です。

腹腔内は無菌のため、消化液や便のなかに入っている細菌であるバクテリアが次々と増殖します。腹膜炎の吸収作用によってバクテリアが血管のなかに入り込み、エンドトキシン*を分泌します。そして、人間の体はそれに抵抗するために、白血球から大量のサイトカイン*を放出します。サイトカインは感染から体を守ろうとするはたらきがありますが、一方で血圧の低下、毛細血管の血液凝固などの副作用も持っています。この副作用により十分に体に血液が行き渡らなくなってしまい、その結果、敗血症(血液に細菌が侵入し、全身症状がでる疾患)を発症します。敗血症の症状が進行すると多臓器不全となり、最悪の場合は死に至るケースもあるのです。

エンドトキシン…菌から放出される、発熱などの炎症作用を持つ毒素。

サイトカイン…細胞から分泌されるたんぱく質の総称。

腹腔内の臓器から腹膜に炎症が波及する場合

腹腔内臓器の炎症が腹膜に移ることで腹膜炎を起こすケースもあります。腹膜炎の原因となる腹腔内臓器の炎症として、腸閉塞や胆嚢炎、虫垂炎、急性膵炎、女性の場合は、子宮外妊娠などが挙げられます。

がんが原因で腹膜炎になる場合も

がんが腹膜炎の誘因になることもあります。腹腔そのものががんになる可能性はほとんどなく、多くは、胃がんなどの腹腔内のがんが腹膜に転移する腹膜播種によるものです。以前までは、がん細胞が腹腔内に落下することで腹膜播種が起こると考えられていました。しかし最近では、がん細胞が細いリンパ管を流れ、腹膜のリンパ管へ到達して結節をつくることが、がんによる腹膜炎の原因ではないかともいわれています。

腹膜炎を発症する原因としては上記以外にも、交通事故で腹部を強く打撲するなどの外傷性、また、現在はほとんどありませんが、手術後にガーゼなどの異物を残してしまうなどの医原性のものもあります。

腹膜炎になりやすい方

腹膜炎は子どもから高齢者までどの年代の方でも発症する可能性があります。10〜20代の若年の方でも、受験勉強や仕事などのストレスが原因で消化管が穿孔を起こし、腹膜炎になることもあります。高齢者の方の場合、大腸がんの方、宿便性潰瘍*の方は特に腹膜炎への注意が必要です。

宿便性潰瘍…便秘や硬い便によって腸が圧迫されたことによって虚血(血液が減少した状態)し、潰瘍となる疾患。

また、痛み止めの薬である非ステロイド性抗炎症薬は、副作用として消化性潰瘍*を起こす可能性があります。そのため、常備薬として服用している方も注意してください。

消化性潰瘍…胃酸が主な原因となり潰瘍を起こす疾患。