古本屋のうたた寝、本の音 改め


 足のかかとが割れて痛いのがなかなか治らない。一昨年の冬から春にかけて寒い時期になれば足の裏からかかとがひび割れて血も滲み、痛くて歩けなくなる。青森にいたときは、古本屋の近くの皮膚科に行って、軟膏をもらってつけていたが、効かない。医者は100番の紙ヤスリで削ればいいと教えてくれたので、紙ヤスリを買ってきて、足のかかとや裏の角質をそれで削った。医者は治らないと言う。体質だからと言う。思えば、うちの親父がそうであった。生きているときは、いつも足の裏を掻いていて、ぼりぼりと皮を剥いていた。それが部屋に散る。掃除をすると、部屋が白くなっているのは、他に脛の皮膚が痒いと掻くからだ。老人になると、皮膚が乾燥するが、我が家の遺伝か、姉も乾燥肌で、冬は特に肌が乾燥して、痒くなる。親父を外科に連れて行って、痒み止めの薬をもらってきて足に塗った。年寄になると大変なんだなと、他人事のように思っていたのが我が身にも降りかかってきたとは。
 親父は毎日掃除をしても部屋に皮膚が細かく白く散るので、足を見たら痛い痛いしい。掻いた跡が傷だらけで血が滲んでいる。いま、自分も同じことになっている。
 二年前に県病で糖尿病の疑いで検査入院をしたときに、フットケアの講習も受けて指導された。それで、足を調べたが、別に水虫ではなく、ただ乾燥肌ということになる。尿素入りのクリームを売店で買ってきて毎日朝晩塗った。しかも、病院の風呂場の前には、足だけをお湯で洗える設備もあって、それを毎日続けた。いままでは、自分の足なんか、眼中になかったのが、そのときから、保湿クリームと角質を取るということを毎日続けている。だから、足はきっと何もしない人よりはいつも綺麗で清潔なのだが、それでも治らないのはなんともしようがない。

 去年の暮れに帯状疱疹になって、小石川の整形外科で皮膚科もしている近くの医院に行った。帯状疱疹のついでに足の裏も見てもらった。水虫の検査もしてくれて、その場で皮膚を採取すると顕微鏡で見て、すぐに解るのだ。水虫ではないと言われたが、やはり体質か。まめに手入れするよりないと、同じようなワセリンのような半透明の軟膏と、痒み止めの白いクリームを処方してもらう。それも全部使いきるまで続けたが、一向に効果がない。相変わらず、割れて痛い。歩くのが困難になるほどだ。
 去年の五月にヨーロッパに旅行したときは、そうでもなかったが、やはり暑い季節はいいようで、東京に出てきて、秋からおかしくなる。
 親父の90歳の誕生会のときにプレゼントした足湯のセットが、結局は親父は使わずに死んだが、それもわたしは親戚に売ってしまった。新品で一度も使っていなかった。いま思えば、売らないで自分が使ったらよかった。
 いまは、毎日のように、お湯をポットで沸かして、それを洗面器に入れ、両足を突っ込んで、暖まるまで本を読んだりしていた。それから軽石で削る。削るのも傷口だから痛くてたまらない。見たら左右のかかとだけで7か所もある。それでも歩かないといけない仕事だから、通勤も入れて、一日10キロ以上の歩きは辛い。かかとが地面につかないように、つま先だけで歩くようになる。それはそれで運動としてはいいようだ。だけど、今度は足のふくらはぎに負担がかかり、夜中に寝ていたら吊ったりする。
 市販のいろんなクリームを買ってきて試しても効かないが、もう少し暑くなるまで待たないといけない。去年も春先までダメで、夏はよかった。夏はどうしても足の裏まで汗をかく。それと、サンダル履きが多くなる。早く夏にならないかと思う。わたしの体は夏をいつも求めている。夏向きなのは足の裏もだ。冬が嫌いなのは、全身が乾燥するからだ。

 足の裏の皮の厚さには驚く。それでいて体の中で一番デリケートなのだ。あの皮で何かクラフトでも作れるのではないか。ブックカバーだとか、ランプシェードだとか、これはわたしの足の裏の皮です。水虫はありませんと、注意書きがしてあったら、面白い。
 いろいろと薬を試したが、なんとかコロンという傷口をセメンダインのようなもので接着するのが一番いい。出がけにいつもそれを傷口に塗っておくと、バンドエイドも取れるし、効かないのでいらなくなる。さらにティッシュをクッションにして靴下との間に挟んでおく。
 そんなこんなで、足の裏には苦労している。足の裏も痒くなり、脛だけでなく、皮膚がぼろほろ。そこにも痒み止めのクリームを塗る。だんだんと親父の気持ちが解ってくる。叔父もいまはそれで、一族の血統か。

 食べ物も関係していないかと思う。減量するために、油抜きの食事ばかりしていた。揚物は好きだが、ずっと何年も油を使わない食事ばかりしてきた。肉もできるだけ食べないで、ベジタリアンに徹してきたのがいけなかったか。いまは、オリーブオイルはよく使うし、前からエコナなどのサラダ油で揚げ物もする。メンチカツもこの前は作ったが、あれは売っているものより自分で作ったほうが遥かに美味しい。トンカツもコロッケも好きなので、我慢しないで食べることにした。てんぷらもやってみる。お惣菜でひとつ80円100円としているのを買うほどくだらないものはない。第一揚げたてでなければ美味しくはないし、あんなもの、野菜天などは、簡単に安くできるではないか。わたしは天ぷらも好きなのだが、我慢していた。今度からは我慢しないことにする。体にも潤滑油がいる。動物性のタンパク質もいるだろうと、豚肉が安いときに買ってきて、キムチも安いときに買い、豚キムチやチャーハンにしたり鍋にしたりしている。肉も食べよう。痩せることばかり考えて、何か体に異変が起こったような気もしていた。バランスのとれた食生活だと、反省している。

 手のがさがさは治ってきた。爪も割れて、指先も割れる。血が滲む。いまの掃除の仕事ではゴム手袋をずっとはめているので、直接水仕事ではない。古本屋での仕事は、マジックリンなど本の汚れ落としのために手袋もなく直付けでやっていたので爪も指先も荒れる。
 足の裏は普段は見えないが、人間にとっては大事だ。それがないと歩けない。旅行にも行けないし、散歩もできない。わたしのようにあちこちふらふらと散策する者にとって足の裏は顔と同じくらい大事で、厚顔無恥の顔はいいが、足も少しは顔を見倣ったらどうなんだと、たまに言い聞かせている。


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